芸歴2年目・サンミュージック所属のお笑い芸人、シャンソン姉さん(愛称・シャン姉)。メイクやファッションも個性的で、まさに唯一無二といった感じ。我が家のネコさんも間違いなくシャン姉ファンで、K-MIX(静岡FM局)のラジオ番組『シャンソン姉さんのハナタにハリガトネ~』が始まると、直前まで寝ていても飛んできます!
シャンソン、つまりフランスの歌を歌っているのだから、フランス文化好きで、グッズやサイトもフランス風なのかと思いきや……あれ? これは浮世絵? 鳥獣戯画? 花札……? ううむ、本格的に意味不明……。
あまりにも気になって気になって、その真相を突き止めるべく、根掘り葉掘りお話をうかがってみました!

シャンソン姉さん(公式サイトより)
世にも珍しい『シャンソン漫談家』‥シャンソン姉さん!愛称は『シャン姉』。
美しい旋律の有名シャンソン曲を重厚な歌声で聴かせ‥お客様を酔わせておきながら、絶妙なタイミングで挟み込まれる軽妙な漫談が噂の的!気品を感じさせる独特な雰囲気に引き込まれ、あっという間にギュッと心を掴まれる。
シャン姉は話し方も個性的。たとえば、「ありがとう」は「ハリガトネ~」、「わたくし」は「ハタクシ」、語尾がセクシーに上がったり、促音(小さな「っ」)は普通の「つ」になったり。
本当は音声付き映像でお聞きいただけたら、シャン姉のすてきな声も、取材らしからぬスタッフ陣の爆笑も、余すところなくお届けできたのですが。
けれど、シャン姉の声は、テレビやラジオなどで耳にする機会も増えてきましたし、YouTubeでも楽しむことができます。文字にしたからこそのおもしろさを、なんとか引き出せたらなあ、と願いつつ、インタビュー記事スタートなのヨ~!
シャンソン姉さんのサイトは、自作イラストが盛りだくさん!
―― シャン姉のサイトを拝見しましたが、自作イラストがたくさん載っていて、とても楽しくなります。絵は昔からお好きだったのでしょうか?
シャンソン姉さん(以下、シャン姉):もともと漫画家になりたくて、小さな頃からイラストを描いていたワ~。少女漫画雑誌をよく買っていて、小学校6年から中学2、3年までカシラ、漫画やイラストを描く用のノートも作っていたノヨ~。そのうちノートは8冊目になって、徐々にチヤント上手くなっているのは分かったのだケレド、背景とかの人物以外を描くのがともかく大変で。ああ、これは漫画家は無理だワ、と思ったのヨネ~。
―― なんと、そんな昔から描いておられたのですね!


シャン姉:けど、シャン姉のグッズを作ろうとしたときに、それまでハタクシが描いていたイラストじゃあ、個性も価値もないナア、と思ったワ~。だからどうしようカシラ~と考えていたら、あ、浮世絵だ! と思いついたノヨ~。
―― (若干話の脈絡が見えないけれど……)どうして「浮世絵」だったのでしょう?
シャン姉:分からないの。分からないノヨ。いろいろ考えてみたんだケレド、どうしてなのか、自分でも……。絵はもともと好きで、高校生のときにはピカソの『ゲルニカ』にハマってグッズを部屋に飾ったりしていたし、ドガやダリなんかも好きだった。宇野 亞喜良(うの あきら)さんの作品も大好きヨ。

―― 少し陰のある独自の世界観の作品ばかりですね。余計に浮世絵にたどり着いた理由が分からなくなりました……。
シャン姉:そうネエ、ハタクシも「シャンソン」姉さんなんだから、フランス風の絵にすれば良かったカシラ~、とは思ってるワ~(笑)
―― それだと、こうして取材でお会いできる機会がなかったと思うので、個人的には浮世絵にしてくれてハリガトネ~! と思っています(笑)
『鳥獣戯画』を繰り返し模写! その理由とは?
―― シャン姉は、かわいい動物の絵も描かれていますよね。あれもとても日本的な雰囲気があるように思うのですが。

シャン姉:実は、あのハムスターの絵こそが、今の画風の出発点なのヨ~。ハタクシのネタに『愛の讃歌』でハムスター漫談というのがあるのだケレド、お客様に、そのハムスターのオリジナルグッズを作って欲しいと言っていただけて。だから、ネタに合うようなイラストでグッズを作って使おうと思ったの。だけれど、難しくてなかなか納得いくように描けなくて……じゃあ『鳥獣戯画』を模写して自分のものにできたら、素敵なものができるんじゃあないカシラ、と。

―― 『鳥獣戯画』を自分のものに……それはまた時間も手間もかかる、大変な作業だったのではないでしょうか。
シャン姉:ハワワ~ン、大変は大変だったケレド、ウサギの毛の流れとか見ながら、オリジナルのハムスターイラストを完成できたし、カエルに関してはもうスムーズに描けるノヨ~!

