◎メンバー紹介
◆瓦谷登貴子:ミーハー魂を忘れない大河ドラマ歴ん十年の強者。歌舞伎や文楽など、伝統芸能にも傾倒。(座談会では瓦谷と表記)
◆ちあき:大学時代に源氏物語を専攻。平安時代&ヴィジュアル系バンドをこよなく愛す。
◆山見美穂子:茶の湯と少女漫画が好き。ロマンス小説を愛読する永遠の文学少女。(座談会では山見と表記)
◆黒田直美:にわか歴女の城好き、戦国好き。最近は和歌にもハマる。(座談会では黒田と表記)
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キュン死しそうな三角関係にメロメロ
黒田:まずはこれだ!という前半の名シーンを語っていきましょうか。
瓦谷:私は、蔦重と鳥山検校(とりやまけんぎょう)※1と花の井(瀬川)※2 の三角関係に心を持っていかれました。検校と花の井が捕まって、釈放された花の井に検校からの離縁が言い渡され、一目もはばからず蔦重が花の井を抱きしめるシーン。もうこの場面にキュンとしましたね。幼馴染みの蔦重と花の井はずっと思い合っていて、二人の恋愛話ではあるんだけれど、そこに金も地位もある検校が現れ、見請けされてしまいましたよね。それが、最後は検校がすっと身を引いたわけじゃないですか。あれを見たら「検校もいい人じゃない!」と(笑)、気持ちが盛り上がりました。
ちあき:検校を演じた市原隼人(いちはらはやと)さんがすごく大人になっていてびっくりしました。まだまだ若い役者のイメージでしたが、悪人というか、存在感のある盲人の役で、目の見えない演技が絶妙でした。見えていないのに、見透かしているあの目が怖いみたいな、凄みがありましたね。
黒田:NHKのインタビュー記事で、市原さんが「目を白濁にしたいとお願いした」とあり、「これまでの大河ドラマで見なかった人物像なので、記憶に残るようにしたかった」と書かれていました。それだけ役に入れこんでいたんですね。そして「花の井に対して意地とプライドがあった検校が、人を思う気持ち、命を大切にする気持ちに気づかされていく」と語られていて、こういったシーンもあって、イメージしていたよりも、なんだかピュアで、普通の男女の恋愛物もあって、吉原が金と欲だけじゃないみたいなところに、ますます引き込まれていきました。
山見: 私は、花の井を演じた小芝風花(こしばふうか)さんが昔から好きだったので、期待していたんです。以前NHKで放送された『トクサツガガガ』のちょっとクセのある、オタクを隠してる役やブレイクした『妖怪シェアハウス』でのコメディー役が似合う女優さんだなと思っていたんです。そうしたら、今回の大河では、全く違う色っぽい役で登場して、こんな役ができるんだと引き込まれました。本当に女優さんって、役で化けるんだなとびっくりしましたね。
瓦谷:脚本家の力だと思うのですが、最初はドロドロしたところをちゃんと描いて、そこからピュアな部分に持っていくのがうまかったですよね。亡くなった遊女が着物を剥ぎ取られ、葬られるシーンから始まって、極悪の親父たちを前面に出していたけれど、話が進むうちに、人間味が少しずつ出てきたのが良かったです。花の井は花魁で、検校は高利貸しの大富豪、金と地位で花の井を手に入れて、ちょっとストーカーっぽいし、花の井を自分の元に置いておく感じとか怖かったけれど、別れる場面では、検校ならではの深い愛があったことも伝わるシーンでした。悪人になりきれないっていうか。そこがなおさら悲しかったけれど、そして花の井と蔦重はやっぱり結ばれないっていう描き方も、なんか納得しちゃいました。普通に考えたらやっぱり、周りを巻き込んで、ものすごい犠牲を払っているから、無理だよなぁって思ったし、本当三人三様、うまいなぁと感じた名シーンでした。
前衛的で、酔狂だけど憎めない平賀源内のすごさ
黒田:もう一人のダークホースが、私は平賀源内だったんですよね。今まで知っていた源内のイメージを打ち破ったといいますか。
瓦谷:今までは変人とか奇抜な人といったイメージが強くて、文献などにも面白おかしく書かれているものが多かったけれど、なんかすごく魅力的でした。 安田顕(やすだけん)さんという俳優の魅力でもあったと思うんですが、彼の天才的な部分とか、その凄さみたいなのが伝わりました。早く生まれ過ぎちゃった人だったんだなと。薬物でおかしくなっていったあの感じもめっちゃくちゃうまくなかったですか? もう涙が自然に溢れてくるとか、見えないものが見えてる幻覚の時とか、こんな演技を見せられたらロスになります!
