生活を便利にするアイテムの例えとして、「三種(さんしゅ)の神器(じんぎ)」という言葉があります。昭和の時代は、「電気洗濯機・電気掃除機・電気冷蔵庫」、「カラーテレビ・クーラー・自動車」がそのように総称されました(カラーテレビ・クーラー・自動車は、英単語の頭文字がCのため「3C」とも)。
しかし、本来的な意味は、神話の時代から伝わるとされる宝物のことです。皇位のしるしとして代々の天皇が伝承してきたのに、起源は謎に包まれています。どのように出現したのか、作られたのか。そして、なぜ天皇家が継承するに至ったかなどもすべて不明です。
学者や研究者の著書などを手掛かりに、少しだけその実体に迫ってみましょう。
三種の神器は謎に満ちた三つの宝物
天皇家には、誰も見たことのない秘宝が伝えられています。それが、「八咫鏡(やたのかがみ)」、「八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま)」、「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」で、「三種の神器」と総称されます。
皇室の即位式という重要な儀式においてさえ、本物でなく形代(かたしろ)と呼ばれるレプリカを使うそうです。
三種の神器が登場するのは、日本最古の歴史書『古事記』と『日本書紀』。鏡と玉は天岩屋の物語、剣は八岐大蛇(やまたのおろち)の物語に記述されます。これらの宝物は、天照大神(アマテラスオオカミ)が孫である瓊瓊杵(ニニギ)の天孫降臨に際して授けたものとされています。
三種の神器のうち、勾玉は東京・皇居にあり、鏡は三重・伊勢神宮 内宮(皇大神宮)、剣は愛知・熱田神宮にあるといわれています。
三種の神器をひとつずつ解説
謎に満ちた三つの宝物を、一つずつみていきましょう。
1.天照大神の魂「八咫鏡(やたのかがみ)」
八咫鏡の「咫」は長さの単位で、「八咫」は巨大なサイズを示します。
天照大神が、孫である瓊瓊杵の天孫降臨に際して授けた三種の神器のうち、鏡については特に、「自分(天照大神)の魂として祀りなさい」と言ったことが記されています。
現代でも、神様が宿る依り代(よりしろ)として神聖視したり、合わせ鏡をタブー視したりと、鏡に特別な神秘性を感じる人は少なくありません。文明が発展する前の古代ではなおさらでしょう。
第10代の崇神天皇の代まで皇居で祀られ、第11代の垂仁天皇の代に、伊勢の五十鈴川のほとりに移されました。これが伊勢神宮の起源とされています。
恋に狂った鬼や、他の男と交わる妻の姿も映す…「鏡」のもつ不思議な力とは
3.天照大神を導き出した「八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま)」
勾玉(まがたま)は一般的に、頭部が膨らみ穴の開いた逆Cの字形をした玉を指します。
太陽神である天照大神が岩戸にこもって隠れ、天地が真っ暗になり昼がなくなったとき、神々は真榊(まさかき)を立て、この勾玉を飾り、天照大神を導き出したと伝えられています。
『古事記』では勾玉、『日本書紀』では曲玉と記述され、通常は、勾玉の字を使用します。
3.八岐大蛇から出てきた「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」
天照大神の弟である須佐之男命(スサノオノミコト)は、伝説的な英雄。出雲で八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治した際、ヤマタノオロチの尾から見事な太刀が出てきて、須佐之男命はそれを天照大神に献上。それが、草薙剣といわれる三種の神器のひとつになりました。草薙剣には、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)という別名もあります。
のちに社を建て、この剣を祀ったことが、熱田神宮の起源だといわれています。
参考資料:
『三種の神器―謎めく天皇家の秘宝』 稲田智宏
『三種の神器 <玉・鏡・剣>が示す天皇の起源』戸矢学
デジタル版『世界大百科事典』
デジタル版『日本国語大辞典』
デジタル版『日本大百科全書(ニッポニカ)』
『デジタル大辞泉』