節(ふし)があり中は空洞。120年に一度花が咲く種があるとか、神秘の世界すぎる。縄文時代からあるなどいわれながら、いまだに草なのか木なのかの議論は未決着。三寸の女の子入ってるし、竹スッゲー。
身近すぎて考えてもいなかった竹のこと
春の味覚、たけのこ。いかにも日本的で、太古の昔からあるように感じますが、調べると意外とそうでもない。食用にするたけのこの竹のほとんどは孟宗竹(モウソウチク)で、中国原産の外来種。伝来年代については諸説ありますが、江戸時代に伝えられ、戦後、たけのこを採る目的で多く植えられたといわれています。
では、日本の在来種はというと、真竹(マダケ)や淡竹(ハチク)。とっても細いのが特徴で、茶道の茶せんや竹細工など、日本の伝統や工芸に欠かせない素材です。
昔話や絵本でおなじみのかぐや姫は、日本の物語の祖とされる「竹取物語」がもとになっています。貧しい竹取の翁(おきな)がある日、光る竹の中に美しい女の子がいるのを見つけますが、女の子の大きさについては「三寸(約9cm)」という記述があります。
竹取物語の成立年代は平安時代で、おそらく孟宗竹が伝来する前。それから、女の子の大きさが三寸ということは、おそらくその竹は細い真竹などの在来種でしょう。ところが、日本各地にもともとあった竹が、驚異的なスピードで成長する孟宗竹に置き換わっているのです。これって、かぐや姫の竹がピンチなのでは? そういえば、禅寺や料亭、公園を見ても、日本中、節の太い孟宗竹だらけ。これでいいの? これからどうなる?
竹は木か、草か? パンダは笹か、竹か?
さて、知っているようで意外と知らない竹についてのおさらいです。竹は、イネ目イネ科タケ亜科に属する多年生常緑草本植物の総称(長い)。身近な存在ながら、竹の幹(正確には稈(かん)と呼ぶ)は中が空洞で、節と呼ばれる盛り上がった区切りがあるなど、見るほどに謎めいています。さらに、「竹は木の仲間か、草の仲間か」についても議論があります。言われてみれば、「地球上最速」という説もあるほど成長が早く、地下茎からたけのこが生えるのは草のよう。それでいながら、草よりも背が高く幹は木質です。
そして、よく似た笹(ササ)。笹と竹の違い、説明できますか? 調べてみても、「たけのこの成長に伴い、幹から皮が自然に落ちるのが竹、皮が張りついたままなのが笹」と、わかったようなわからないような。一般的には、竹のうち大きなものを「竹」、小さなものを「笹」と呼び分けると考えればおおむねOKでしょう。
では、七夕って笹? 竹?
「笹の葉さらさら」という童謡がありますね。でも、七夕では縁起担ぎのため、「これから大きくなる竹の若いもの、つまり笹竹を使う」のが習わしで、「笹貰(ささもらい)」は秋の季語(旧暦で七夕は秋)です。
あれっ、パンダ(ジャイアントパンダ)って笹と竹、どっちを持っていたっけ? 竹も笹も食べます。大変マニアックな動物園用飼育本を持っているのですが、パンダの食事について、「上野動物園では入手しやすい孟宗竹がメインで、食いつきがよくないときには真竹なども与える」と書いてあります。
パンダといえば丸顔。かたい竹を食べるようになった結果、あごやほおの筋肉が発達し、このような顔つきになったとされます。竹のようにかたいものを食べる動物はほかにおらず、えさを巡って争うこともないためおっとりとした顔になったのかも。
それから、パンダの手(正確には前あし)。
5本の指に加え、指のような突起があります。本来の指と指状突起で竹をがっちりホールドできるというわけです。
生命力が強すぎる孟宗竹が「竹害」に!?
超速で成長し、かわいいパンダの栄養源にもなる孟宗竹。流しそうめん、神社仏閣で手や口を清める水をくむひしゃく、建材などには欠かせません。その一方で、あまりに成長スピードが早く、生命力も超旺盛。最近は、持ち主の高齢化などの問題から管理しきれなくなり、放置竹林が全国的に増えています。「竹害(ちくがい)」という言葉があるほどです。
地域情報を交換し交流するWebサービス「ジモティー」で検索すると、「竹をあげます/ください」「竹害を解決します/解決してください」「たけのこ栽培用地として竹林を有料で貸してほしい」「竹炭を作るサークルに入りませんか?」など、竹に関するトピックがたくさん。身近でもあり、困った存在でもあるのだなと、改めて思いました。
人気SNSのツイッターで、詳しそうな人を見つけました、小学校のころから竹林管理を手伝っているという、東京農工大学の小幡成輝さんです。
「孟宗竹は戦後、たけのこを採る目的で植えられたと聞いています。物資不足解消のために植えられたスギやヒノキの拡大造林と同じ道をたどっていると思います。竹林が放置されると、面積が広がるだけでなく、イノシシが市街地近くまで来る要因ともなります。それから、日本人の竹のイメージが孟宗竹だけになっていることも問題です。文化、自然、人の生活のことを考えると、孟宗竹林の管理と在来竹林の活用が急務だと思います。放置孟宗竹林を管理、または管理が難しい場合は撤去し、その竹の有効活用ができたらいいですね」。
竹といえば京都。京都の竹事情って?
