盆栽の聖地は埼玉にあった。さいたま市大宮盆栽美術館 訪問レポート

盆栽の聖地は埼玉にあった。さいたま市大宮盆栽美術館 訪問レポート

目次

美術館は美術館でも、今回ご紹介するのは、生きている芸術作品こと盆栽に特化した珍しい美術館。「さいたま市大宮盆栽美術館」の訪問レポートをお届けします。

さいたま市大宮盆栽美術館とは?

2010年、埼玉県さいたま市北区に開館した日本で唯一の盆栽に特化した公立美術館です。館内には盆栽をはじめ、盆器、水石、卓(しょく)※ といった盆栽関連の美術品、絵画資料や歴史・民俗資料等が展示されています。年間の来場者数は、約72,000人(平成30年度)。国内外の盆栽ファンをはじめ、多くの方が遠方から訪れます。

※卓・・・盆栽を置く台

なぜ盆栽の美術館が大宮に?

盆栽美術館が、大宮にある理由。それは、大宮が「盆栽の聖地」だから。

江戸時代には園芸が大変流行し、団子坂(文京区千駄木)周辺には大名屋敷などの庭造りをしていた植木職人が多く住んでいました。明治に入るとそこから盆栽師も生まれたのですが、水や土、場所の問題から、より盆栽に適した場所を求めるようになり始めました。そして1923年の関東大震災を機に、盆栽師たちは大宮へ集団で移住。何もなかった山林を切り拓き、自治共同体として「大宮盆栽村」を作り上げました。


1935頃に作られた盆栽村の観光地図。

大宮盆栽村は、盆栽づくりはもちろん、樹木の生育研究の場としても機能し、今日まで数々の逸品を生み出してきました。最盛期の1935年頃には約30の盆栽園がありましたが、現在は6園に縮小。しかし、今もこの一帯は世界で唯一無二の「盆栽の聖地」として知られ、日本のみならず世界中から多くの盆栽愛好家が訪れているのです。


平成元年から4年に一度世界各地で開催されている世界盆栽大会、記念すべき第1回は大宮で開催。2017年の8回目の大会で再び大宮にて開催された。写真は8回目の大会。

大宮盆栽美術館の所蔵盆栽数は?

そんな盆栽の聖地にあるこちらの盆栽美術館。所蔵されている盆栽は、約130鉢。推定樹齢100年以上の盆栽も多く所蔵されており、中には樹齢1000年の樹木もあります。訪問した5月上旬は、庭園に約60鉢、館内に10鉢、合計約70鉢が展示中。夏は水石の特集展示などで盆栽の展示数が少なくなることもありますが、常時約60鉢の盆栽を鑑賞することができます。


美術館専属の盆栽技師2名のほか、盆栽村の盆栽師たちの力を借りながら、毎日約130鉢の手入れが行われている。

大宮盆栽美術館の常設展と企画展

一般的な美術館と大きく異なる点は、屋内の常設展示の内容が1週間で変更されること。盆栽は風や日光のある外で育てることが基本のため、1週間の展示が限界なのです。屋外も含めて季節ごとに合わせた盆栽が展示されるため、訪れるたびに異なる作品を鑑賞することができます。

企画展は、3月に「春の花もの盆栽展」6月に「さつき展」など、季節に合わせた内容はもちろん、ここ2年は盆栽師に焦点を当てた企画も実施されています。2017年は、盆栽村にある芙蓉園の園主・竹山浩さんの個展、2018年は世界的な盆栽師・木村正彦さんの個展を開催。今年度は、2020年2月に盆栽村の園主の個展も計画されています。

大宮盆栽美術館で開催予定の展覧会やワークショップの一覧はこちら

大宮盆栽美術館の館内構成

ここからは、美術館の館内をぐるりとご紹介しましょう。

1.プロローグとギャラリー

館内に入り受付を終えると、廊下のように続くプロローグとギャラリーへと入場します。

プロローグには、盆器や水石、絵画資料などの所蔵品に関する説明が並び、続くギャラリーの壁には、写真とテキストで構成された解説パネルが数枚並んでいます。その内容は「盆栽の見方」「盆栽の技」など。盆栽初心者の方や海外からの来場者でも展示を楽しめるよう、盆栽のいろはが日英表記で解説されています。


鑑賞のコツまで解説されているのも、盆栽美術館ならではの親切なおもてなし。

ギャラリーに並ぶのは、5席の展示空間。こちらの展示は「席」という空間の単位をもって構成されており、仕切りのある小さな部屋が5つ連続して並んでいるような構成です。


盆栽は、それ自体の芸術性のみならず空間上のどこにどのように配置するかも非常に重要視される。1席ごとに盆栽だけでなくそのまわりの余白まで楽しめる。こちらは「獅子頭」というもみじ。春は青々とした葉が美しい。下から見上げると、大木の葉の間から陽の光を覗くような、春の山の光景を想起できる。

