青の魔力にとりつかれて
今回もらったお題は「瑠璃色」。瑠璃色とは、紫みのある深い「青」色のこと。古くは平安時代初期の「竹取物語」に「るりいろの水」という表記がある。
江戸時代に藍染めが爆発的に普及し、さまざまな表情の「青」が誕生。明治初期に来訪した多くの外国人たちを魅了した、豊かな色彩の「ジャパン・ブルー」のうちのひとつが瑠璃色。実際に色見本で比べてみると、日本の「青」はとても繊細で複雑。ポップで明るいフレンチブルーやかげりのないコバルトブルーとはまったく違う、奥行きのある繊細な色合いが、日本の「青」の深淵なる魅力だ。僕は、複雑な奥行きと影を宿すような「深い青」にどうしても惹かれてしまう。

ここからは個人的に大好物な「深みのある青」について語る。
奥行きのある、「深い青」には魔力が宿る
これがぼくの持論。
ジッと見ていると、わしづかみにされ、引き込まれ、逃れられない。
ゆえにこれまで、実に多くの「ディープな青」に散財!しかもなぜか僕が手に入れた様々な「青」アイテムは、問題(=闇?)を抱えていることが多く、なかなか一筋縄ではいかない。そこがまた「深い青」の魅力ではあるのだが。
僕の手持ちのダークブルー・アイテムの持つ問題(=闇)を、以下、具体的に紹介する。
フィレンツェのブランド“Pineider”の、ダークラピスラズリの万年筆
そもそも万年筆をイタリアブランドから選ぶこと自体に問題がある。なにせ実用性まるで無視の耽美主義なのだから(イタリア車といっしょ)。インクを吸い込む箇所のスポンジが痛みやすく、修理することたびたび。

しかし「深いブルー」の見た目は大変に美しく、どうしても手放せない!ちなみに使うインクの色は“PILOT”の「深海」という名の、ちょっとくすんだ闇のような暗さを持つ「深い青」。こちらは色も名前も極上だが、“Pineider”との相性は最悪wで、たびたびペン先がつまる、というトラブルが発生。
京都の染織ブランド“貴久樹”の、ダークな「青」の紬
インド・アッサム地方でとれる野蚕のシルクのみを使って織り上げられた繊細このうえない柔らかな生地は、着物を仕立てるだけで、とにかく大変な時間がかかった。やっとできあがってきた着物にうっかりスチームを当ててしまったら、その箇所の生地がのびてしまい、お直しが必要に!繊細すぎるにもほどがあるだろ!!

“DOLCE&GABBANA”のディープ・ブルーのタキシード
これは着ていて暑い! とても暑い!独特の玉虫のような光沢感をだすために、使用している素材はまさかのコットン。タキシードでコットンなんて異端児すぎだ。暑がりの僕にとって、これは厳しい。シルクやウールとはまったく違う通気性の悪さに閉口するが、フォーマルパーティの会場で、黒づくめの輩ばかりが右往左往している中でとてもよく目立つので、登場回数は多い。

名刺入れも小銭入れもパスケースもケータイのケースも、深い「青」
どれもこれもバッグの中に埋もれてさがせません。

くすんだ「青」のレザーライダースジャケット
本気のバイク乗りのためのブランド“JAMES GROSE”のライダースジャケトは、カウハイドレザー(生後2年までの、出産を経験したメス牛の革)で、とにかく重い!しかもピッタピタのジャストサイズでつくったため、動きづらい!電車のつり革もつかめません!
とはいえ多くの人が「黒」一択で着るライダースジャケットを、あえて深みのあるくすんだ「青」で着る至福はこれまた格別。

ファーコート
アイテムとしては“GUCCI”のネイビーのPコートだが、なにせ素材がツヤ感抜群のアストラカンのファー。「70年代のロックスターかよ!」というツッコミもごもっとも。コレ着て電車とかありえないし、そもそも今の時代にリアルファーのコートなんてレアすぎて目立ちすぎて、どこへも着ていけません。

しかしですね…、この深いブルーの醸し出すツヤとアストラカン独特の毛並みは、本当に美しいのですよ。もしこれが黒いコートであれば手放していたかも知れませんが、ダークブルーのアストラカンのエレガントさは、まさしくため息もの。
愛読書「空の青み」(ジョルジュ・バタイユ)
かつて父の書斎で見つけて勝手に持ち出した、かなり年季の入った一冊。
コレが好きだというと、ほぼ例外なく“変態”のレッテルを貼られる。

以上、僕が愛してやまない「ディープな青」アイテムの持つ「問題」について、思いつくままにツラツラ書いてみました。
それにしても、なぜ僕は「ディープな青」にここまで引き寄せられるのか。
僕が「MENS Precious」の編集長をしていたときに、ついつい思いがあふれてしまい、<男はなぜ「青」に惹かれるのか>という自分勝手な特集記事を90ページを超える大ボリュームでつくってしまったこともあるくらいだ。

男たちが惹かれてしまう「深い青」は、“闇の色”であり、夜が明ける時を告げる“始まりの色”でもあり、空と海という“多くの生命を抱く色”でもあり、また漁師たちが大漁で家へと向かうときに船上に高々と掲げる「大漁旗」の色(すなわち命をかけて荒波へと向かう“仲間との連帯の色”)でもある。
船頭が自分の船に乗る漁師たちに、「大漁旗」の生地を使った晴れ着をふるまい、チームの結束を固めたという記録もあり、日本における「ユニフォーム」の起源は「深い海の青」という説もある。
おそらく「深い青」は、リラックスするための快適な色などではなく、姿勢を正して真っ正面から向き合い、リスペクトを持って対峙すべき“孤高なる色”なのかもしれない。
そう考えれば「深い青」は、たとえ使い勝手が悪かろうが、問題を抱えていようが、とても高額だろうが、ストレスを強いられようが、それを持たんとする者はいちいち文句など言わず、これからも一生信念を持って付き合っていくべき色だと言えよう。
以上、長々と書いてきましたが、これまで僕が「深い青」のアイテムに費やした散財の言い訳は、そろそろこの辺で終えたいと思います。

