Culture
2022.10.31

小堀遠州の意外な庭園づくり!ヨーロッパの風吹く岡山頼久寺

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江戸時代初期の茶道インフルエンサー、小堀遠州(こぼりえんしゅう)。徳川家康、秀忠、家光に仕えた大名だ。茶道具をプロデュースしたほか、江戸城の茶屋などをデザインしたといわれる建築家でもある。

遠州は10歳のとき千利休に出会い茶の湯にめざめた。15歳で千利休の弟子だった戦国大名・古田織部(ふるたおりべ)の門下生に。師匠の織部は、ぐにゃぐにゃに曲がった茶碗をつくって「ひょうげた(ひょうきんな)茶」などと称されたが、遠州は違う方向で活動。平安貴族の和歌も好み、「綺麗さび」とよばれる上品な茶道を大成した、というのが遠州の一般的なイメージである。

しかし、和風な遠州のイメージをひっくり返す情報を入手した! 遠州がつくった庭がある岡山の頼久寺(らいきゅうじ)を見学したところ、音声ガイドで「この庭はヨーロッパ庭園を参考にしています」と流れてきた。遠州の庭にヨーロッパのエッセンスがあるだと!?

まさかッ!!!

さっそく、ご住職にくわしく聞いてみた。尚、聞き手はオフィスの給湯室で抹茶をたてる「給湯流茶道(きゅうとうりゅうさどう)」。「給湯流」と表記させていただく。

西欧大好き天皇たちと、親しかった小堀遠州

お話を伺ったのは、ご住職の生島裕道さん。高校生のころから遠州の庭を見に行ったり、自ら遠州のお茶を習ったり、遠州を愛するお方だ。

給湯流:頼久寺の庭にヨーロッパ庭園の要素が入っているというのは、どのあたりですか?

生島:この、刈込(かりこみ)などです。

給湯流:言われてみると、たしかにヨーロッパ風ですね。

生島:こんな風に、人工的に刈り込みをして整形したのは遠州が初めてだといわれています。それまでの日本庭園は自然の形を生かしたものが多かった。しかし遠州は、人工的に整形するヨーロッパ式の植栽を導入したのです。

給湯流:すごい! 遠州はどうやってヨーロッパ庭園の情報を手に入れたのでしょうか?

生島: 遠州は徳川幕府のいわば官僚でしたから、ヨーロッパの情報を入手できたのだと思います。

さすが人気インフルエンサー!!

戦国時代や江戸時代初期の天皇たち、じつは西欧好きが多かった。遠州は幕府だけでなく、そんな天皇たちとも親しくしていたらしい。1613年、キリスト教宣教師から西欧技術を学ぶ宮廷付工人を後陽成天皇が任命したという。その中の一人が遠州だったという説がある。当時のヨーロッパのルネサンス・バロック庭園の手法を遠州が知った可能性大だ。

1627年ごろには後水尾天皇の隠居所の造営を任された遠州。その仙洞御所に、なんとヨーロッパ式の噴水をつくったらしい。西欧好きだった後水尾天皇が、たいそう喜んだことだろう。

古くから中国でも、龍の像の口などから水が流れるものはあった。今も日本の神社仏閣などでも見られる。しかし水が真上に噴出する噴水はサイフォン形式で、ヨーロッパの技術だ。遠州がヨーロッパの情報を集めたことが、予想される。

太平の世にブレイクした遠州、生まれてきたタイミングもよかった

給湯流:ちなみに頼久寺の庭には、どんな意味がこめられているのでしょう?

生島:手前の白砂は海を表し、後方サツキの大刈込は大波を表しているのです。

給湯流:なるほど。ヨーロッパの技法で刈り込んだサツキを、枯山水のデザインにきちんとなじませているのですね。当時、誰も知らないヨーロッパの最先端デザインをうまく日本庭園に取り込んだ。遠州はかっこいい、おしゃれ、センスのいい人だ!

生島:遠州以前につくられた禅の庭は厳しさを漂わせていますが、遠州の庭はもっと優しい。なごみの心があると思います。

給湯流:ところで遠州というと、二条城のデザインをしたり天皇と文化サロンを開いたりと、京都のイメージが強いです。しかし、なぜ岡山にも庭をつくったのですか?

生島:遠州の父親が徳川幕府に命じられ、岡山・備中松山に移住したのです。遠州は13年間、この土地を治めました。頼久寺の入口は、敵に攻め込まれないように入り組んだ設計になっています。足利尊氏から続く、戦国の世のなごりですね。

給湯流:古田織部は家康に嫌われ、切腹させられました。しかし遠州のお父さんはうまく立ち回り、徳川幕府の信頼を得たのですね。

生島:江戸時代、遠州が出した制札(せいさつ)が寺に残っています。「勝手に鉄砲をつかうな」といった内容です。当時、村の人々が食用の鳥などを鉄砲で撃っていたのでしょう。

給湯流:激動だった戦国時代に比べると、だいぶ平和な命令ですね(笑)。

生島:利休や織部は、新しい茶の湯を切り開き権力を持ちすぎたことで、秀吉や家康に殺された。遠州は、同じ失敗をしたくないという気持ちもあったと推測します。将軍や天皇とうまくつきあい、平和を維持したのでしょう。

給湯流:遠州はいいタイミングで生まれてきましたねえ。権力者に信頼されるポジションで働き、その立場をうまく使って西欧の情報も入手。そして斬新な庭をつくっていった。遠州は、サラリーマンも憧れる存在ともいえますね! お話、ありがとうございました。

*写真はすべて頼久寺より提供

頼久寺

頼久寺公式サイト
庭園拝観時間 午前9時~午後5時 ※年中無休
拝観料 大人:400円、中高生:200円
JR伯備線、備中高梁駅下車 徒歩15分

書いた人

きゅうとうりゅう・さどう。信長や秀吉が戦場で茶会をした歴史を再現!現代の戦場、オフィス給湯室で抹茶をたてる団体、2010年発足。道後温泉ストリップ劇場、ロンドンの弁護士事務所、廃線になる駅前で茶会をしたことも。サラリーマン視点で日本文化を再構築。現在は雅楽、狂言、詩吟などの公演も行っている。ぜひ遊びにきてください!