―― (スタッフ一同、身を寄せ合うモルモットのように集合、イラスト凝視)こうなるまでの苦労は、半端なものではなかったでしょうね。これはすごい……。
『鳥獣戯画』はとんでもない……それと、筆ペンの底力
―― 繰り返し自分のものにできるまで模写されたことで、気づいたことはありましたか?
シャン姉:そうネエ。やればやるほど、意味不明、とは思ったワ。だって、実際にウサギもカエルもこんな姿勢をすることはないデショ? なのに、まるで目の前のものを写したみたいに自然で躍動感があって、耳と体のバランスも完璧。もうね、天才の仕事としか思えなかったワ~。
―― 漫画の神様・手塚治虫も、何百年も前にこんなに漫画の技法として完成されたものがあったんだ、全部この時点でやられてしまっているじゃないか、とショックを受けたといいます。デッサンが素晴らしく、ためらう線もなくて勢いがあるから、絵を知り尽くした教養のある人が描いたのだろう、と(1982年放送 NHK『日曜美術館』より)。シャン姉も同じことを感じたのですね。

シャン姉:もう1つ、これは気付いたというか道具のほうのホ話なのだケレド。自分の好きな筆ペンを発見したワ~。
―― 筆ペン、ですか。
シャン姉:筆ペンって、先端が普通のペンみたいに硬いワケじゃないから、いつでもだれでも同じ線が描けるものじゃないデショ? 筆に近いテイストで、かすれとかも出る。どの用途のときにどの筆ペンを使うといいかとか、たくさん試して、イラスト用、宛名書き用、デザイン性の高い文字用とか、自分のお気に入りを見つけたワ~。
―― なんと。筆ペンの使い分けについて、今までそんなに深く考えたことがありませんでした……。
シャン姉:宛名書きは、かすれが強く出ちゃったら読みにくくて配達のかたを困らせちゃうデショ? だから、かすれが出にくい硬めの筆ペン、とか。誰かがいい筆ペンを使っていたら、今も「それどこの?」ツテ突撃しちゃうこともしばしばなのヨ~。案内状や感謝状トカの飾りで筆ペンを使っていることも多いワ~。

―― これが届いたら、間違いなく笑顔になってしまいます!
浮世絵ツテ、花札ツテ、すごいワ~!
―― 改めて、浮世絵のお話を。きっかけは不明とのことですが、ずっとこの画風を続けていることには、やはり理由があるのではないかと。
シャン姉:そうネ~。ハタクシ、人物も全部がうまく描けるワケじゃなくて、お手本を探していたのネ。浮世絵ツテ、右を向いたり左を向いたり、いろいろな角度で描かれているデショ。だからちょうど良くて。本にトレーシングペーパーを当ててトレースして、勉強したワ。浮世絵ツテ、構図に色気があるし、着物の柄トカ模様も素敵デショ? 自分じゃ思いつかないデザインだし、著作権ももう切れているものがほとんどだから、ポーズとか模様とか、使わせてもらったのも多いノヨ~。

シャン姉:それと、花札。背景のデザインをどうしようか考えたとき、『鳥獣戯画』だとチョツト寂しくて、浮世絵だとものすごく大変だけどそこまで派手でもなくて。花札は色も派手で、構図もそんなに複雑じゃないから、これだ! と思ツタワ~。舞台で芸をやっているツテことは、見せ物であることが仕事で、だからステージでの見た目もそうだし、私服もなるべく派手にしてみたり。あらゆる面で「見せ方」をよく考える必要があって、だからイラストもそこを大切にしているワ~。


舞台は「プロレス」! シャンソン姉さんの素顔とは?
舞台上では、お笑い芸人仲間と遠慮のないやり取りをしたり、観客いじりしたりもするというシャンソン姉さん。それが「見せ方」ということなのだと思いますが、お話をうかがっていると、かなり繊細で物事を深く考えておられるのがよく分かりました。
「舞台はプロレスのリング。そう先輩に教えてもらって確信を持てたのだけど、遠慮のないやり取りをするのが“シャン姉”的には正解だと思っていて。でも、舞台を降りたら、実はあんなこと言えない性格なのヨネ~」。
八方美人で嫌われたくないからヨ~、ただの自己保身ン~、とシャン姉は苦笑していましたが、それだけではない事は明らか。

「個性的でアートとして成立するものでなければ、華やかでインパクトのあるものでなければ、グッズにはできない」。そんな視点は、まるで能楽を大成させた世阿弥(ぜあみ)の言葉「離見の見(りけんのけん。自分自身を、離れた場所から観察するように客観視すること)」を思わせます。
どうして浮世絵風の画風を選んだのですか? という質問にも、それらしいことを後付けして答えることだってできたはず。でも、そうはしなかった。「こんな答えで大丈夫カシラ、ちゃんと記事になるお話をできているカシラ……」と不安げな顔をしながらも、あくまで誠実に、言葉を1つ1つ選びながら話してくださいました。

お笑い芸人をやっていて良かったと思うのは、自分が持っている「一番大きな荷物(=自分を見てほしいという気持ち)」を隠さなくていいこと、だそう。お笑い芸人になる前、俳優をやっていたときには、あくまで役を演じるのであって「自分」を出してはいけないことに少しフラストレーションを感じていたのだとか。
そうした感情を自分で認めて口にするのは、なかなか難しいこと。シャン姉の芯の強さが窺えます。
「お坊シャン」と呼ばれる、ラジオリスナーへの哲学的な回答も、ご自身では「説教臭い」と謙遜しておられましたが、どうやらこの「お坊シャンモード」の密かなファンも少なからずいる模様ですよ? シャン姉。

破天荒なようでいて、非常に思慮深く、理知的。言葉を口にする重みも諸刃の剣であることも知っていて、遥か上空から地上を見渡す鳥のように自らの言動を客観視する。
そんなシャン姉だからこそ、芸歴2年目にして既に熱烈なファンが少なからずついているのではないでしょうか。いつか、宮大工に弟子入りして学びたいワ~、とおっしゃっていた神社建築の魅力についてもお聞きしたくなりました!
シャンソン姉さん 情報
シャン姉の今後の予定もわかる公式サイト https://nyakuzaki.localinfo.jp/pages/2512847/schedule
あの「ハムスターネタ」も観られるYouTube https://www.youtube.com/channel/UCK8zre_eEy97rrlK8I-A-7g
撮影/目黒智子