2.3種類の座敷

ギャラリーの奥にあるのが、3種類の形式に分けられた座敷。真(しん)・行(ぎょう)・草(そう)、中国の書道に由来する3つの伝統的な格式の異なる間に、盆栽と水石、書画が展示されています。

まず最初にあるのが「行の間」。近代以降に作られたほとんどの座敷に見られるスタンダードな形式です。模様木や花もの盆栽などを飾るのに適しています。


展示されていたのは「出猩々」というもみじ。青葉の美しい盆栽と薫風の書で、初夏の涼やかさを表現。

続いてが「草の間」。茶室に見られる形式で、限られたスペースながらも柱や框にそれぞれ異なった木を選ぶことで、変化に満ちた空間です。文人木など飄々とした動きのある盆栽が適しています。

そして最後に現れるのが「真の間」。最も格式の高い座敷で、床柱は柾目の杉、下框は黒漆塗り。床脇棚には、水石や香の道具など、さまざまな品を飾り置きます。格式の高い空間に合わせて、重厚感ある盆栽が多く飾られます。

この3種類の座敷は、ギャラリーでの展示とは異なる「空間としての盆栽」を学べるエリアでもあります。盆栽師には、インテリアや建築とも似た空間美術的なセンスも必要不可欠。この3種類の座敷を見て「日本的な空間の作り方が一番むずかしい!」とおっしゃる海外の来場者も多いんだそう。

3.企画展示室

本館を出て左手側、盆栽にまつわる資料や美術品の展示棟があります。

訪問時は企画展「大宮盆栽村の歴史」が開催中。盆栽村の成り立ちから現在の盆栽園の様子、盆栽が世界的に広まるきっかけとなった1964年の東京オリンピックにまつわる貴重な資料も展示されていました。

4.盆栽庭園

本館・企画展示室の中庭に位置するのが、盆栽庭園。はじめに現れるのは、撮影OKの展示コーナー。

訪れた2019年5月は令和の時代に突入したこともあり、明治・大正・昭和・平成・令和、各時代にゆかりのある盆栽の特別展示が行われていました。


「昭和」は、花梨(かりん)。総理大臣を務めた岸信介など錚々たる昭和の偉人たちが愛蔵してきた盆栽。


「平成」は、推定樹齢800年の真柏。盆栽界で最も権威ある展覧会「国風盆栽展」において平成元年に最高賞を受賞した作品。


そして「令和」は、万葉集の梅の花の歌にちなんだ、気品溢れる梅の古木。その推定樹齢、100年超。

撮影OKのエリアを進んでいくと、庭園の奥へ。※このエリアは通常時撮影NG。

キャプションを見ると、盆栽には「銘」といって、名前のついているものもいくつかあります。例えば、五葉松の「青龍」はその名の通り飛び上がる龍のような形をしていて、子どもからも人気の高い盆栽のひとつ。

盆栽の中には、公募で名付けられたものもあります。


2015年に公募で名付けられた黒松「獅子の舞」。

屋外に展示されている盆栽の一部は、360度すべての方向から見られる作品も。盆栽の正面と背面の違いも楽しめます。


大宮盆栽美術館最大の作品、五葉松「千代の松」。日のあたり方を調節するため回転式展示台に飾られている。

また本館2階にあるテラスからは、庭園を俯瞰して眺めることも可能です。

大宮盆栽美術館の限定グッズとお土産

美術館の最後を締めくくるのは、ミュージアムショップ。人気のお土産は、手ぬぐいとクリアファイル。ポストカードなどの定番グッズから、剪定鋏や盆栽用のミニ畳まで、ユニークなグッズが多くありました。


左上からマグネット、マスキングテープ、割り箸セット、メモ。


「盆栽だー!」どこか和樂の茶の間ラボで開発しているグッズと似た匂いを感じる…!

大宮盆栽美術館を巡ってみて

今回、大宮盆栽美術館に訪れたのは連休明けの平日午前。人の少ない時間かと思いきや、国内はもちろん海外からのお客様も非常に多く、世界レベルでの盆栽人気の高さを目の当たりにしました。
美術館は、解説パネルや音声ガイドで展示の見方からていねいに解説してくれるため、盆栽ファンのみならず楽しめる内容です。お庭を散策するように、季節ごとに展示の内容も見所も変化がある盆栽の美術館。ぜひ一度足を運んでみてください。

さいたま市大宮盆栽美術館 施設概要

住所:〒331-0804埼玉県さいたま市北区土呂町2-24-3
電話:048-780-2091
Webサイト: http://www.bonsai-art-museum.jp/

休館日:木曜日(祝日の場合は開館) ※年末年始、臨時休館日あり
開館時間:
3月-10月は9:00~16:30 ※入館は16:00まで
11月-2月は9:00~16:00 ※入館は15:30まで

アクセス:
JR宇都宮線「土呂駅」下車 東口より徒歩5分
東武アーバンパークライン「大宮公園駅」下車 徒歩10分

写真 / きむらゆう

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