日本でもっとも知られたイケメンといえば、『源氏物語』の主人公の光源氏(ひかるげんじ)でしょうか。光源氏は架空の人物ですが、そのモデルの一人ともいわれ、「実在」した超絶美男子をご存じですか? 『伊勢物語』の主人公と言われている平安貴族・在原業平(ありわらのなりひら)です。
『源氏物語』はもちろん、『伊勢物語』についての知識がほぼゼロでも楽しめる、在原業平のモテ伝説・エピソードを中心にまとめます。
在原業平伝説
イケメンと言われるのには理由があります。そのエピソードとは?
六歌仙に名を連ねる和歌の名手
在原業平は、平安時代の貴族(825~880年)。父に平城天皇の皇子・阿保(あぼ)親王、母に桓武天皇の皇女・伊都(いと)内親王をもつ貴公子です。
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在原業平は和歌(短歌などの詩歌)に秀で、平安時代を代表する6人の歌人「六歌仙(ろっかせん)」に名を連ねます。ちなみに、六歌仙には、在原業平のほか、僧正遍照(そうじょうへんじょう)、文屋康秀(ぶんやのやすひで)、喜撰法師(きせんほうし)、大伴黒主(おおとものくろぬし)、小野小町(おののこまち)がいます。
在原業平の作風は情熱的で、
「われならで 下紐解くな あさがほの 夕影待たぬ 花にはありとも」
訳:私以外の男の前で下紐をほどかないでくださいね。いくらあなたが夕日を待たずにしおれる朝顔のように、心変わりしやすい女性だとしても。
といった、お色気系の和歌を多数残しています。
和歌達人なだけでなく容姿端麗なイケメン!
和歌が上手なだけでなく、在原業平はかなりの美男子でもあったそうです。平安時代の歴史書『三代実録』には、「業平は体貌閑麗(業平はイケメン)」という記録があります。また、平安時代に成立した歌物語『伊勢物語』の主人公とされ、作中で数えきれないくらい多くの女性と関係し、エロティックな和歌を詠んでいます。
モテモテぶりと輝くような美しい容姿……『源氏物語』の主人公・光源氏のようではありませんか? 日本を代表するプレイボーイといえば光源氏を思い浮かべる方が多いでしょうが、光源氏は架空の人物。実在した最強のモテ男といえば、在原業平をおいて他にはいないでしょう。
百人一首に収載された和歌
業平の歌は、百人一首にも収載されています。
「ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは」
訳:さまざまな不思議なことが起こる神代にも聞いたことがありません。竜田川がこんなに色鮮やかに紅く染められるのは。
紅葉の名所、奈良県の竜田川の情景を読んだ歌です。水を真っ赤に染めているのは一面の紅葉。……と、一見美しい秋の景色を詠んだ歌のようですが、そこはプレイボーイ・業平。この歌は清和天皇の后・高子(たかいこ)の屏風を題材にしているとも言われています。高子と業平は、実はかつての恋人同士! 真っ赤に燃え上がるような恋をした日々を詠んだのではないか、と解釈することもできます。
参考文献
『百人一首がよくわかる』橋本治
小学館 全文全訳古語辞典
扉絵 藤原高子(二条の后)と逃避行する業平
『祇園社頭油法師驚忠盛/業平朝臣負二条后落引図』国立国会デジタルコレクションより