ハワイ大学で裏千家茶道の講師を務めるミセス茶人、オノ・アキコ。
オノさんは国際基督教大学卒業後、モルガン・スタンレー・ジャパン・リミテッド証券に入社し、ニューヨーク本店やロンドン支店を経たのち、ロンドンのインチボルド・スクール・オブ・デザイン校でインテリアを学ぶなど、さまざまな経験を経てから茶の湯と出会い、お茶の魅力にとりつかれたといいます。
2007年に移住したハワイでも、オノさんはずっとお茶を続けてきました。日本から6,200キロも離れた異国の茶の湯の世界は、想像できない出来事ばかり。
そこでオノさんに、お茶を通じて日々感じていることを書き綴ってもらうことにしました。海外から茶道という伝統文化を眺めてみたら……私たちもあらためてニッポンの大切な部分に気づくかもしれません。
ミセス茶人・オノの「一期一会のハワイ便り」の初回のテーマは梅雨。古来日本では、シトシトと草樹をぬらす長雨さえも、茶人はひとつの茶趣(ちゃしゅ)として親しんできたものです。
さて、そもそもハワイに梅雨はあるのでしょうか?
この時期のハワイは意外と快適!
文と写真/オノ・アキコ
ここ、ハワイの初夏は一年で最も過ごしやすい季節である。
「常夏の島」といわれるハワイにも、じつは雨季と乾季はしっかりあり、住民にとっては冬と夏がある。
今は乾季。青空が広がり、トレ―ド・ウィンドといわれる風が肌に心地よく、何をするにもお天気に後押しされるような、たいへん気持ちの良い季節である。
反対に雨季は、かなりの確率で雨が降る。
その年にもよるが、ある年など、まるまる1ヶ月間雨が降りつづき、水道管は破裂し、運河はあふれ、停電が続き、茶室は雨漏りと浸水で散々、といったちょっと顔が引きつるような災難もあった。
温暖化の影響を受けて、ハワイも天候が読みづらくなってきてはいるが、雨季はだいたい10月から3月ごろまで、そして乾季は4月から9月頃までといえる。
しかし、乾季といってもいつも過ごしやすいわけでもない。
先ほども書いたが、トレード・ウィンドといわれる貿易風が吹かない日のハワイは、ただただ蒸し暑く、島全体が呼吸をしなくなったかのように、何もしなくとも汗が止まらない。
心地よい乾季を支えるのは、太陽と風だということを思い知らされる。
茶室の外ではガマガエルが合唱中!
ところで、カエルは日本では春の季語であるが、ハワイでは、当たり前だが冬眠しないので一年中見かけるし、特に季節を感じさせる生き物ではない。
ただ、この時期、青々とした緑の中、池のほとりで生命を謳歌するがごとく鳴いているその声を聞くと、静かな(はずの)お茶室での一服も、また違った味わいになってくる。
私が通うハワイ大学には、1972年、裏千家15代家元鵬雲斎千宗室(ほううんさいせんそうしつ)の寄贈による、本格的な茶室と美しい日本庭園がある。ハワイ大学はアジア研究に大変力を入れており、庭園は日本研究科の学生達をはじめ。大学を訪れる人たちの憩いの場となっている。
ここに、これほど本格的な茶室があることを驚かれる人も多い。
寂庵では、ハワイ大学日本研究科の茶道実技の授業が週に2度、大学茶道部の稽古が毎週あるほか、希望者を迎えての茶道デモンストレーションが年間を通しておこなわれ、初釜などの行事も催されている。
そもそもお茶は、障子を閉めて外界からはさえぎられた空間で味わうことを習わしとしているが、私の通うハワイの茶室では、正式な茶事を除いては、障子を開けたままで一服するほうが多い。
自然の風が吹き抜けると、たまに軸先(じくさき/掛け物の軸棒の両端部分)が音をたてたりすることもあるが、南国の緑とその間をぬって注ぐ太陽の光が、暗いはずの茶室の中を照らして、鳥のさえずりや虫の声、ヤモリの足音、カエルの合唱が、生命の息吹を確かに伝えてくれる。
私はここで、自分も「生かされている」と感じながら、ありがたい一服をいただく。
それが私の知るハワイ、この季節のお茶である。
続けて第2回目もどうぞ→アロハスピリットと創意工夫で茶席を彩る【一期一会のハワイ便り2】
オノ・アキコ
65年生まれ。国際基督教大学卒業後、モルガン・スタンレー・ジャパン・リミティッド証券会社を経て、ロンドンのインチボルド・スクール・オブ・デザイン校にて、アーキテクチュアル・インテリア・デザイン資格取得。2007年ハワイに移住し、現在はハワイ大学の裏千家茶道講師を務めている。ハワイでの茶の湯を中心に、年に数度は日本に里帰りをしつつ、グローバルに日本文化を楽しんでいる。