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Jewelry&Watch

2025.11.07

「A.ランゲ&ゾーネ」ドイツの超絶技巧が育んだ絶世の機械式時計

時計界の最高峰で輝くマニュファクチュールのなかでもドイツの伝統文化を受け継ぐ美しくも精緻なクリエイションで、孤高の存在感を放つ「A.ランゲ&ゾーネ」。ムーブメントに、装飾に ── 随所に息づく職人たちの超絶技巧とまだ見ぬ至高の機械式時計の世界を、創業の土地を訪れひもときます。

気が遠くなるほど繊細な数多の手仕事から生まれる時を刻む芸術作品

メゾンを象徴するコレクションのなかで、ひときわエレガントな佇(たたず)まいを見せる「リトル・ランゲ1・ムーンフェイズ」。銅の粒子が煌(きら)めく、深い青のゴールドストーン(紫金石)を重ねることで夜空を表現した文字盤と、ダイヤモンドの輝きが鮮麗に響き合う。[ケース:ホワイトゴールド×ダイヤモンド、ケース径:36.8㎜、ストラップ:アリゲーター、手巻き]参考価格¥10,395,000(A.ランゲ&ゾーネ)

一度その魅力に開眼したら、どんどん虜(とりこ)になっていくといわれる機械式時計の世界。とはいえ、だれしもが〝メカ〟そのものに心奪われるわけではなく、多くの人は機械式ムーブメントを搭載した時計に宿る物語やロマンに、感動やときめきを覚えるのです。

そんな物語やロマンが数多(あまた)詰まっているのが、ドイツの最高級ウォッチメゾンである「A.ランゲ&ゾーネ」。今や時計界の最高峰に並ぶメゾンのひとつとなり、時計の真価を知る人々からの憧憬(しょうけい)を集めていますが、1845年の工房創立以来、実にドラマティックな運命を辿(たど)ってきました。

「A.ランゲ&ゾーネ」の物語が始まったのは、ドイツ東部のドレスデン近郊にあるグラスヒュッテという山あいの町。現在では「A.ランゲ&ゾーネ」に続いて創業したウォッチメゾンの工房が立ち並ぶ、ドイツ時計産業の聖地となっていますが、当時、グラスヒュッテを含むエルツ山地一帯に暮らす人々は貧困にあえいでいました。

そこで、1815年にこの地に生まれ、ザクセン王国の宮廷時計師に師事して腕を磨いたひとりの青年、フェルディナント・アドルフ・ランゲは、エルツ山地で疲弊している人々のために新たな生業を確立すべく時計工房を設立しました。そう、それが「A.ランゲ&ゾーネ」と、伝統工芸に根ざしたドイツの高級時計製造の誕生でした。

この壮大な町おこしは成功を収め、家業を継いだふたりの息子たちも数々の特許機構を開発するなど隆盛を迎えましたが、第二次世界大戦による東西ドイツの分裂で、東ドイツの管理統制下に。メゾンは休眠を余儀なくされました。

しかし創業者一族の4代目、ウォルター・ランゲは来るべき復活の日に備え、1990年に工房を再設立。そして東西ドイツ再統一から4年後の1994年、メゾンのアイコンとなる「ランゲ1」をはじめ、4つのコレクションを発表し復興を果たしました。

以来、伝統を重んじながらも決して立ち止まることなく、革新に挑み続けるウォッチメイキングで、瞬く間に時計界の最高峰へと登りつめ、現在に至っています。

知性とエレガンス香る二大クリエイション

伝統の懐中時計をモチーフとする究極のジェンダーレスウォッチ「1815」
気品漂うホワイトゴールドのケースは、ベゼルにわずかな段差をつけることで立体感が生まれ、文字盤の深いブルーの表情をより印象的に演出。同色のストラップとの端正なコントラストがワンランク上の洗練を導く。[ケース:ホワイトゴールド、ケース径:34㎜、ストラップ:アリゲーター、手巻き]¥4,043,600(A.ランゲ&ゾーネ)

創業者、フェルディナント・アドルフ・ランゲが生まれた年をコレクション名に冠した「1815」。視認性が高いアラビア数字インデックス、「レイルウェイ・ミニッツトラック」と呼ばれる文字盤外周の分目盛り、そして6時位置の小窓で秒を表示する「スモールセコンド」といったディテールは、彼が生前に製造、そして愛用していた懐中時計に由来しています。

クラシカルな佇まいのなかにもモダニズム香るこのコレクションから、2025年の新作として発表されたのが、時、分、秒のみを表示するシンプルな「三針」の34㎜サイズ。「三針」の現行モデルの38・5㎜から一気に小型化され、女性の手首にもエレガントにフィットするジェンダーレスウォッチとして、新たな魅力を纏(まと)いました。

搭載されているのはこのモデルのために新たに開発された手巻きムーブメント。小型化されながらも72時間というパワーリザーブを実現し、機能性も向上しました。

中心をずらした独創的なデザインが印象に残る不朽のアイコン「ランゲ1」
右/文字盤は贅沢に、シルバー色仕上げの無垢な金を採用。優美な曲線が連なるギョウシェ彫りが施され、ムーンフェイズの詩情をよりエレガントに演出する。「リトル・ランゲ1・ムーンフェイズ」。[ケース:ピンクゴールド、ケース径:36.8㎜、ストラップ:アリゲーター、手巻き]参考価格¥8,093,800・左/完璧なバランスを描くアシメトリーなデザインの魅力をストレートに味わえるオリジナルモデル。「ランゲ1」[ケース:ピンクゴールド、ケース径:38.5㎜、ストラップ:アリゲーター、手巻き]¥6,881,600(A.ランゲ&ゾーネ)

文字盤左に時分、右下に秒を、その上には時計があとどのくらい動くかというゼンマイの動力の残量を表示する「パワーリザーブ」を配置。大きな日付表示とともに、中心をずらしたオフセンターの独創的なデザインが、非凡な個性を発揮する「ランゲ1」。名実ともにメゾンを象徴する偉大なアイコンであり、グラスヒュッテの後続ウォッチメゾンの模範となった紛(まご)うことなき名品です。

発表から30年が経過した現在では、サイズや複雑機構搭載のバリエーションを多彩に展開。基本的なデザインはそのままながら、文字盤の仕上げや複雑機構表示のデザインによって表情を変え、豊潤なクリエイティビティを発揮しています。

なかでも熱烈な支持を集め続けているのは、最初に発表されたベーシックなオリジナルモデルと、やや小さめなケースにムーンフェイズを搭載した「リトル・ランゲ1・ムーンフェイズ」。静謐(せいひつ)でありながら強く美しく、名品のオーラを放ちます。

右は「1815」、左は「ランゲ1」のケースバック。大部分を占めるのは「4分の3プレート」と呼ばれ、創業者が開発したムーブメントの安定性を高めるためのもの。「グラスヒュッテ・ストライプ」という縞模様が施されている。

撮影/小池紀行(CASK)
構成/岡村佳代、吉川 純(本誌)

問い合わせ
A.ランゲ&ゾーネ
0120-23-1845
https://www.alange-soehne.com

※この特集での価格表記は、すべて税込価格です。
※本記事は『和樂(2025年12月・2026年1月号)』の転載です。

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岡村佳代

東京都出身のウォッチ&ジュエリージャーナリスト。学生時代から執筆活動を開始。女性向け本格時計やジュエリーのムックに携わったのをきっかけに、機械式時計やハイジュエリーの深淵なる世界に開眼。歳月を重ねるにつれ魅了され、現在では「宝石」や「ムーブメント」はもとより、そこに宿る「人の物語」にときめきを覚えるように。
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