イケメンだって失敗する。『源氏物語』にみる、残念な恋の迷場面集

イケメンだって失敗する。『源氏物語』にみる、残念な恋の迷場面集

世界最古の長編小説『源氏物語』。日本で国語や古典を習った人なら誰でも一度は触れたことのある物語ですが、源氏物語を”読んだ”ことがある、という人にはめったにお目にかかれません。

中にはあまりの難しさから、古典の授業ですっかりトラウマになってしまった人も多いのでは? でも、源氏物語には、実はクスッと笑えるような面白いシーンや、現代の私たちでも共感できる内容がたくさんあるんです。

「源氏物語を、もっと身近に感じてもらって、もっとたくさんの人に読んでほしい!」そんな思いから、源氏物語で多数繰り広げられる恋愛シーンの中でも、ちょっと残念な迷場面に焦点を当てて、大学で4年間源氏物語について学んだ私がご紹介します。

絶世のイケメンでしかも帝の息子。手に入らないものは何もないようなハイスペック主人公「光源氏」でも、恋愛には数々の失敗がありました。この記事を通して、少しでも源氏物語を身近に感じていただけますように!

そもそも『源氏物語』って何だっけ

京都府宇治市の紫式部像

簡単にちょっとだけおさらいしましょう。『源氏物語』は、平安時代に紫式部という女性が書いた、世界最古の長編小説です。貴公子にしてプレイボーイの「光源氏」の恋愛をメインに書かれた内容で、巻数は『桐壺』の巻から始まる54帖からなり、文字数は約100万文字、原稿用紙に換算すると2,400枚分相当のボリュームです。
英語・中国語・韓国語・フランス語・ドイツ語など世界各国でも翻訳されており、1000年以上もの時を越えて世界中の人々を魅了しています。

源氏物語の恋の迷場面5連発!

難しい前置きはせずに、ここから光源氏の恋の迷場面を5つご紹介します。源氏物語の舞台となる平安時代と現代では時代背景や常識が異なるため、戸惑う部分もあるかと思いますが、そこは適宜突っ込みを入れながら、どうぞ温かな気持ちでお読みください。

『空蝉』の巻~光源氏、人妻に振られる~

『空蝉(うつせみ)』の巻は、光源氏17が才の頃を描いたもの。若く輝くように美しい光源氏に手に入らないものはなく、調子に乗った彼はなんと人妻にまで接近します。その女性の名前が空蝉です。

彼女は決して美人とは言えませんが、つつましく嗜みのある上品な女性で、そんなところに光源氏は惹かれていきます。しかし、そんなつつましい女性が簡単になびくはずもなく、寝床に忍び込んだところを逃げ出され、仕方なくその場にいた別の女性と一夜をともにします。振られたからと言って何もせず帰ってしまっては、イケメン貴公子のメンツが保たれないと思ったのでしょうか・・・。

現代の私たちからすると、そもそも人妻にちょっかいを出していいのか疑問に思いますが、当時は光源氏レベルがお相手ともなると、身分の低い夫は妻を寝取られても文句のひとつすら言えなかったのです。

空蝉とは蝉の抜け殻を意味する言葉で、彼女が蝉の抜け殻のように衣服だけ残し、寝床から立ち去ってしまったことからこの名が付けられました。光源氏はその残された衣服をこっそり持ち帰ります。ちょっとストーカーじみていて怖いですね。

『末摘花』の巻~光源氏、絶世の不細工と恋人になる~

『末摘花(すえつむはな)』の巻では、光源氏は18~19才。既に恋人のひとりを亡くすなど辛い恋愛も経験していますが、凝りもせず美女を追い求めます。そんな光源氏が目を付けたのが、落ちぶれた宮家のお姫様。光源氏の中では「寂しい生活を送るはかなげな美女」と勝手に脳内でイメージされ、ライバルの男性と競うようにアタックします。

ついにライバルを出し抜いて姫君と恋人になりますが、明るい場所でよく顔を見ると、鼻が伸び、その先端が真っ赤に染まった異様に醜い女性が・・・。この鼻が紅花の別名である『末摘花』という名の由来です。しかも彼女は驚くほど世間離れしていて、手紙や服装のセンスも最悪。それでも光源氏は彼女を見捨てることなく、貧しい彼女の世話をし続けました。プレイボーイならではの心の余裕とでもいうのでしょうか。

