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2021.05.13

葛飾北斎の代表的な浮世絵から圧巻の鳥観図まで!「てくてく、ふらり、のんびり 旅する浮世絵」展【北斎館】

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長野駅から特急で約20分。「栗と北斎と花のまち」として知られる小布施町(おぶせまち)に佇む、北斎館。こちらで2021年6月13日(日)まで開催されているのが「てくてく、ふらり、のんびり 旅する浮世絵」展です。

東京からは新幹線で長野駅を経由して、2時間半くらいで小布施に着きます

新型コロナウイルスの影響で、旅行や遠出が難しくなってしまった今「旅」というテーマで私たちに何を伝えてくれるのでしょうか。本展を企画された学芸員の荒井美礼(みゆき)さんにお話を伺いました。

取材に同行したとま子が合いの手します!

映画『HOKUSAI』公式サイトはこちら
葛飾北斎の情報を集めたポータルサイト「HOKUSAI PORTAL」はこちら

葛飾北斎と小布施町

本展の解説の前に、きっと多くの方が気になっているのが「葛飾北斎と小布施町にどのような関係があるの?」ということではないでしょうか。

現在の東京都墨田区に生まれた葛飾北斎(1760~1849)が小布施を訪れたのは、80代の半ば頃。北斎を招いたのは、小布施の豪農商・高井鴻山(たかいこうざん)。当時30代だった鴻山と北斎は親子ほどの年の差がありましたが、互いを認め合い親密な関係を築いていたそうです。

江戸から小布施まで約240㎞!?凄すぎる

▼北斎と高井鴻山の関係に関する記事はこちら
長野県小布施「高井鴻山記念館」で見る、葛飾北斎と高井鴻山の信頼関係

この地で北斎が描いたのが、地元の祭屋台の天井絵や、岩松院大間天井絵などの傑作。1976年11月、北斎館は、二基の祭屋台保存のために開館しました。現在では数多くの錦絵や肉筆画、版本などが展示されています。

版画も素晴らしいけど、肉筆の迫力も凄かった!

東町祭屋台天井画 左:『龍図』 右:『鳳凰図』

上町祭屋台天井画 左:『男浪』 右:『女浪』

「てくてく、ふらり、のんびり 旅する浮世絵」

旅をテーマとし、風景画を中心に展示している「てくてく、ふらり、のんびり 旅する浮世絵」展。日本各地の名所や、活き活きとした人々の様子を、まるで自らの足で歩いているかのように楽しむことができる企画展です。

展覧会名がゆるくてかわいい。暖かい今の時期にもぴったり!

「新型コロナウイルスの影響で、旅ができない状況が続いています。でも本来、今の季節って気候が良く、お出かけにぴったりなシーズンですよね。こんな状況でも、旅の雰囲気や名勝を楽しんでほしいと思います」

そう語るのは、本展を企画された荒井さん。その笑顔に、これから始まるのんびり旅への期待が高まります。

多彩な表情の富士山を描いた『冨嶽三十六景』

まずは北斎の代表作であり、多彩な視点で富士山を描いた連作『冨嶽三十六景』が並びます。

「北斎は日本各地のあらゆる場所を描いていますが、その中には実際には足を運ばす、想像で描いたものもあるんですよ。でも『冨嶽三十六景』は、実際に旅をした先の景色を描いているようですよ」

そう語る荒井さん。なんと『冨嶽三十六景』は北斎72歳の頃に発表した作品なのだとか。

北斎も旅好きだったんだろうなあ

「北斎は6歳の頃から絵を描いていたと言われていて、晩年になってより作品が活き活きしてきています。デッサンにも狂いがないですし、画風が確立されてきていますね」

歳を重ねるごとに完成される北斎の作品。「ベロ藍」と呼ばれる、当時としては非常に発色の良いブルーの染料を使用することで、より表現の幅が広がったと言います。数ある作品の中から荒井さんにおすすめの作品を伺ったところ、教えていただいたのがこちら。

