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2022.01.05

「井伊の赤備え」をイメージしたレッドエールも!荒神山の麓でサステナブルなビール造り『彦根麦酒』とは【連載No.2】

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ビールと言えば、キンキンに冷蔵庫で冷やしたのを、暑い夏に飲むもの! そして、色は黄色で……。そんなイメージを持つ人は多いと思います。何を隠そう私もそうでした。

ブームとなっているクラフトビール※は、もっと多様な飲み方ができ、種類も豊富なんだそう。滋賀県では、醸造所が各地にあり、遠方から目当てに訪れる人もいます。注目を集めているクラフトビール製造の現場を訪れて、話を聞いてみました。

※職人技のビール、手造りのビールを意味する英語。量産されるビールと対比して用いられる概念。

田園風景とマッチした醸造所

『彦根麦酒(ひこねびーる)』があるのは、彦根市石寺町、琵琶湖と荒神山にはさまれたのどかな田園地帯です。湖岸道路を車で走ると、広大な敷地の中に佇む木造平屋の建物が見えて来て、気分が上がりました。まるで、1枚の絵画を見るように美しい。

琵琶湖の風を感じながらビールが味わえる、とても贅沢なスポットです。2021年5月に、醸造所とショップがオープンしたばかりです。

試行錯誤の末に、ビール造りに辿り着く

中に入ると、木をふんだんに使ったデザインで、シンプルでおしゃれな空間が広がっていました。居心地が良くて、落ち着きます。

「この広大な土地の活用を模索する中で、考えられたのがビール造りだったんです」と、醸造責任者の小島なぎささん。意外なことに、最初からビール造りが目的ではなかったそうです。「元々、ここは沼だったんです。そこを埋め立てた土地で、何か有効な使い方はできないかと、20年ぐらい前から地元で検討されていました」

様々なアイディアが出るも実現に結びつかなかった中、地元の人たちが在住の滋賀県立大学環境化学研究科の鵜飼修(うかいおさむ)准教授(当時)に相談したところ、クラフトビール造りを提案されます。準備期間を経て、こうしてめでたくオープンとなったようです。

環境に配慮した建物

自然環境と調和した事業を目的に、2019年に『株式会社彦根麦酒』がスタート。環境型クラフトビール醸造所として、建物にも工夫がされています。

「屋根が互い違いになって、琵琶湖からの自然な風が入るように設計されています。反対側の小窓からも風が入るので、循環して抜けていく仕組みなんです」。自然風を利用した換気システムは、滋賀県立大学環境建築デザイン学科の白井宏昌教授を中心とした設計チームによって編み出されたそうです。


「元々は沼だったことも関連させて、外壁に植物のヨシを貼り付けています。ヨシ葺きの職人さんから指導を受けて、滋賀県立大学の学生さんも、作業に協力してくれたんですよ」


周辺の景観と調和した木造平屋建築や、自然風を取り入れる環境に配慮した設計などが評価されて、「日本空間デザイン賞2021」で、サステナブル空間賞を受賞しました。

目指すのは、100%地元産のビール

地域循環型を目指していることから、ゆくゆくは、100%地元産のビールを造りたいと、小島さんは夢を語ります。ビール造りには大麦を発芽させた麦芽(ばくが)が原料として使われますが、元となる大麦作りにも、2021年11月から着手しました。

「学生さんや、地元の有志の人たちとで種を蒔いたんですが、今芽が出てきてますね」。ビールの香りつけに必要なホップ作りも実検的に取り組んでいます。「収穫したものを冷凍保存しています。量としては、まだ少ないので、株分けして増やしていきたいですね」

壁面に「タップ」と呼ばれる注ぎ口がずらり。ここから注ぐビールの味は格別! 試飲もできます。

驚いたことに、酵母造りの挑戦も同時に行っているそうです。クラフトビールに必要な原料の一つである酵母は、麦汁の糖を分解してアルコールと炭酸を作る役割。自然界のあらゆるところに生息している微生物を使う訳ですが、マッチするものを見つけるのは、至難の業なんだとか。

「長浜バイオ大学と連携して酵母探索を進めています。地元の中学校の科学部の生徒さんたちも、彦根にある微生物が、ビール酵母に適しているかを調べるのに協力してくれています。中々難しくて、宝くじに当たるような確率なんですが。ここのビール造りには、様々な人が関わってくれています。ビールが飲めるのは大人だけですが、子どもさんも協力してくれていて嬉しいです」

気候の変化を意識して造るビール

ショップの奥にある醸造所を見せてもらいました。「ビール造りは、温度の調整が鍵になります。1、2度違うだけでも味わいが変わるので、気が抜けませんね」と小島さん。そのため、その日の温度によって作り方を変えるのだとか。

「炭酸ガスが出て、発酵している状態を見ると、あ、ちゃんと発酵しているなと嬉しくなりますね。酵母は生き物なので」。愛情かけて作っている様子が伝わります。

気候に合わせて造るビールを、是非四季を通して楽しんでもらいたいそうです。「大手ビールが販売している、のどごしで味わうビールのイメージが強いと思うのですが、ビールには様々な種類があります。アルコール度数高めで味わい深いビールなどもありますし。季節に応じて、自分に合うビールを見つけて楽しんでもらいたいですね」

彦根らしいビールを届けたい

「このビールは、彦根城の井伊家の赤備(あかぞなえ)※をイメージしたんですよ」と出して頂いたのは、色鮮やかな『レッドエール』。ワインのような美しい色です。「麦芽を数種類使って、この色を出しています」。味見させて頂きましたが、苦みを抑えているとあって、とても飲みやすい。この彦根の場所で、琵琶湖からの風を感じながら飲む一杯は、格別です。

※彦根藩主・井伊家が武具を赤色で揃えたことから、「井伊の赤備え」と呼ばれる。

『石寺ヴァイツェン』は、地元の石寺産の生小麦を使用。地名が入っているので、地元の人にも人気だそう。お土産にもいいですね。フルーティな風味豊かな味です。


『彦根麦酒』は、サポートする人たちがどんどんと増え、様々なプロジェクトが同時進行で進んでいます。彦根産原料100%を目指して活動する真摯なエネルギーを感じました。新しい事業のあり方は、これからの日本を担う若者への希望となりそうです。

彦根麦酒情報

住所:〒521ー1101滋賀県彦根市石寺町1853
公式サイトhttps://hikonebrewing.jp/

連載 滋賀県クラフトビール巡り

第1回 クラフトビール、今なぜ人気?滋賀・長濱浪漫ビールの若き醸造家に魅力を聞いてみた
第2回 「井伊の赤備え」をイメージしたレッドエールも!荒神山の麓でサステナブルなビール造り『彦根麦酒』とは

書いた人

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。十五代目片岡仁左衛門ラブ。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。