国立国会図書館デジタルコレクションより 源氏物語絵巻 藤原隆能 著[他] 出版:徳川美術館

こちらの絵巻は『蓬生(よもぎう)』の巻で、久しぶりに光源氏が末摘花のもとを訪ねたシーンです。右手に見える家屋がボロボロなのにお気づきでしょうか。光源氏が左遷されている間末摘花はかなり困窮していましたが、一途に光源氏を待っていました。その姿に光源氏は心打たれ、彼女を生涯を通じて支援したのです。

『花宴』の巻~光源氏、政敵の娘に手を出し島流しに~

『花宴(はなのえん)』の巻では、光源氏は20才になっています。宮中で桜の宴が催され、その帰りに自分の実の父の若妻にやましい気持ちで会いに行こうとしたところ、通りがかったのが朧月夜(おぼろづきよ)という女性。この女性は、光源氏の失脚を狙う政敵の娘でした。しかしそんなことにお構いなく光源氏は朧月夜と関係を結びます。

光源氏の左遷先、美しい須磨の浦

これに怒ったのは朧月夜の父親の右大臣です。右大臣は朧月夜を皇太子へ嫁がせるつもりだったのに、光源氏に手出しされたことでその計画が白紙になってしまいました。右大臣家を怒らせた光源氏は、京都から須磨(現在の兵庫県神戸市須磨区)に島流し同然に移り住むことに・・・。しかし光源氏はたくましくも島流し先で新しい恋人を見つけました。ただでは転ばない光源氏、アッパレです。

『柏木』の巻~妻の不倫相手の子をわが子として育てるハメに~

『柏木(かしわぎ)』の巻では、一気に時代が飛んで光源氏は48才になっています。この頃光源氏は親子ほど年の離れた女性を妻として迎えていますが、なんとその妻は同年代の若い男性と不倫関係に。

国立国会図書館デジタルコレクションより 源氏物語絵巻.  世尊寺伊房 詞書[他] 和田正尚 模写

こちらの絵巻は、光源氏が妻の不倫相手の子どもをわが子として抱き上げるシーンです。光源氏にはすでにたくさんの孫がいましたが、その実の孫たちよりも美しく感じられるこの子に、何とも複雑な胸中。晩年にしてこのような仕打ちにあうとは、過去の奔放な恋のしっぺ返しがまとめてやってきたのでは・・・と考えてしまいます。

ちなみに不倫相手の男性は、光源氏に不倫を知られたことから精神的に参ってしまい、若くして命を落としてしまいました。

『夕霧』の巻~光源氏の息子は、二股すら下手くそ~

『夕霧(ゆうぎり)』の巻は、光源氏の息子夕霧の織りなすストーリーです。夕霧は妻一筋の真面目な男として有名でしたが、子だくさん(7~8人!)な妻が育児にかまけていることに嫌気がさし、しとやかな未亡人に恋をします。

国立国会図書館デジタルコレクションより 源氏物語絵巻 世尊寺伊房 詞書[他] 和田正尚 模写

その未亡人から贈られた手紙を夕霧が読もうとしているところ、背後から忍び寄るのは正妻の雲居雁(くもいのかり)。なんと、夫の浮気の手紙を背後から奪い取ろうという訳です。現代なら夫のスマホを就寝中や入浴中に覗くのがセオリーですが、雲居雁は真っ正面(真っ背後?)から戦おうとする強い女性。少しでもフットワークを軽くするためか、雲居雁は下着姿(※諸説あり)。あえなく夕霧は手紙を奪い取られてしまうのです。

プレイボーイの父と違って、二股すら上手にできないその息子。ちなみに子どもをもうけた愛人はほかにいましたが、身分が違う女性はほぼノーカウント扱いでした・・・。

光源氏が浮き彫りにする、女性たちの美しさ

まだまだ面白いシーンはたくさんありますが、今回はおかしな恋に焦点を当ててご紹介しました。源氏物語の面白いところは、プレイボーイ光源氏が数多くの女性と関わることで、その女性一人ひとりの感性や芯の強さ、心の内面などが浮き彫りにされ、どの女性も「美しい」と感じられる点です。

源氏物語は非常に長~い物語なので、全部を読むのはちょっと大変かもしれませんが、これからも源氏物語に少しでも興味を持っていただけるよう、面白いシーンをピックアップしてご紹介していきます。

▼源氏物語のあらすじはこちらでチェック!
源氏物語あらすじ全まとめ。現代語訳や原文を読む前におさらい

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