【ヴェネチア・ビエンナーレの期間中に開催されたブチェラッティの回顧展「The Prince of Goldsmith」については、こちらからご覧ください】
【アンドレア・ブチェラッティ名誉会長へのインタビューは、こちらからご覧ください】
常に求められる以上のクオリティを
イタリア・ミラノ。ブチェラッティの本社にあるアトリエは、静謐な空気感が漂います。ジュエリーを世に出すまでには膨大な工程がありますが、ブチェラッティではそれらを完全に分業化しており、さまざまな分野に特化した職人たちはそれぞれの技能の向上に日々努めています。
そのなかにはポリッシュの仕事に40年携わる職人や、卓越した彫金技をもつ職人もいると言います。彼らは自らの技術に限界を設けず、求められる以上のクオリティを追求してきました。
例えば、ポリッシュも通常1回の工程をこのアトリエでは2回行います。そのこだわりは「驚異のポリッシュ」といわれるほど。レースのようなハニカムの間さえもワックスをつけた綿糸で丹念に磨いていきます(写真下)。
また、ブチェラッティのジュエリーはすべてのパーツに彫金が施されていて、フラットな部分がありません。それほどメゾンにとって彫金の技術は重要で、専門の職人たちには厳しいガイドラインが定められています。それは、体型や力の強さにかかわらず、同じラインが彫れるようになること。そのために職人たちは鏨などの工具はすべてそれぞれの専用のものを揃えています。
若手職人の作業は常にベテラン職人が見守り、伝統と技が脈々と受け継がれてきたのです。
マスターピースから技術を学ぶ
一方、本社の社屋にはアーカイブ部門も設けられています。
アーカイブは歴史的遺産というだけでなく、技術を継承するための重要な資料。至高の技を未来へ継承するために欠かせないものでもあるのです。
たとえば、写真上右側のネックレスは、フランスの建築家ジャック・クエルからの依頼で1971年に2代目のジャンマリアがデザインしたもの。有機的な意匠にサファイアとエメラルドがセットされています。
左のペンダントブローチは、俳優のグレゴリー・ペックが妻ヴェロニク・パサーニのために注文したもの。1961年、初代のマリオが制作しました。カボションカットのエメラルドとサファイアが優美に調和し、銀製の透かし細工が周囲を取り巻いています。
また、1950年代にマリオがデザインしたバニティケース(写真上)は、スカラ座に通う貴婦人たちに人気を博しました。ゴールドにはテラート技法と呼ばれる、表面をキャンバス地に見せる加工が施されています。
彼の前衛的で独創性に溢れたデザインはブチェラッティを象徴するものとして、現在も受け継がれています。1955年にデザインした、バッタが向き合う斬新なブレスレット(写真下)はアーカイブの中でも特に目を引く一品です。
取材を終えて
談:マドモアゼル・ユリア
ブチェラッティのジュエリーは、以前から「着物に合いそう」とは思っていたのですが、なかなか機会がなく、今回の旅の中で初めて着物と合わせる機会を得ました。
着物姿の上に身につけてみると、主張しすぎないデザインは着物と馴染みやすく、それでいながら着こなしをキラリと光らせてくれる絶妙なバランスのジュエリーだと感じました。
ミラノの本社ではアーカイブもたくさん見せていただきましたが、20世紀初頭のデザインもまったく古くさく感じないことに驚きました。高度な技術を継承しながら、現代的なファッションにも合うように常に工夫を凝らすなど、メゾンが「進化すること」に全力を注いでいるように感じました。
アンドレアさんへのインタビューでは「次世代へバトンを渡していくのも使命だ」と仰っていたことが印象に残っていますが、その実践の仕方の巧みさにも目を見張りました。それぞれの時代と各世代のデザイナーの特徴をしっかり表現しながらも、「ブチェラッティらしさ」が脈々とつながっていることを実感します。
熟練の職人による手仕事だからこそ実現できる繊細さと軽やかさが、着物姿に合わせてみても非常に心地良く、自分に馴染むブチェラッティのジュエリーを、いつか私もコレクションしてみたいと感じます。
この記事は『和樂』8・9月号でもご覧になれます。
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