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2023.04.28

朝顔を最も美しく見せるには? 茶の湯の心を今に伝える、千利休エピソード集1

利休の逸話はたくさん残されていますが、確かな史料は多くはありません。しかし利休に憧れ、敬慕の念を寄せた後世の茶人たちが、こうした逸話を信じてきました。利休のエピソードは、かくも豊かな示唆を与えてくれます。

その一、たとえ時間が余っていても

尊蔵(そんぞう)と円明(えんみょう)のふたりは、堺の津田宗及(つだそうぎゅう)と夜咄(よばなし)の約束をしていました。当日、尊蔵は「夜の茶会まで時間があるから、今のうちにちょっとだけ利休の茶をのぞいてくる」と出かけたのです。
尊蔵が訪ねると、利休はご馳走(ちそう)でもてなしてくれましたが、一向に終わる気配がありません。やっと解放されて宗及の家に着くと、「茶会はすでに終わりました」と一切取り合ってもらえませんでした。
利休は「茶会に招かれている者が、時間が余っているからといって、他所(よそ)に出かけるなどもってのほかだ。茶人の修業としての第一歩を誤っている」ということを教えるために、わざと尊蔵を手間どらせたのです。
●「夜咄」 冬の夜に、灯火を使って催される茶事。

津田宗及は安土桃山時代の豪商にして茶人。織田信長、豊臣秀吉に仕え、千利休や今井宗久とともに「三宗匠」と呼ばれた。この書状から、相手の中坊氏の上洛を期待する様子や、秀吉や足利義昭との茶の湯の交流に関与していることがうかがわれる。「書状」津田宗及筆 紙本墨書 1幅 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 

その二、自然から「風情」を演出する

朝茶に招かれた利休。露地(ろじ)は昨夜の風で椋(むく)の葉が散り積もり、さながら山中の林の道を歩くようでした。利休いわく「これはなんとも面白い。風情があることだ。けれど今日の亭主は巧者ではないから、落ち葉を掃き捨ててしまうでしょう」。
その言葉どおり、中立(なかだち)のときに一枚残らず取り除かれていました。そして利休はこうも述べました。
「露地の掃除は、朝の客であれば前の晩に、昼の客なら朝に行うもの。それ以後はたとえ落ち葉が積もっても、そのままにして掃かないのが巧者というものです」
●「中立」 茶事で初座(しょざ 前半)と後座(ござ 後半)の間にあたる休憩のこと。そのとき客は露地にある腰掛待合で待つ。

茶聖・千利休の肖像画。[野村]文紹 著『肖像』1之巻,[書写者不明],[18–]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2551759 (参照 2023-04-14)

その三、最も美しく朝顔を見せる

利休の庭に、朝顔が見事に咲いているとのことで、秀吉は楽しみに出かけました。ところが庭には朝顔がまったく見当たりません。興ざめな思いで茶室に入ったところ、色も鮮やかな一輪だけが床の間に飾ってあったのです。秀吉は上機嫌になり、利休はたいそうな褒美を頂戴しました。

※12のエピソードは、『長闇堂記(ちょうあんどうき) 』『茶道四祖伝書(ちゃどうしそでんしょ)』『茶話指月集(ちゃわしげつしゅう)』『源流茶話(げんりゅうちゃわ)』『南方録(なんぽうろく)』『茶窓閒話(ちゃそうかんわ)』『松風雑話(しょうふうざつわ) 』といった昔の茶書の現代語訳を参考にして作成しました。

※本記事は雑誌『和樂(2022年12・2023年1月号)』の転載です。

そのほかのエピソードはこちらからどうぞ。

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和樂web編集部

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