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2024.06.11

エロガッパ・犬も食わない・「オタンチン、パレオロガス」…ちょっと笑える日本の悪口集

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和樂web編集部は、別にカッパ推しではない。が、気づけばなぜか、わらわらとカッパ記事が出没している(しかも、どれも人気記事だ)。
うわあ、こっち見るなカッパ記事。

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メインテーマではないものやカッパ的なものも含めると、大変な騒ぎになる。
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何でなんだろうか、エロだけど、そこまでどぎつく見えないからなんだろうか。カッパらのやってることはなかなかのものだけれどもなあ。あ、弊編集部、エロは「生きることそのもの」と捉えて推してます。

そのへんの経緯はこちら。
南冲尋定(なんちゅうえろさだ)は実在したのか? 一人で混乱してみた

なぜか笑える悪口が、日本語にはある

ところで。というか、ここからが本題なのだが、悪口なのになぜか笑ってしまうものってないだろうか。「エロガッパ」というのは立派な悪口なのだが、なぜかむっとするより先にちょっと笑ってしまう。
最近知って気に入っているのが「うるせえ、カピバラぶつけるぞ」。初めて聞いたときには何のこっちゃと思ったのだが、これはネットスラングで、ぶつけるものにはいくつかレパートリーがあるようだ。罵倒以外の何物でもないはずなのに、一瞬にして怒る気が失せる。なんだよカピバラぶつける、って。

こちらがカピバラさん。日本ではこんな風に温泉に入る姿が有名。案外毛は硬いし重量もあるので、ぶつけられたら確かに痛いかもしれないが、この穏やかな平和主義者をリアルな人間の争いに巻き込むのはやめよう

一応言っておくが、基本的に悪口は相手を傷つけるためのものなので、奨励はできない。ただ、噴き出すないし脱力してしまうような愉快なもの・へえ、と感心してしまうようなものが、昔から日本にはある。
今回は、そんなフレーズたちをご紹介していこうと思う。

エロと食欲とお金と……欲望にまみれているから愛おしい? 日本の悪口

エロガッパ

冒頭の記事を見ていただけたら分かるのだが、カッパはエロい。そして生臭い。好色な人を指す悪口だ(初めて言った人については諸説あるよう)。
ただ、何だかんだカッパは愛されているようで、この言葉にもちょっとそれがにじみ出ているように思える。

煮ても焼いても食えない

どうやっても思うように扱えない、手に負えない、という意味。たいてい人に対して使われる。
なぜ、食べようとするんだ。

口から先に生まれる

おしゃべりな人、口がうまい人のこと。好ましく思っているわけではない、という表現ではあるものの、どこか笑顔(苦笑だが)が垣間見える(ような気がする)。
しかし、先に生まれたから達者であるとは限らないのもまた世のことわりである。

地獄の沙汰も金次第

地獄の裁判ですら金を出せば有利になるのだから、この世は何事も金に左右されてしまう、金さえあれば思うがまま、という、諦めに近い言い回し。嗚呼、世知辛いねえ。

ところで閻魔大王様、地獄の汚職を暴かれているわけですが、放っておいていいんですか?

犬も食わない

なんでも食べる犬ですら食べない、馬鹿げている、ということ。「夫婦喧嘩は犬も食わない」と使うことが多い。

しかし、愛犬家のかたはご存知だろうが、犬に食べさせてはいけないものというのはけっこうたくさんある。本当に「なんでも」食べてしまうのは、他ならぬ人間だ。

勿怪(もっけ)の幸い

「もっけ」という響きが愛らしく感じられるのだが、勿怪の幸いとは、もっけとは……それは以下リンクでご確認いただこう。

もっけの幸いの「もっけ」って何?夏の定番、涼しいアレ!

