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2020.10.24

ドクロを抱いて眠る美人の正体は…女盗賊「鬼神のお松」ら悪女たちの人生

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幸せな生活が一転、ある日を境に悪の道を歩み始める……。「悪女」と呼ばれる女性も、そこに至るまでにさまざまな苦悩がありました。今回紹介するのは、若い頃の経験から悪の道へと歩みを進めた女性たち。ふたりとも「美人盗賊」として名高く、さまざまな浮世絵や小説に描かれてきました。

ドクロを抱いて眠る女盗賊、鬼神のお松

野田サトルの漫画『ゴールデンカムイ』に登場した女盗賊、蝮のお銀。彼女のモデルとなった伝説上の人物が、鬼神のお松です。

深川の遊女だったお松は、亡くなった父のドクロを抱いて眠るなど、妖艶な一面を持つ美女。そのうちに「骸骨お松」の異名を持つ評判の芸者になります。
お松は、仙台藩士のもとに嫁ぎ、幸せな結婚生活を過ごしました。ところがある日、夫が夏目四郎三郎という男に殺されてしまいます。お松は復讐を決心。夫の仇を討つべく長旅に出ますが、その途中に強請り(ゆすり)や強盗を重ねて、女盗賊となるのです。

旅を続けた末、ついに敵の夏目を見つけ出したお松。正体を隠して旅の道中を一緒に歩き、川を渡る際に「ここを歩いて渡るのは難しい」と持病を訴え、夏目に背負ってもらいます。そして、彼の首筋めがけて、隠していた小刀を振り下ろすのです。そのシーンを描いた浮世絵がこちら。「鬼神のお松」の異名にふさわしい、鬼気迫る形相をしています。

『鬼神於松四郎三郎を害す図』月岡芳年 ロサンゼルス・カウンティ美術館

夏目を殺し、本懐を遂げたお松。その後も20人を超える盗賊に囲まれるも巧みに盗賊頭を倒し頭目に収まったり、手下を率いて近隣の村々を略奪して回ったりして「鬼神のお松」と恐れられようになりました。

全身刺青の美人盗賊、雷お新

全身に刺青を入れた女盗賊が、幕末の大阪でその名を轟かせました。彼女の名前は、雷お新(かみなりおしん)。背中には、溪斎英泉(けいさいえいせん)の浮世絵「北条時政」、尻には竜、股から腿にかけては岩見重次郎の大蛇退治の図、腹には『水滸伝』の豪傑のひとり、九紋龍史進(くもんりゅうししん)、右腕には金太郎、左腕には4名の人物画。全身に隙間なく、豪華絢爛な刺青が施されていました。

国立国会図書館デジタルコレクション

土佐の武士の家に生まれたお新は、次々と縁談が持ち込まれるほど、近所でも有名な美少女でした。18歳の頃、結婚しますがなかなか相手の家になじめず、すぐに離縁を言い渡されてしまいます。まだまだ若く、離縁されたことがショックだったお新は行くあてもなく、家出を決意。幕末の動乱の中、お新がたどり着いたのは大阪でした。

頼る者も金を稼ぐ術もなく、町中で万引きや恐喝など悪事に手を染め始め、2,3年後には盗賊「雷お新」の名前が大阪中に知れ渡ります。やがてお新は、全身に刺青を入れはじめました。当時、女性が派手な刺青を入れることが大変珍しかったため「全身刺青の女盗賊」は瞬く間に注目を集めました。お新は25歳の頃から何度も監獄に入れられますが、脱走や赦免などで再び世の中に放たれ、そのたびに窃盗や恐喝を繰り返しました。それまでの報いでしょうか、40歳の若さで流行り病にかかり、この世を去ります。

死後も「毒婦」として、世間の注目を集め続けた雷お新。「全身の皮膚をナメシ革にして、私の自慢の刺青を、永遠に残してくれ」彼女の遺言のとおり、全身の皮膚は標本として大阪医科大学に保管され、大正時代には警察主宰の展覧会などに出展されました。

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アイキャッチ画像:国立国会図書館デジタルコレクション