白粉をする伝
江戸時代の女性たちが一番気を使っていたのは、白粉による化粧でした。
白粉を水で丁寧にといて、顔全体だけではなく、耳・首筋・胸元までムラにならないよう、また、塗ったか塗らないかがわからないよう丁寧に塗ること。そのためには、「化粧をするには、まず白粉をとくことを第一とすべし」と言い切り、その理由を「どのように手際よく化粧をしても、白粉のとき方が悪ければ、白粉が浮いて粉がふいたようになり、のびが悪く、光沢を失って見苦しい」としています。
浮世絵にも、胸元を大きく広げて化粧する女性の姿が描かれています。
既婚女性の身だしなみ・お歯黒
江戸時代、お歯黒は女性の元服(成人の儀式)に際して行われる化粧となりました。江戸時代中頃からは、結婚に前後してお歯黒をするようになり、お歯黒をつけるのを半元服、子どもができて眉をそるのを本元服と言いました。黒はほかの何色にも染まらないので、「貞女二夫にまみえず」、すなわち貞節の証と考えられ、お歯黒は、夫に対する貞節を説く儒教の教えにかなった化粧法だったのです。
「鉄漿(かね)をつける伝」では、
鉄漿をつけんと思うまえ、けし炭(火を水にてけしたるすみ也)にて歯を静かに磨(す)り、よく磨(みが)きて下地の鉄漿(おはぐろ)をよく去り落し、歯の間のかすをさりてのち、鉄漿をつくれば、よく付きて光沢(ひかり)あり。なお、その上につやを増さんと思わば、鉄漿をつけたる上へ紅をぬれば色光沢(いろつや)よし。
と、お歯黒を綺麗に塗る方法を紹介しています。
恰好之部/ポイントメイク
様々な顔立ちの図を掲載し、その下に、「この顔立ちには、おしろいを薄く施すべし」「頬に薄く紅をさして桜色になるがよし」「眉は少しふときがよし」「紅は濃く、大きく見する作りかたがよし」などのように、紅・白粉のつけ方など、顔立ちに合った化粧方法と、髪型を具体的に紹介しています。
その上で、「顔立ちは一人一人違うので、ここで紹介した方法を参考にして、それぞれが自分の顔に合った化粧をする」ことを勧めています。