黒田:源内と蔦重と、さらに年の離れた里見浩太朗(さとみこうたろう)演じる書物問屋(しょもつどんや)の須原屋市兵衛(すはらやいちべえ)との関係も良かったですよね。年齢も立場も超えて、分かり合えるというか。未来を作っていこうとする心情で結ばれていた感じが素敵でした。
山見:そういう点では、投獄された源内のところを訪れた田沼意次(たぬまおきつぐ)のシーンも良かったです。手を握り合って、分かり合っていたんだというところが、最後、すごく切なかったです。
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大河ドラマを通して日本文化の良さを再認識!
黒田:今回のべらぼうでは、庶民の間に広まった日本文化をうまく描いているな~と思っていて。吉原を中心とした人々の生活の中にも文化が浸透していて、狂歌の会では、平安時代の和歌をパロディ化したり、日本の豊かさを感じられてちょっと感動でした。
ちあき:ドラマに登場した狂歌は、有名な百人一首の本歌取り※3 したものもありましたね。平安時代と江戸時代って700年ぐらい時代が飛んでいるのに、平安時代の名残があちこちに映し出されているなと感じました。遊女の名前にも、『源氏物語』に出てくる女性の名前がつけられていたり。「朝顔」もそうですよね。吉原で花魁のもとに通う客が、「3回通わないと相手をしてもらえない」というのも、平安文化の「通い婚(かよいこん)」の名残です。前作の『光る君へ』では、男性が女性のところに通うような生々しいシーンは、描かれていませんでしたが、江戸時代には平安時代への憧れが、武士だけでなく、庶民にもあったのかもしれませんね。
黒田:これも『光る君へ』を意識しているのかなと思ったんですが、まひろが女性なのに漢学に通じているというシーンがよく出てきましたよね。蔦重の奥さんになるていも、漢詩を学んでいて。なんか時代を超えて通じるものがあるなと。
ちあき:それは娘も言っていました。「まひろじゃん!」と(笑)。この時代、女性たちにも、ちゃんと文化を受け継いでいたのは嬉しいですよね。
瓦谷:今回の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』では、そういう細かなシーンがすごく丁寧に描かれているなと思いました。前作が平安で、流れで行くと戦国時代になるんだけど、そこを飛ばして江戸時代になったことで、脈々と流れている和歌などの日本文化がちゃんと投影されているんだなと感じられたのはすごいなと思います。
山見:平安時代には紙がすごく貴重に扱われていましたよね。それが江戸時代になると、庶民が本を読んだり、浮世絵を買ったりすることができる時代になったという進化も垣間見れて。大河って、歴史のいろいろな部分を映し出してくれるんだなと思いましたね。
粋ってこういうこと?男性の髪型や服装に注目!
山見:私、男性の髪型や服装に、すごく見入ってしまうんですが、蔦重のちょんまげ姿ってかっこよくないですか。蔦重にいつもいじわるする対立的な立場の、風間俊介(かざましゅんすけ)さん演じる鶴屋は、ちょっと地味な感じのちょんまげで。服装もきちっとした着物を着込んでいて、構えている感じがするんですよね。実は蔦重を畏れているんじゃないかって。一方、蔦重は、ボサボサな感じのちょんまげや気崩した着物の着方が江戸っ子の粋を感じさせて、それが女性たちにも受けていたんじゃないかなと思うんです。そういう対比した描かれ方も面白いな~と。
瓦谷:大河の小道具や衣装さんって、すごく念入りに調査して作っているそうなんです。髪型も床山さんがいて、時代や役柄によって違いを出しているんでしょうね。
山見:逆に須原屋は、頭の後ろのタボっていうところが、きれいに膨らんでいて、おしゃれなんですよ。部屋もちょっと洋風で、源内や蔦重を引き立てていく先駆者的なイメージがあるんです。
黒田:確かに須原屋は『解体新書』を出版していますから、先見の明があったというか、海外志向もあり、いろいろなものに通じていたんですね。そういういところが、衣装や小道具からわかるっていうのも面白いですね。
版元と作家や彫師とのやり取りは現代の出版社と似ている?
