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2021.03.16

鬼!鬼!鬼!酒呑童子伝説が残る大江山には「日本の鬼の交流博物館」があった!

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京都府福知山市の中心地から、静かな山道を車で走ること約40分。丹波・丹後の境にそびえる大江山は、鬼・酒呑童子(しゅてんどうじ)伝説の残る神秘の山です。

酒呑童子といえば「Fate/Grand Order」で聞いたことがある人もいるのでは? 「銀魂」の主人公のモデル、坂田金時らがやっつけた鬼でもあります!

晩秋から冬の早朝には雲海が広がり、雄大な山々から湧き出た清水に育まれた森は眺めているだけで、穏やかな気分になり、心が満たされていきます。

二瀬川にかかる長さ77m、幅1.5mの木造の新童子橋は絶景ポイント
ここは「科捜研の女」のロケ地にもなったんだとか。

この川沿いには、天照大神を祀った伊勢神宮より54年も前に創建されたと言われる元伊勢内宮皇大神社や元伊勢外宮豊受大神社があります。そして天岩戸神社と合わせて、元伊勢三社と呼ばれ、もう一つのお伊勢参りとして信仰を集めています。江戸時代には、ここを通って天橋立の成相寺(なりあいじ)へ行く33カ所巡りが人気のルートだったとか。苔むした岩や鬱蒼と茂る大木からは霊験あらたかな清々しい気が流れ、鬼伝説の残る大江山は神々の棲む場所でもあるようです。

黒木の鳥居がある由緒ある元伊勢内宮皇大神社。垂仁天皇26年(西暦紀元前4年)に現在の伊勢に移された

神秘の世界に触れながら山道を進んでいくと、だんだんこの世にいるのではないような気分となり、木の陰から鬼が飛び出してきそうな……、と思ったら、本当に鬼が出現。あ~~、あっちにも、こっちにも。

大江山のあちこちに13体の鬼像が鎮座。それぞれに名前もつけられており、酒を呑んでいる青鬼は『呑鬼』
雪山にカラフルな鬼が現れるのでドキッとしました……。

お昼に食べたボリューミーな焼肉(福知山は肉の町としても有名)の影響もあり、午後のまどろみの中、夢かうつつかわからなくなってきたところで、巨大な鬼瓦がドーンと目の前に! 

高さ5m、重さ10tの鬼瓦で作られた巨大モニュメント

さらには巨大な角を模した建物も出てきて、ここは鬼ノ国? とぼんやり考えていたら、「日本の鬼の交流博物館に着きました」の声で現実に引き戻されました。こんな山奥に建てられていたのは、なんと日本一多くの鬼を蒐集している博物館だったのです。

鬼の角をイメージした建築で、平成5(1993)年に開館。貴重な資料が閲覧できる鬼研究所も併設されている
鬼を蒐集している博物館? そんな場所があるなんて!

鬼は恐ろしいものじゃない? 鬼にまつわる深い話

初めて訪れた私たちをあっという間に不思議な空気に包み込んでしまう大江町。さすがは「鬼の聖地」として全国からも注目を集めるだけあります。ここは、かつて大正の終わりから昭和にかけて「河守(こうもり)鉱山」という銅が採れる鉱山があった場所。当時は700人近い労働者やその家族が暮らしていたそうです。

昔は鉱山があったんですね。

しかし、昭和48(1973)年に閉山となってからは過疎化が進んでしまいました。この状況を何とかしたいと考えた時に、美しい山々と鬼伝説で、もう一度この町を元気にしたいと「日本の鬼交流博物館」が建てられたのだとか。にこやかな笑顔で出迎えてくれた佐藤秀樹館長も、ここ大江町を「鬼の里」とした立役者の一人。鬼の守り神として、日夜、「鬼のPR」に励んでいらっしゃいます!

鬼のPR! 全国でもかなり珍しいのでは?

到着するやいなや、立て板に水のごとく、鬼について語り出す佐藤館長。鬼を敬愛し、蓄えた膨大な知識は、まるで鬼の語り部です。

「鬼は、目に見えない得たいのしれない『モノ』だったようです。平安時代には『伊勢物語』や『今昔物語』などの文献に『鬼』の文字が見られますが、それらはすべて目に見えない存在として描かれています。室町時代になると鬼の図像化が進み、今日の鬼のイメージの原型ともいえるような鬼の姿が見られます。一方で武士の時代を迎え、武士の権力を強めるために、鬼をやっつける強いものとして武士が語られていきます。鬼が悪者といったイメージは、その時の権力によって利用されてできたものでもあるのです」。

