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2019.08.27

飲んで騒ぐフェスから粋な舟遊びまで、バラエティに富んだ江戸のお月見事情【長月候】

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江戸ごよみ、東京ぶらり 長月候

“江戸”という切り口で東京という街をめぐる『江戸ごよみ、東京ぶらり』。江戸時代から脈々と続いてきた老舗や社寺仏閣、行事や文化など、いまの暦にあわせた江戸―東京案内。
江戸のころは旧暦ゆえに晩秋を迎える時期ですが、今の9月は朝夕はしのぎやすいものの日中はまだまだ暑い日々が続きますね。今月は、江戸市民の楽しみ「月見」についてのお話しを。また江戸情緒あふれる東京の月見行事や花ならぬ”月より団子”なおいしい情報など、9月を楽しむ東京ぶらりをご案内します。

豊作を願う十五夜、収穫に感謝する十三夜

お月見ってしますか?子どものころはともかく、大人になると年中行事から縁遠くなってしまいがち。夜空に浮かぶ月に豊作を祈る十五夜と収穫への感謝をささげる十三夜、江戸っ子にとって秋のお月見は欠くことのできない習わしでした。

俳句でいえば「月」は秋の季語。一年中夜空に輝く月ですが、秋の月は特別なものだったようです。旧暦では、7月、8月、9月が秋の季節です。中国の「中秋節」の影響をうけて、日本では旧暦8月15日(2019年は9月13日ごろ)「十五夜」の月をとくに愛でたといいます。ちなみに中秋(ちゅうしゅう)とは旧暦8月のこと、中秋は旧暦8月15日のことを指しました。だから「中秋の名月」とは、8月15日の月のことなのです。

『江戸自慢三十六興 道灌やま虫聞』/国立国会図書館デジタルコレクション

さて江戸市民は、「中秋の名月」をどのように楽しんでいたのでしょうか。江戸の年中行事を記した天保9(1838)年刊『東都歳事記』には、

「看見(つきみ)。諸所賑はへり(家々、団子・造酒(みき)・すすきの花等、月に供す。清光のくまなきにうかれ、船を浮かべて月見をなす輩多し)」。

家々でお供えをしたり、舟から風流なお月見を楽しんでいたことがわかります。「中秋の名月」は、里芋を供えたことから「芋名月(いもめいげつ)」とも呼ばれたとか。

そして十五夜だけではなく、旧暦9月13日(2019年は10月11日)「十三夜」にもお月見をしました。十五夜だけお供えをして十三夜にしないと「片月見」になると言い、不吉なことが起きると信じられていたようで、きちんと両日に供物をしたと言います。

『東都歳事記』にも

「看月(つきみ)。(後の月宴という。衣被(かわむかぬいも)・栗・枝豆・すすきの花等、月の供す。船中月見多し。略)」とあります。(*衣被とは里芋のこと)

こちらは、栗や豆を供えたことから「栗名月」、「豆名月」そして「あとの月」などと呼ばれていました。

飲んで騒ぐ月見フェス「二十六夜待ち」

十五夜、十三夜以外にも、フェスのように盛り上がった「二十六夜待ち(にじゅうろくやまち)」がありました。これは旧暦7月26日のお月見のこと。深夜に昇る月を家族やお仲間と飲み食いして待ち、月が昇るとみんなで遥拝をする。二十六夜の月光には、阿弥陀三尊(阿弥陀如来、観音菩薩、勢至菩薩)が現れると信じられていたこと、月待ちを口実に宴会を楽しめたことで、江戸庶民には中秋の名月よりもお楽しみだったようです。

『江戸自慢三十六興 高輪廿六夜』/国立国会図書館デジタルコレクション

初秋のまだ暑い時期ということもあって、品川や芝浦などの海辺の酒楼や海岸に月待ちで大いににぎわい、海上で観月するような粋な遊び人も多かったとか。明治30年代までは続いていたようですが、今はなくなってしまった江戸のお月見フェス。空が広くて夜の闇が深かった江戸のころは、秋の深まりにあわせて何度もお月見を楽しんだのですね。

向島百花園で江戸を感じる月見の宴

今でも江戸らしい情緒あふれる月見の宴を開いているのが「向島百花園」です。江戸の文化・文政期(1804~1830年)に骨董商の佐原鞠塢(さはらきくう)とお仲間の文人墨客たちとで造りあげた民営の庭園が向島百花園のはじまりです。風光明媚な向島は、江戸市民が四季折々に散策に出向く行楽地。佐原の造った庭園にも多くの江戸市民が訪れたとか。そんな向島百花園では毎年園内で「月見の会」を開催しています。

