「北本では0歳の赤ちゃんが富士山にのぼるらしい」そんな気になるうわさを聞きました。富士山といえば標高3776m、言わずと知れた日本一の山です。大人だって登るのは決してラクではありません。まさかそんな。
埼玉県北本市を歩いて歴史をひもとく連載「北本奥の細道」、今回は北本市の浅間神社で今も続く伝統行事「赤子が富士山にのぼるまつり」のひみつに迫ります。
北本では赤子が富士山にのぼるって本当!?
やってきたのは、JR北本駅の東口を出て中山道(なかせんどう)を北へ10分ほど歩いたところにある、東間浅間神社。
ここで毎年6月30日と7月1日の2日間にわたって赤ちゃんが富士山にのぼるまつりがあると聞き、6月30日に訪ねたのですが……令和3年度のおまつりは新型コロナの流行で中止に。残念ながら赤ちゃんの姿はありませんでした。しかし、赤ちゃんがのぼるという富士はありました。江戸時代に富士山を模して作られたという、標高5.9mの富士塚です。
富士塚はなぜ作られた?初山参りと浅間信仰
「7月1日は富士山の山開きの日。その日に合わせて赤ちゃんが富士塚をのぼってお参りする行事を初山参りといいます」そう教えてくれるのは、北本市の文化財保護に携わっていた磯野治司さんです。
でもなぜ、0歳の赤ちゃんが富士山をのぼるのでしょう?その理由は日本古来の富士山信仰、浅間(せんげん)信仰にあります。
富士山を神聖なものとする浅間信仰はとても古く、古代にすでにありました。
浅間神社の浅間という字はアサマとも読みます。アイヌ語で火を噴く岩という意味があり、火山のことをいいます。昔の人は遠くに見える富士山に霊力を感じ、富士塚を作って参拝しました。
そして、浅間神社にまつられている神様は「木花咲耶姫(このはなさくやびめ)」という女性の神様。安産・子育てのご利益があることから、赤ちゃんが初山参りをするようになったと考えられます。
ふりかえって驚く、富士塚の歴史とひみつ
江戸市中でもっとも古い富士塚といわれるのが東京の高田稲荷神社(現在の早稲田水稲荷神社)にある1780年に作られたもの。富士山信仰がブームになり、お金を出し合って代表で富士山へお参りする富士講が盛んになったころです。けれど実は、東間浅間神社にある手洗石には1772(明和9)年と刻印があり、それよりも歴史が古いことがわかります。
大きさは37m×27m、高さは5.9m。とても大きな富士塚なのに、もともとあった山を利用して作られたのではなく、地元の名主だった大島彦兵衛家の氏神様として作られたものを、東間の鎮守様として移設したというから驚きます。
それだけではありません。ふりかえってみると参道が少し斜めになっているのですが、その理由は……。
これが江戸時代に作られたなんて、当時の人々にとって富士山がどれだけ特別なものだったかがわかります。
初山参りは赤ちゃんが富士山にご挨拶をして、健やかな成長を祈る日なのですね。
東間浅間神社 基本情報
住所:埼玉県北本市東間1-6
電話:048-592-0821
公式webサイト
富士塚は1つじゃない。竹ノ子浅間神社はどっち向き?
北本市内には4つの富士塚があり、そのうち2ヶ所で初山参りの伝統が続いています。東間の浅間神社ともう1ヶ所は、荒井の竹ノ子浅間神社。その名の通りたくさんの竹に囲まれた神社です。竹がまっすぐに伸びることにちなんで、赤ちゃんがすくすく成長しますようにと地元の人たちが赤ちゃんを連れて訪れるそう。なかには3世代にわたって初山参りをするご家族もいます。
竹ノ子浅間神社 基本情報
住所:埼玉県北本市荒井2丁目225
自然の豊かな国で、自然に祈りながら生きてきた、その歴史が今へと続いている初山参り。東間浅間神社の初山参りには縁日が並び、夏まつりとして市外からも多くの人が訪れます。来年の6月30日、7月1日にはぜひ、北本の小さな富士山をのぼってみませんか。
富士山をのぼった後で、ホタル狩り
北本市内にある自然観察公園でヘイケボタルが見られると聞いて、7月中旬の夜に訪ねてみました。夕立からの雨が残るあいにくの天気だったのですが、それでも数えきれないほどのホタル!
ホタルの瞬きは、人口のライトに比べるととてもかすかな光。それなのに不思議なほど目が離せない美しさがあります。
都心から電車で一時間ちょっとでこんなにたくさんのホタルが見られる場所は、とても貴重なのではないでしょうか。
北本の小さな富士山をお参りした後で、北本自然観察公園でホタル観賞。自然の神秘を感じられるおすすめのコースです。
北本自然観察公園のホタル観賞エリアでは途中木の根っこなどが張り出した道を歩きますので、歩きやすい靴でお出かけください。観賞エリアまで足元を照らす懐中電灯があると安心です。
*北本自然観察公園はみんなで自然を守り育てる公園です。ホタルの採集・持ち出しはできません。
北本自然観察公園・埼玉県自然学習センター 基本情報
住所:埼玉県北本市荒井5-200
電話:048-593-2891
営業時間:9~17時(季節変動あり。要問合せ)
料金:見学無料
駐車場:あり(約100台)
公式webサイト
今回も貴重なお話を聞かせてくださった磯野さん、取材に同行して写真を撮ってくれた北本出身の和樂webスタッフとまこさん、ありがとうございました!
次回の北本奥の細道では、戦国時代にこの地域で活躍した在地武士「鴻巣七騎」が駆け抜けた道をレポートします。
「連載 北本奥の細道」
第一回 東京へ向かうのになぜ“下り”?埼玉県北本市「中山道」謎を紐解くぶらり旅
第二回 0歳の赤ちゃんが富士山にのぼる?江戸時代から続く初山参りと浅間山信仰
アイキャッチ画像:葛飾北斎「富嶽三十六景 五百らかん寺さざい堂」 シカゴ美術館