最近、『日本の絶滅危惧植物図鑑』という本を読みました。
共著者の一人、瀬戸口浩彰さんは京都大学の先生ですが、東京出身。「三鷹市で生まれ育ち、井の頭公園や深大寺、野川公園などは遊び場でした。国際基督教大学の森にカブトムシを探しに行って、守衛さんに捕まったこともあります」と思い出を語ります。
京都といえば竹林のイメージがあります。京都の竹事情はどんな感じなのでしょう?
「桂離宮では、生きたままの竹を斜めに折り曲げて編むような桂垣(かつらがき)、笹垣(ささがき)がみられます。竹は迷惑かもしれませんが。京都大学の近くだと、川端通(かわばたどおり)に竹細工店や竹材店が点在していました。京都大学は、市街地から外れた桂に工学部キャンパスを新設しましたが、竹が増えたので、住友生命などと共同で竹林保全ボランティアをしています。その他、京大生が竹林管理のアルバイトに行くことがあり、かなりハードらしいです」。
さすが京都。竹に関するエピソードが無限に出てきます。
ふたつの「り」が問題を解決するかもしれない
道路や公園、ショッピングセンターの植栽など、身の回りには木や草があふれていますが、だいたい外来種。スマホのカメラで撮ると植物種を教えてくれる「PictureThis」というアプリを知ってからは、花や草、木を調べながら散歩するのが楽しみですが、在来種はほとんどナシ。「わーい、久しぶりにタンポポ発見」と思えば、外来種のセイヨウタンポポばかり。在来種が減っていると聞いていましたが、まさかここまでとは。『日本の絶滅危惧植物図鑑』にも、「小学校の理科教科書では、全国的に見られるセイヨウタンポポをタンポポとして載せている」といった記述があるそうです。
今、大学で学んでいる小幡さん(前述)は、「公園の竹は、できれば在来竹に変えたいですね。公園は一つの教育の場ですし、自然や文化を子どもたちが学べる竹林にしたいです。放置竹林の有効活用事例も生まれているため、行政や企業、NPOが協力すれば、可能であると考えています」と、若い人はさすが頼もしい。
東京23区にも、竹の塚(足立区)や竹早町(文京区の旧町名)など、昔は竹が多かったと思わせる地名があります。篠崎(江戸川区)もそのひとつで、篠竹(しのだけ)が生い茂る土地だったそうです。この地には、「竹と親しむ広場」(江戸川区篠崎町5-5)というユニークな施設があります。
2005年4月、28名のボランティアで造園からスタートし、2021年7月現在は18名が活動中。農業や木材の扱いには縁もなかった都会の人たちで、楽しく竹や笹の管理をしたり、竹垣や休憩所のテーブルを作ったりしています。研究者も注目し、京都大学大学院の柴田昌三先生は、「淡竹を折ったり曲げたりして作った竹の棚はおそらくここだけでしょう」と感心なさったそうです。
現在は、新種や天然記念物も含め、21種類の竹と笹があります。またここで謎に満ちた生態の話。竹にも花が咲き、モウソウチクは67年、マダケやハチクは120年の周期で開花することが確認されています。ところが、ここでは、マダケが何年も連続で花を咲かせているのです。時期はだいたい6~7月。
竹を見ているとすがすがしい気持ちになって、「外来種、在来種と分けるのはナンセンス。竹はすべて不思議で尊い」と思い至りました。竹の卸をしている人も、孟宗竹を無下にせずきれいなものはしっかり竹材として活用しているそうです。
「竹林の持ち主が高齢化すると、相続税の問題もあり放棄地はさらに増えるでしょう。クラウドファンディングなどの取り組みが一瞬注目を集めても、長続きしません。この点、人間の行動原理には、道理の『理』と利益の『利』と、ふたつの『り』があります。たとえば、整備された山林が周りにあると景観が好まれ、その土地の不動産価格が高くなるのが『利』です」と瀬戸口先生。
なるほど、現実的な「利」を意識しながら、保全や管理に取り組むのが重要というわけですね。利も意識しながら、楽く自然を愛で、保護を続けなければ!
■取材協力
瀬戸口浩彰先生 http://setolab.h.kyoto-u.ac.jp/
小幡成輝さん @biodiversity_ON