懐かしい記憶の地へ
新潟県魚沼市。言わずと知れた、米の名産地である。同じ銘柄米であってもワンランク高く扱われるほど、魚沼ブランドは名高い。その実力は身をもって体験してきた(魚沼市産コシヒカリと海苔の香りにうっとり♡ 手づくりおにぎり「いちば屋」【新潟県魚沼市を楽しみ尽くす】)。
米が有名ということは、同時によい地酒がある、ということでもある。
「緑川」。この魚沼の銘酒の名を耳にするたび、初恋を思うような気分になる。大学時代、冬の魚沼で合宿をしたあの日、地元の人が雪の中から取り出し振る舞ってくれたのが他でもない「緑川」だった。二十歳を迎えて2か月、かまくらの中で恐る恐る口を付けた初めての日本酒に夢中になり、そのくらいでやめておけ、と苦笑された記憶が20年以上経った今なお残っている。緑川はまごうかたなき私の原点なのである。

緑川酒造、その現場へ
緑川酒造は、4~5人程度の少人数であれば工場見学を受け入れている。職人たちの神聖な仕事場であることを念頭に置きながら、いざ工場内へ。

「清潔」に匂いがあるのかは分からない。ただ、工場内はどこも「清潔な匂い」が漂っていた。工場なのだから当たり前だろうと思うかもしれないが、そこには言葉にできない、何らかの存在が感じられた。自然と、見学者の気も引き締まる。
美しい。具体的に何がどう、とは知識不足もあって言えないのだが、そんな感想が浮かんだ。
工場を案内してくれたのは、次期社長である。日本酒に対する真っ直ぐな姿勢もさることながら、7S(整理・整頓・清掃・洗浄など食品衛生の管理活動)の徹底が印象的だった。「綺麗な環境でないと駄目なんです」。
1時間ほどの見学だったが、緑川酒造の気質と気概が伝わり、森林浴のような穏やかな爽快感を覚えたのだった。
「緑川」試飲、そして
工場見学の後、今回特別に3種の試飲をさせていただいた。緑川酒造の商品は決まった店舗のみに卸しており、工場での購入や通販はできないのだが、好みの種類を見つけるのに最適だ。
緑川、といっても数種が存在するのだし、「あの味」の記憶に少し不安もあった。が、口にした瞬間、杞憂であると悟る。生まれて初めて飲む日本酒が緑川の大吟醸とはずいぶん贅沢だねえ、と嬉しそうに言われたのを思い出す。
ああ、これだ。「原点」だ。日頃、様々な記憶を外付けにして片っ端から忘れていく自分らしくもない、たしかな記憶。

3種を繰り返し順番に味わう。まるでクリスタルだと思った。透き通って凛と芯の通る、佇まい。信念と矜持がダイレクトに感じられるその味には、背筋の伸びるような心持ちになる。
純米の軽やかさ、大吟醸の華やかさ、スパニッシュオークのけぶるような舌触り。表情は変わるものの、コアな部分はすべてに共通している。ロットによって少しずつ米の特質は変わるものの、「緑川の酒」の根幹が揺らがぬよう、職人の研ぎ澄まされた舌で厳格に調整されているのだという。恐らくそれが通奏低音として存在するがゆえなのだろう。
懐かしさの補正が存在するのだとしても、今、この瞬間に感じる気配もまた真実なのだと思う。信念をもって真正面から向き合い、妥協なき道を進む者からしか感じられぬ、透明な強靭さ。緑川の酒に感じた「クリスタル」とは、それを生み出す職人の姿そのものだったのかもしれない。
緑川酒造 基本情報
所在地:〒946-0043 新潟県魚沼市青島4015-1
駐車場:あり
営業時間:9:00~15:00
定休日:土曜日、日曜日、祝日など
https://www.niigata-sake.or.jp/kuramoto/midorikawa/
酒蔵見学は無料(要予約、受入人数は4、5人まで、団体バスNG)
電話:025-792-2117
新潟県魚沼市をのんびり旅して、魅力を体験してきました!
【新潟県魚沼市を楽しみ尽くす】シリーズ一覧はこちら。
取材協力:小千谷観光バス株式会社http://www.ojiya-kanko.com