黒田:今回、本がたくさん登場して、挿絵を描いているシーンも良く出てきましたね。版元が作家に依頼し、一冊の本が出来上がっていく過程も丁寧に描かれていて印象的でした。
山見:浮世絵の彫師が出てきたのも感動的でした。ああやって1枚1枚彫って、何十枚、何百枚と刷れたからこそ、今いろいろな本が、私たちの手に取れるようになっているんですもんね。小学校の時に版画を習うけど、「何で?」って思っていたんですが、日本の出版文化を支えてきたのも刷りものの歴史だということを改めて感じました。
黒田:今まで浮世絵師って一枚摺りの浮世絵を描くイメージだったけれど、歌麿も、重鎮の北尾重政(きたおしげまさ)も本の挿絵を地道にたくさん描いていますもんね。今でいうイラストレーターとしての役割をきちっとこなしていたんだなと。まだ登場していない北斎も最初は挿絵をたくさん描いてましたしね。
ちあき:出版プロデューサーの蔦重が、どうして浮世絵師と組んでブームを作っていったのか、ドラマが始まるまでよくわかっていなかったけれど、蔦重の版元と作家とイラストレーターが組んで本を作っていたところからのスタートだったんだんですよね。
黒田:作家が拗ねて版元が足繁く通ってご機嫌を取るところなんかは、今の出版事情にも通じるなと思えて、ちょっと笑えました。蔦重のそういう軽やかなところが、これから名プロデューサーとして発揮されていくのかなと期待しています。
瓦谷:今はまだ吉原の妓楼主たちに使われて、本屋としても駆け出し的な感じだけれど、ここから歌麿を育て、写楽を生み出して、山東京伝と組んで黄表紙をどんどんヒットさせていくんですものね。そして寛政の改革で松平定信に痛い目に合わされる。後半では、その波乱の中で蔦重がどう成長していくかが見どころになっていくなと。今はまだチャラチャラしている北尾政演(後の山東京伝)も投獄されたり、そのあたりはシビアなシーンになっていくでしょうね。
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黒田:武士たちも武士として生きるか、作家として生きるかという選択に迫られたり。太田南畝は戯作者も狂歌師も辞めてしまいますし、恋川春町は自死してしまいますもんね。そういう時代を経て、今の出版文化があると思うと、感慨深い思いにもなります。
蔦重ドラマは少女漫画の王道だった!
黒田:今回、全編を通して「本」がキーワードになっているなと思うんです。蔦重と花の井が心の支えにしていたのも赤本だったり、遊女たちも貸本を楽しんだりしていたのが印象的でした。版元を閉じることになった鱗形屋孫兵衛が自分のところにあった版木を蔦重に渡すシーンはグっときてしまいました。
山見:私もあそこは泣きました。自分が最初にお金を出して買った本の版木を、自分が受け継いでいくんだという、本屋は任せたよという鱗形屋の想いもある気がしました。
ちあき:花の井が身請けされる時に、花魁たちの吉原での生活が描かれている蔦重の作った『一目千本』を見て、涙ぐむシーンがありましたよね。辛いことの多い吉原で二人が支え合ってきた日々が思い起こされるようで私も泣けました。
黒田:蔦重が結婚したていさんも、父親が大事にしてきた本を子どもたちに読ませたいという強い思いがあって、そこが蔦重と心が通った部分でもあったのもグっと来ました。随所に人と本の思い出が綴られているようで、そのあたりにも脚本家の本に対する愛を感じます。
瓦谷:文化をここまできっちり描いた大河ってなかったと思うんです。どうしても戦国時代の争いとか、そういう派手なストーリーが中心だった中で、『光る君へ』もそうでしたが、日本の伝統文化を描くってすごい挑戦だと思うし、そこに惹かれて大河ドラマを見始めた人も私の周りには多いんです。そこがこの「べらぼう」の面白さでもあり、新しさでもあると思います。
ちあき:毎回誰かが死んでいくストーリーは見ていて辛いものがあって。今の「べらぼう」は安心して子どもと見られるし、感情移入もしやすくて。蔦重の恋愛は少女漫画のようなピュアさもあったり(笑)。今までとは違った視点で楽しめるのもいいなと思います。
瓦谷:あんなに過酷な環境にいにたのに、最後まで汚れきらなかったっていうか、蔦重の一生懸命なところとか、胸を打ちますよね。2人とも幼い頃を支えてもらった本をずっと持ち続けいてたみたいな。私の想いとしては、蔦重と花の井が再会してくれるといいな~と思っているんです。
黒田:ますます少女漫画の世界ですね(笑)。でも立派な本屋になり、名プロデューサーになった蔦重のもとで、幸せになっている花の井との再会は、見てみたい気がします。
山見:花の井と蔦重が再会したら、契約妻のていさんは身を引きそうですね。後半は蔦重をめぐってドロ沼三角関係になったらどうしよう!……と妄想し出すと止まりませんね。でも、花の井はどこかでちゃんと幸せになっているはず。あるときふらっと日本橋見物に訪れて、蔦重のお店の前を通りかかるんです。きっと二人は目で頷き合って、そのままな気もしませんか。そんなシーンが見れたらうれしいです!
黒田:想像しただけで泣けてきます。本当、私たち蔦重が好きで、「べらぼう」に出てくるみんなが愛おしくなっています! 和樂webには、江戸時代の記事が2713本、浮世絵が773本、吉原198本、大奥97本、「べらぼう」関連が80本以上もあるんです。最近は大河ドラマを取り上げるメディアが増えましたが、和樂webはその中でも突出しているのではないでしょうか。残り半年、私たちと一緒に和樂webの記事を楽しみながら、蔦重たちを見守っていきましょう!