「『東海道程ヶ谷(とうかいどうほどがや)』という作品です。人・松・富士山が並ぶことで絵に奥行きが生まれ、まるで実際に見ているようじゃないですか?」

確かに! 浮世絵って平面的なイメージがあったので意外に感じます。

「人々から当時のファッションもわかって面白いですよ。富士山に雪がうっすら残っていることから、今と同じころの景色を描いたかんじでしょうか」

なるほど。まさに今旅しているような気分になりました。富士山の雪の残り具合やファッションなど、細部までじっくり見るとより一枚一枚が楽しめます。

もう一枚のおすすめ作品がこちら。『甲州三嶌越(こうしゅうみしまごえ)』です。

「旅人たちが大きな木を見つけ、手で木の大きさを測っています。はしゃいでいる様子がかわいくないですか?」

本当だ! 「うわ~3人じゃ全然足りないよ~スゲー!」みたいな声が聞こえてきそう!

「富士山に雪が残っていないので、こちらは夏の絵でしょうね。富士山の前に大きな木を配置する構図が、北斎ならではと言えます」

ほんとうだ、はしゃいでる!旅人たちの表情も楽しそう!

各地の名瀑をデザインした『諸国瀧廻り』

次は「滝」をテーマにしたコーナー。水の音が流れる演出がされており、浮世絵の世界との一体感が楽しめます。

江戸や日光、吉野などの名瀑を描いた『諸国瀧廻り』。『冨嶽三十六景』と同じ時期に出版されました。

「水の霊性や神秘的な面を感じられる連作です。写実的というより、滝をデザイン的に描いているのが特徴なんですよ」と教えてくれた荒井さん。また、滝そのものや水ももちろんですが、滝を楽しむ人にフォーカスされているのも面白い点なのだとか。

『諸国瀧廻り 木曾路ノ奥阿弥陀の滝』
切り立った崖で人々がピクニックを楽しんでいるのが面白い

「『冨嶽三十六景』では、富士山という不動のものをテーマとし、そこに人々や季節など、動くものを配置しています。対して『諸国瀧廻り』では、水という動くものをテーマに描いています。激しい滝や、滴り落ちるような静かな滝。まるで生き物のような水の動きを楽しんでいただければ」

北斎の水の表現が多彩でおもしろい!アイデア職人みたい!

全国の橋をダイナミックに表現『諸国名橋奇覧』

次は、日本各地の橋を描いた『諸国名橋奇覧(しょこくめいきょうきらん)』のコーナー。“奇覧”という言葉通り、実際の橋をよりダイナミック、かつ誇張して描いています。

また、実際にはない、想像で描いた橋も。こちらは『万葉集』に詠まれた歌に着想を得た作品。『諸国名橋奇覧』の中で唯一雪の日を描いています。

荒井さんによると「北斎は故事古典にも大変興味があったのだそうですよ」とのこと。私も古典が大好きなので、北斎を少し身近に感じた一枚でした。

マニアにはたまらない!北斎の鳥観図がスゴイっ!!

「えっ!?」と思わず声を上げてしまったのが鳥観図(ちょうかんず)のコーナー。富士山や江戸の街が詳細に描かれています。

鳥観図の実物をみたのは初めてだったので感動しました!



これは描いた北斎もすごいけれど、細~い線を掘った彫師(絵師の描いた絵を、版木に掘り起こす職人)もすごい……。

ほんとうに鳥の眼みたいだ!


こちらは中国を描いた『唐土名所之絵(もろこしめいしょのえ)』。恐らく、資料を参考にしながら描いたのでしょう。

私たちはこの鳥観図に、万里の長城も見つけました! ぜひ実際に見て探してみてください。

北斎の底力を見た!貪欲に絵に向き合う作品の数々

著名な浮世絵や、あっと驚く鳥観図の他にも、北斎の底力や貪欲さが見られるさまざまな作品が展示されています。例えばこちらは、ヨーロッパの銅版画をまねたもの。

拡大すると……

こ、細かい……

この作品の特徴の1つは、木版画だけれど、銅版画のような風合いでつくられていること。2つは、額縁らしきものを描いているものも多いこと。3つは、ヨーロッパの建築のように、実物より高く建物を描いていること。建物だけでなく、木も大きく描かれていることに気付きましたか? また、ここには展示されていませんが、ひらがなを英語の筆記体のように書いたものも残されているとのことです。

こちらは沖縄・那覇市の風景を想像で描いた作品『琉球八景』。

バナナの木など南国らしいモチーフが描かれていますが……。想像で描いたからでしょうか。なぜか富士山のような山も見えています(笑)。

このほか江戸の名所を描いた版本や、当時の政治やお金持ちの人々を風刺・皮肉った狂歌本が並びます。

北斎とその弟子たちの肉筆画・美人画にも注目!