とうしろう

素人の意味。「とうしろ」とも言う。業界用語のように語順をひっくり返したもので、人名に見立てている。
漢字で書くと「藤四郎」だが、鎌倉時代の有名な刀鍛冶「粟田口藤四郎吉光」や、瀬戸焼の祖とされる加藤四郎左衛門景正(略称・藤四郎)とは無関係。とばっちりを受けた「とうしろう」さんにとってはいい迷惑。

とんぼにサの字

気障(きざ)の意味。カタカナの「キ」の字がとんぼの姿に似ていることからの言い回しで、坂口安吾の『安愚楽鍋』にも見られる。

令和世代のみならず、昭和20年代生まれの我が親ですら知らなかった、今は昔なおしゃれ表現。

千三つ(せんみつ)

千あるうちの3つ程度しかない、極めて確率の低い事柄を言う。
統計学用語だと思い込んでいたのだが、その他の業界でも使われるほか、日本各地で、本当のことをほとんど言わない「うそつき」「口先だけの人」の罵倒語としても使われているようだ。

ちなみに、お笑いタレントせんだみつおさんの芸名の由来が、これなんだとか。あんみつとは関係がない。

これは「ママ」でOKですか? 文豪先生

言葉を巧みに操るのが仕事な作家たちも、なかなかに毒舌だ。先生、こちらママで(修正なしで)よろしいでしょうか……。
ごく一部ではあるが、晒し――ご紹介しよう。

「青鯖が空に浮んだような顔をしやがって」

詩人の中原中也が太宰治に吐いた罵倒だ。草野心平・檀一夫とともに4人で酒を飲んでいて、酔いが回り始めたときの出来事だったという。
未熟者の「青い」とかけて年下の太宰を罵ったものだが、個人的にはなんとなく分かるようでいてよく分からない。

中也は教科書にも載っている透明で美しい詩『汚れつちまつた悲しみに……』の作者だが、作風とは裏腹に大変口が悪かったようだ。いろいろな方面へ毒を吐きまくっている。

「蛞蝓(なめくじ)みたいにてらてらした奴で、とてもつきあえた代物ではない」

しかし、けなされた太宰も黙っちゃいなかった。といっても、その場で言い返したわけではない。騒動の後に、檀一夫にこうこぼしたという。「蛞蝓(なめくじ)みたいにてらてらした奴で、とてもつきあえた代物ではない」。それまで中也をとても尊敬していたそうだから、しょげ返った姿が目に浮かぶようだ。

中也のもの同様、非常に抽象的ではあるのだが、なぜだろう、太宰の感情と共にイメージがよく伝わってくる気がする。

「非常にイゴメーニアックなあの調子が」

武者小路実篤に対する、本間久雄の批判である。
一文まるごと引用すると、

「あの、自分ばかりいい気になって、何でもかんでも突き破って行こうとする猪進的な、その上非常にイゴメーニアックなあの調子が、私には耐えがたく不快であったのです」

である。イゴメーニアックはエゴ・自己中、猪進は猪突猛進のこと。

武者小路実篤は著書『お目出たき人』の中で「自分の満足のための文芸というのが存在するのであって、私の感性についてこられない人は、私の本を買う資格も読む資格もない」といった趣旨の発言をしている。買う資格も読む資格もない、とは現代であってもドン引きしてしまいそうな主張だが、彼らの生きた明治の文壇においては、もっと深刻な鼻持ちならない態度だったようだ。

イゴメーニアックうんぬんの発言は本間久雄のものだが、これだけを見て本間を責めるとすれば、あまりに短絡的だろう。

「刺す。」

シンプルすぎて逆に笑える、太宰治の発言。太宰、三たび登場。どうしても欲しい芥川賞を受賞できなかった太宰が、選考委員の1人であった川端康成へ向けて綴った恨み言のワンフレーズだ。
当人たちにしてみれば、まったく笑いごとではないのだろうが、妙なおかしさがこみ上げてくる。

なお、これを含む一連の文章は、以下のように締めくくられている。

あなたは、作家というものは「間抜け」の中で生きているものだということを、もっとはっきり意識してかからなければいけない。

こんな含蓄に富んだ文章を書く人の放ったひと言だから、やっぱり笑ってはいけないんだが笑ってしまう。

ただ、太宰はわりにこういう直接的な心情表現を好んだらしい。金の無心をした相手に「貴兄に五十円ことわられたら、私、死にます。」と、脅迫のような文句を送り付けている。
もちろん、「刺す」にしてもこれにしても、実行する気はさらさらなく、そのくらいつらい気持ちなのだ、というのを伝えただけである。