鬼は単に悪の権化ではない? なんだか深い話になりそうなので、まずは、大江山に伝わる超有名な鬼伝説をおさらいしましょう。

最強の鬼伝説『酒呑童子』はこうして誕生した

歌舞伎や浄瑠璃、最近ではアニメや漫画にも登場する酒呑童子。鬼退治の原点ともいえるお話です。

越後国(現:新潟県)で百姓の子として生まれた酒呑童子は、胎内に16カ月おり、生まれながらに歯を生やし、邪法(じゃほう)を扱う悪魔とされます。その後、諸国を遍歴。一条天皇の時代に、京では次々と女性や若者が神隠しに遭うようになります。人をさらっては喰らう暴れ鬼が大江山に棲んでいると言われ、鬼を退治するよう命じられたのが時の武将、源頼光(みなもとよりみつ:通称らいこう)。その鬼こそが、酒呑童子だったのです。

清和源氏の3代目、源頼光が率いたのは、配下の藤原保昌(ふじわらのやすまさ)と、金太郎として有名な坂田金時(さかたきんとき)、渡辺綱(わたなべのつな)、今昔物語に登場する碓井貞光(うすいさだみつ)、卜部季武(うらべのすえたけ)ら四天王

4人の強者を従えた源頼光と藤原保昌は鬼の棲み家・大江山へと向かいます。その途中で出会った神々から、鬼だけが酔うとされる毒酒をもらい、道に迷った山伏を装って、鬼に一夜の宿を頼みます。最初は警戒していた鬼も、宴席で酒を酌み交わすうちに酔っ払い、寝てしまいます。その隙を狙い、首を討ち、見事、鬼退治を果たします。

これが鬼退治の物語の最高傑作として伝承され、明治時代には教科書にも載っていたそうです。

昔は教科書にも載っていたんですか!

貴重な資料として展示されている木版刷の鬼ヶ茶屋本『大江山千丈ケ獄 酒顛童子由来』

伝説を訪ねて、町を歩けば、そこかしこにパワースポットが!

ここ大江山には、酒呑童子の足跡や頼光が腰掛にしたとされる巨岩など、実際に伝説を辿れる場所が随所に残されています。

鬼退治をした源頼光が腰を掛けたとされる巨岩。大江町には随所に伝承の跡がある

こうした伝承を元に、鬼退治から1000年を経た1990年、鬼の町として大々的なイベントを開催。大江町にとって『酒呑童子』は、どんなスターよりも「推しキャラ」となって輝いているのです! 美しい容姿であったとされる酒呑童子は、漫画やゲームのキャラクターでも麗しい姿で描かれており、まさに鬼界のスーパースターとなっています。

平成令和の活躍を見ると、たしかに鬼界のスーパースターかも。

第三セクター京都丹後鉄道の大江駅前に建てられた鬼の像

佐藤館長曰く、「鬼は、人間の力ではコントロールできない超能力的な大きな力を持ったものだと思います。人間の力を超え、人間の生活を支配する、善悪を超えたものだった。それが「善と悪」「正と負」という二極分化する思想の中で、鬼が悪魔的なもの、反道徳的なものとして表現されたのです」

うーん、何やら、奥が深い! それではいよいよその鬼の正体に近づくべく、「日本の鬼の交流博物館」へと進んでみます!

GOGO〜〜〜!

鬼は私たちの生活に密接していた!屋根の上にもいた鬼!

入り口に築かれた巨大な鬼瓦は、愛媛、愛知、淡路といった鬼瓦の産地で焼いたものを一つに合体させたものだとか。そういえば、よく寺院の屋根に見られる鬼瓦は、魔除けの意味を持つと言われます。そう考えると、やはり鬼は人の役にも立っているのです。

全国各地の鬼師の力が結集した巨大な鬼瓦! パワーもすごそうです。

「鬼瓦を作る人を鬼師と呼びますが、二人の鬼師、奈良の小林章男先生と淡路の山田脩二先生が日本全国の鬼師に声をかけてくださり、この巨大鬼瓦が完成しました。また、館内には飛鳥時代から現代まで、50点の実物や複製の鬼瓦が時代別に展示されています。これも小林先生の研究の成果で、鬼瓦の移り変わりがよくわかります」

鬼師であり、瓦の研究家でもある小林先生は、研究の一環として、複製なども制作。飛鳥時代に瓦が百済から伝わった時は、鬼ではなく、蓮華の模様だったそうです。奈良時代に入り、獣系の顔に変わり、鎌倉時代以降、角を持った鬼の顔になっていったのだとか。やはりその時代の意味づけで少しずつ鬼の形相も変わってきているのです。