版画のイメージが強い北斎ですが、実は肉筆画にこそ、北斎の圧倒的な技術力と多様な表現力を見てとれるのです。


今にも鳴き声が聞こえてきそうなかわいい猫の隣には……なぜか椿とともに佇む、鮭の切り身。

切り身も立派な作品になりうるんだ……

「北斎館では、猫の肉筆画の隣には魚の絵を飾るようにしています」とのこと。猫ちゃんがお腹を空かさないための配慮なのでしょうか?

ずらりと並ぶ美人画も圧巻です。

中でも注目すべきは作品は、2人の遊女を描いた『二美人』。

遊女をモチーフにする際は、ビシッとポーズを決めた姿を描くのが一般ですが、『二美人』の2人は髪をおろしていたり、かんざしを外そうとしていたり、あえてリラックスした姿をとらえているのが特徴です。

左側の女性はありえない方向に首が曲がっていますが、北斎は絵の女性に色っぽさを出すためによくこの構図を使っていたそうで、評判もよかったのだとか。現代のグラビアのように、観る人の理想が詰まっているのかもしれません。

とても綺麗でした!左側に立っている首の痛そうな女性がタイプです

美しくておいしい小布施町に佇む「北斎館」

まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような景観が美しい、小布施町。北斎館を訪れたら、町歩きも忘れずに。

小布施駅から北斎館へ向かう途中、北斎の作品に出会いました!

プリッとしたお尻が素敵! 『北斎漫画』に描かれた人物が

また、旅で欠かせないのがおいしいグルメ。今回の旅でお蕎麦や栗を使ったスイーツなどを頂きましたが、どれも絶品! 胃袋が3つくらいあったらいいのに……と、後ろ髪を引かれながら小布施の町を後にしました。

くるみ蕎麦が美味しかったです!

飛行機に乗って海外に行ったり、人が大勢集まる場所を訪れたりするのが難しくなってしまった今。電車や自動車のない時代に全国各地を旅した北斎のように、小布施の町をゆっくり歩く。そして「てくてく、ふらり、のんびり 旅する浮世絵」展で江戸時代の旅に想いを馳せる。そんなゆったりした一日を過ごすことで、時を越えた旅を楽しむことができました。

北斎館


住所:長野県上高井郡小布施町小布施485
公式サイト:https://hokusai-kan.com/
※開館時間等は新型コロナウイルスの影響で変更になる場合もあります。公式サイトにてご確認ください。

5月28日(金)劇場公開! 映画『HOKUSAI』

『HOKUSAI』5月28日(金)全国ロードショー(C)2020 HOKUSAI MOVIE

工芸、彫刻、音楽、建築、ファッション、デザインなどあらゆるジャンルで世界に影響を与え続ける葛飾北斎。しかし、若き日の北斎に関する資料はほとんど残されておらず、その人生は謎が多くあります。

映画『HOKUSAI』は、歴史的資料を徹底的に調べ、残された事実を繋ぎ合わせて生まれたオリジナル・ストーリー。北斎の若き日を柳楽優弥、老年期を田中泯がダブル主演で体現、超豪華キャストが集結しました。今までほとんど語られる事のなかった青年時代を含む、北斎の怒涛の人生を描き切ります。

画狂人生の挫折と栄光。幼き日から90歳で命燃え尽きるまで、絵を描き続けた彼を突き動かしていたものとは? 信念を貫き通したある絵師の人生が、170年の時を経て、いま初めて描かれます。

公開日: 2021年5月28日(金)
出 演: 柳楽優弥 田中泯 玉木宏 瀧本美織 津田寛治 青木崇高 辻本祐樹 浦上晟周 芋生悠 河原れん 城桧吏 永山瑛太 / 阿部寛
監 督 :橋本一 企画・脚本 : 河原れん
配 給 :S・D・P ©2020 HOKUSAI MOVIE

公式サイト: https://www.hokusai2020.com

書いた人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。