番外編・「小生こんど競馬をやらうかと思つてゐますよ」

悪口ではないのだが、心が動いた文豪の発言を1つご紹介したい。

「小生こんど競馬をやらうかと思つてゐますよ」。坂口安吾の手紙の一節だ。ここだけ切り取ると別に何ということもないように思えるが、文脈を知ると大問題だった。借金返済をするつもりだったが、原稿料が入ってすぐ友人と全部飲んでしまったため叶わなくなった、という謝罪文の締めくくりが、これだからだ。

返済すべきお金をあっという間に使ってしまった、(余計に散財する可能性のある)競馬をやろうと思っています、と借金相手にしれっと書き送る神経たるや。怒りや呆れを通り越して、ずっこけてしまう。

「オタンチン、パレオロガス」

ラストは、夏目漱石先生で締めくくろう。
『吾輩は猫である』にも出てくる、夏目オリジナルの罵倒。「オタンチン」は「おたんこなす」と同じ意味だが、パレオロガスと組み合わせたこのフレーズに大した意味はないらしい。深読み説はあるものの、信頼に足るほどの根拠はないものばかりだという。

今こそ言おう。先生、「ちょっと何言ってるか分からないです」。

日本は「美しい国」か

日本には敬語表現が多く、悪口が少ない、と言われることもある。が、実際はそんなこともないのだろうというのが、『県別罵詈雑言辞典』編者による見解だ。ただ、現代における、個を仲間はずれにし、存在を抹殺するような集団いじめ、周囲には見えない形で行われる陰湿なものとは質が異なる、とも言っている。たしかに罵詈雑言は相手に真っ向勝負を挑んではいる、かもしれない。

これらを見ていて改めて思うのは、言葉というのは単なる意思伝達手段にとどまらないということだ。言い回しの妙・響きの妙を楽しみ、そのやり取りを楽しむ。だからこそ、それを口にする人の人間性までもが透けて見えてしまうのだろう。

それにしても、せいぜい1500字程度の軽い記事にしようと思っていたのが、気づいたら4500字を超えてしまった。編集長にどんな悪口を言われるか、わくわく――もとい戦々恐々としている。

錚々たる文豪・作家たちの悪口の応酬は、本当に笑えますね。
「感情をストレートにぶつける→報復を恐れない=影で姑息に立ち回ることをよしとしない」
という構図が、潔くてなんだか憎めないのではないかと思います。
キザ極まりない武者小路実篤も冷静に見ればオマヌケだし、大文豪な風情の漱石の言い放つ「オタンチン」などは小学生レベルで爆笑です!
この人たちの共通点は“社会性の欠落”なのか。
そしてみんな、「悪口」の表現に感情がガッツリのっているのも見逃せません。
「刺す!」とか「なめくじ」とか「耐えがたく不快」とか…子供か!?
とはいえ、それでもなんだか文学的な風情をかもすあたりは、みなさんさすがの才気です。
そしてこの文豪・作家たちの悪口を紹介し始めたら筆が止まらず、
予定を3000字もオーバーして突っ走ってしまう執筆者もまた同じ。
社会性の欠落なのか、才気のなせるワザなのかは、読者が判断するでしょう。(by鈴木深編集長)

あ、案外許してもらえた? とか思っていたら、最後の最後でやっぱりやられた。面目次第もござらぬ……。

余談だが、この記事の資料を図書館にどっさり借りに行ったところ、司書さんがたに視線でもって大丈夫ですか? と心配された。ありがとう、心優しい人間たちよ。わたしは今日も笑顔で元気だ。

アイキャッチ画像:喜多川歌麿『山姥と金太郎(部分)』メトロポリタン美術館より

主要参考文献(順不同)
・奥山益朗・編『罵詈雑言辞典』東京堂出版
・真田信治、友定賢治(編)『県別罵詈雑言辞典』東京堂出版
・彩図社文芸部・編集『文豪たちの悪口本』
・山口謠司『文豪の悪態』朝日新聞出版
・山口謠司『文豪たちのずるい謝罪文』宝島社
・青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1607_13766.html)
・ジャパンナレッジ横断検索

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人生の総ては必然と信じる不動明王ファン。経歴に節操がなさすぎて不思議がられることがよくあるが、一期は夢よ、ただ狂へ。熱しやすく冷めにくく、息切れするよ、と周囲が呆れるような劫火の情熱を平気で10年単位で保てる高性能魔法瓶。日本刀剣は永遠の恋人。愛ハムスターに日々齧られるのが本業。