風情のあるお月見が楽しめる向島百花園。毎年のお供え団子は「言問団子」謹製。写真提供/向島百花園

行灯などに照らされた夜の庭園では、江戸時代の月見室礼(飾り)や箏の演奏、お点前がいただける茶会もあり、情趣に富んだお月見を楽しめます。

夜21時(最終入園20時半)まで開園しているので会社帰りにどうぞ。写真提供/向島百花園

月より団子!江戸老舗の団子でお月見

お月見にかかせない供物の団子。天保8年(1810)年から30年かけて喜多川守貞がまとめた江戸風俗史『守貞謾稿』には、江戸では丸い団子を、京都や大阪では小芋のかたちにとがらせた団子を、供えると記されています。「花より団子」の言葉があるように、秋の月がどれだけ美しくとも、昔も今も外に出れば自然と小腹がすいてくるもの。月とともに楽しみたい、おいしい団子を手掛けている江戸創業の団子名店を2軒ご案内します。

団子名店1.言問団子

向島は隅田川のそばで店を構える「言問団子」(ことといだんご)。幕末のころ、植木屋を営んでいた初代が向島に遊びにくる客に向けて、自家製団子を売り出したところ、うまいと話題となり団子屋へ。平安時代の歌人で希代のモテ男である、在原業平が旅の途中に詠んだ「名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 わが思う人は ありやなしやと(都と名のつく都鳥ならば教えておくれ、私の恋い慕うあの人は無事でいるのかと)」の古歌から「言問団子」と名をつけると、たちまち名物菓子となったとか。団子は小豆餡、白餡、味噌餡と3種類あり、串を刺していないのが特徴。愛らしい言問団子を積み上げて、月見を楽しむのもいいかもしれません。「月見の宴」が行われる向島百花園のお供え団子を毎年手掛けているのが「言問団子」。また向島百花園でも、イベント期間は三色の言問団子をいただけるそうです。

なめらかな舌触りの「言問団子」。喫茶も併設された広々とした本店でいただきたい。/690円(お茶付き)

都鳥をモチーフにした「言問最中」は手土産にぴったりな愛らしさ/290円(一個)

団子名店2.羽二重団子

江戸文政2(1819)年創業の「羽二重団子」(はぶたえだんご)。風光明媚で知られた根岸の里に、植木職人だった初代が開いた茶店がはじまり。茶店を訪れた客から「ここの団子はきめ細かくて羽二重のようだ」との褒め言葉が、そのまま屋号になったそう。醤油味の焼き団子と餡団子の2種類ですが、それぞれの風味にあわせて生地を作りわけをしています。香ばしい焼き団子で一杯という人も多く、店にお酒が用意されているのも茶屋の名残り。団子を肴に月見酒としゃれこむのもいいですね。ちなみに十五夜と十三夜は、特別な月見団子を販売するそうですよ。

和樂的おすすめ品書きは岡倉天心の名がついた「天心セット」。醤油味の焼き団子と豊島屋本店の純米無濾過原酒は相性抜群。/1,200円

明治の文豪、夏目漱石や正岡子規も足繁く通った羽二重団子本店。2019年春にリニューアル、明るく開放的でモダンな団子カフェに。

知っておきたい二十四節気、9月は白露と秋分

最後に江戸市民の暮らしに寄り添っていた暦・二十四節気(にじゅうしせっき)についてもご案内を。2019年の長月こと、9月の二十四節気は9月8日の「白露(はくろ)」と9月23日の「秋分(しゅうぶん)」です。

8日の「白露」は、暑さがおさまりはじめ草花に朝露がつくようになってくるころ。季節の変わりはじめなので体調にはご注意を。23日は、昼と夜が同じ長さになる「秋分」。二十四節気のなかでも「夏至冬至」「春分秋分」の二至二分(にしにぶん)に含まれる秋分は、季節が大きく変わる節目です。お彼岸の中日にもあたり、暑さ寒さも彼岸までと言われるように、季節が一気に動く時期です。

秋分越えると秋本番、澄んでくる夜空に大きな月が美しい9月です。

江戸的に楽しむ、9月の東京案内

掲載施設&店舗情報

向島百花園
住所:東京都墨田区東向島3-18-3
電話:03-3611-8705
営業時間:9:00~17:00
休日:年末年始
■「月見の会」■
9月12日(木)~9月14日(土)
営業時間:9時~21時(最終入園20時30分)
https://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index032.html

言問団子
住所:東京都墨田区向島5-5-22
電話:03-3622-0081
営業時間:9:00~18:00
休日:火曜
http://kototoidango.co.jp/index.html

羽二重団子
住所:東京都荒川区東日暮里6-60-6
電話:03-5850-3451
営業時間:10:00〜18:00
休日:年末年始
https://habutae.jp/

書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。