へぇ〜鬼の顔つきにも時代の変化が。

広い館内には、鬼の面が壁一面に飾られています。全体の展示数はおよそ600点。来館された人がまた寄贈してくれるなど、鬼が鬼を呼ぶ博物館だそうです。そこからもこの博物館に交流という言葉がつけられている意味がわかります。確かに、『鬼滅の刃』ブームでいきなり鬼が身近になったように感じていましたが、伝統芸能をはじめ、鬼のお面、仮面、昔ばなしに登場する鬼など、人間と鬼の関係は実に密接だったと言えます。ことわざにも「鬼の目にも涙」や「心を鬼にする」「鬼に金棒」など、普段何気なく使っている言葉にも鬼がたくさん! テレビ番組名ともなった「渡る世間は鬼ばかり」も元のことわざは、「渡る世間に鬼はない」ですしね。

鬼の種類もいろいろ。鬼の色もいろいろ。はて、何種類ある?

ここでクイズです! 鬼の色は何種類あるでしょう?

子どもの頃によく読んでいた絵本「泣いた赤鬼」に出てくるのは、「赤鬼」と「青鬼」でしたが……。

うんうん。2色じゃないのかな……?

答えは5種類です

「赤」「青」「黄(白)」「緑」「黒」。この5色は仏教から来ており、心を縛る5つの煩悩で、それぞれに意味があるそうです。
「赤」は「欲望」、青は「憎しみ」、黄(白)「心の甘えや執着」、緑は「怠惰や不健康」、黒は「猜疑心や愚痴」なのだとか。

5色! 戦隊ヒーローみたい!

能に登場する般若の面は、嫉妬や恨みをつのらせた女の面と言われますし、こう考えると、ますます、鬼は人間の心と深い関係があるように思えますね。

佐藤館長は、「もともと鬼は形のないものでした。祖先の霊とか自然のエネルギーとか、人間の力を超えたものとして、恵みをもたらしてくれるものであったり、雷などの災害を引き起こすものを鬼とみなしてきたんです」と語ってくれます。

確かに、そもそも鬼は無形のものであり、人間が想像の中から形づくってきたのです。博物館に展示された鬼の面を見ていると、中国や韓国の舞踊で使われている仮面と似たものも数多く見受けられます。世界各国、それぞれの地域で悪事や災いの象徴としたり、それを祓うための祈りや舞踊にも使われたりしていたのです。

日本以外にも鬼のような存在はいたんですね。

さらに時を遡れば、2つの伝説に! そして大江町にはあの鬼も!

ここ大江山に残る鬼伝説には、さらに時代を遡る2つの伝説があります。一つは、『丹後風土記残決』に記されたもので、陸耳御笠(くがみみのみかさ)という土蜘蛛が、崇神天皇の弟である日子坐王(ひこいますのきみ)の軍勢と由良川筋で戦い、与謝の大山(現在の大江山)に逃げ込んだという説。

土蜘蛛も有名な妖怪ですね!

もう一つは、6世紀の末頃、河守荘三上ヶ嶽(現在の大江山)に悪鬼が集まり、人々を苦しめていたところ、勅命を受けた聖徳太子の異母弟である麻呂子親王が退治し、世に平安をもたらしたという説です。

一つの地に3つの伝説があることからも、やはり大江山には、古くから鬼と共に時代を経てきた歴史が息づいているのですね。

鬼と言えば、美味しい鬼もいます!

「鬼といえばあれを忘れていない?」とお思いの方も多いですよね。そうです。鬼と言えば酒! 

言われてみれば「鬼」って名前の酒多いですよね! ってことは……

この町にはたくさんの酒もあるんです。

『大鬼』『鬼の舞』といった地酒から、最近では『丹波鬼ワイン』や『鬼のどぶRock』や『鬼ババァー』といったどぶろくまで! 大江に来たら、鬼伝説を語りながら、一杯やるのも良いですよね! というわけで、鬼のお酒で一杯やりながら、私は再び、あちらの世界に行ってきます~!

鬼瓦のモニュメントが建つ大江駅前にある大江山鬼瓦公園

日本の鬼の交流博物館

住所:京都府福知山市大江町佛性寺909
電話:0773-56-1996
開館時間:9時~17時(入館は16時30分)
入館料:一般330円 高校生220円 小・中学生160円
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合はその翌日)
    祝日の翌日、年末年始(12月28日~1月4日まで)
公式Webサイト:https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/onihaku/

書いた人

旅行業から編集プロダクションへ転職。その後フリーランスとなり、旅、カルチャー、食などをフィールドに。最近では家庭菜園と城巡りにはまっている。寅さんのように旅をしながら生きられたら最高だと思う、根っからの自由人。

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我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。