春風というとどんな風を思い浮かべますか? 黄砂をもたらす西風、春一番の吹き荒れる風、あるいは春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)というそよ風? 春風にまつわる季語を集めて難易度順に☆で並べてみました。☆☆☆の季語を知っていたら、ちょっと鼻高かも?
☆まずは、初心者向け、星一つ!
春一番(はるいちばん)
春嵐(はるあらし)
春風(しゅんぷう・はるかぜ)
春疾風(はるはやて)
春荒(はるあれ)
春一番二番縄文竪穴居 関位安代
春一番父子で掲ぐ大漁旗 大山文子
今のわがこころに似たり春嵐 阿部みどり女
春風や堤長うして家遠し 与謝野蕪村
式終へし子等春風に放たれぬ 山田禮子
☆☆中級者向け、星二つ!
風光る
東風(こち)
強東風(つよごち)
軟東風(やわごち)
梅東風(うめごち)
桜東風(さくらごち)
雲雀東風(ひばりごち)
朝東風(あさごち)
夕東風(ゆうごち)
「東風吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ」菅原道真が都を離れ大宰府に赴いたときに詠んだ歌です。この歌を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。
東風は使い勝手がよいとみえ、花の名や鳥の名、時分などを冠することもあります。
春北風(はるならい・はるきた)
黒北風(くろぎた・くろげた)
文字通り春に吹く北風です。北風でならい・きたという読みはなかなか難しいですね。
黒北は三月に一時的に冬の気圧配置になって強い北風が吹くことで、船の事故も起こることがあります。丹後地方の漁師のあいだでは、「くろげた」と呼ばれているそうです。ちなみに、冬の季語である北風もきたかぜのほかに「きた」と読みますし、風を省略して「北吹く」ともいいます。
フェーン
フェーンはフェーン現象のことで俳句では風炎と表記されることが多いです。晩春の季語となっています。
風光る海の匂ひのエアメール 北村照子
国生みの島の二神や風光る 大橋敦子
初東風や松の根方の松落葉 杉浦典子
梅東風やひとつに揃ふ巫女の足 中村洋子
文字速き電光板や春北風 岩崎皓子
春北風痩身空也眉太き 大野英美
黒北風や家も社も海を向き 吉田藤治
飴なめて風炎の日を過ごしたり 沼崎寿々子
☆☆☆上級者向け、星三つ!
ようず、西ようず
ようずは雨もよいの生ぬるい南風のこと。西から吹いてくるときは西ようずといいます。近畿、中国、四国地方の言葉です。
貝寄風(かいよせ)
陰暦二月二二日に大阪四天王寺の精霊会ではお供えの造花を難波の浜に打ち寄せられた貝殻で作りました。そのことから、このころに吹く強い風を貝寄風(かいよせ)と呼びます。
涅槃西風(ねはんにし)
陰暦二月十五日ごろに吹く西風。二月十五日はお釈迦様の入滅の日で、寺院では涅槃図をかけ涅槃会(ねはんえ)が営まれます。
比良八荒(ひらはっこう)
比良山系から吹き下ろす春の強い北または西風。二月二十四日から滋賀県高島町の白鬚神社で法華八講(比良八講)が行われます。
桜南風(さくらまじ)
油南風(あぶらまじ)
桜南風は桜の咲くころの南風。油南風は晩春の季語で油を流したような穏やかな南風。
単に南風(みなみかぜ・みなみ)と言ったときは夏の季語になります。
淀川をようず渡れる夜の鴨 森澄雄
貝寄風に乗りて帰郷の船迅し 中村草田男
貝寄風の風に色あり光あり 松本たかし
一円玉拾ふ背中に涅槃西風 市川伊團次
我もまた没後の弟子や涅槃西風 溝口健也
松の間に比良八荒のあとの湖(うみ) 桂信子
鴨食ふや比良八荒の余り風 野澤節子
待つことに馴れて沖暮る桜まじ 福田甲子雄
油南風マスト黄ばみしギリシャ船 大石晃三
春風の季語に東西南北が揃っていてなんだかほっとした私です。今回あらためて調べて風の季語は地域ごとに独特の風の呼び方もあり、漁業と深いかかわりがあることも知りました。
アイキャッチ画像:鈴木春信 シカゴ美術館
参考文献
『カラー図説 日本大歳時記 春』講談社
『基本季語500選』山本健吉 講談社学術文庫
『十七季』三省堂