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Jewelry&Watch

2025.05.21

ドイツのものづくりの誇りが宿る、「A.ランゲ&ゾーネ」の時計  【ヴィルヘルム・シュミットCEOインタビュー】  

時計愛好家のみならず、近年では“時計の真価”を追求する女性たちからも憧憬を集めている「A.ランゲ&ゾーネ」。職人の手作業に徹底的にこだわった、愚直なまでのウォッチメイキング――しかし、だからこそ時計本来の美が際立つこのウォッチメゾンは、高級時計の世界で別格の存在感を放っています。今回、2011年からメゾンを率いるヴィルヘルム・シュミットCEOに、2025年の新作について直接お話しを伺う機会を得ました。

「Made in GERMANY」の矜持と伝統が息づく唯一無二のウォッチメゾン

ヴィルヘルム・シュミット「A.ランゲ&ゾーネ」 CEO
1963年、ドイツ・ケルン生まれ。アーヘン大学で経営学を学んだ後、オイルメーカーを経て「BMW」に8年在籍。2007~2010年まで「BMW」の南アフリカにおけるセールス&マーケティング責任者を務め、本社ボードメンバーにも名を連ねた。2011年1月に「A.ランゲ&ゾーネ」CEOに就任。現在に至る。

職人の手仕事にこだわった真摯なウォッチメイキングで、本格機械式時計の世界で屈指の風格を備える「A.ランゲ&ゾーネ」。その歴史の始まりは、1845年。創業者であるフェルディナント・アドルフ・ランゲが、ドイツ・エルツ山地の住民のために新たな生業を確立することを目指し、グラスヒュッテに時計工房を設立。以来、この地の伝統工芸に根ざした機械式時計製造を継承してきました。第二次世界大戦による東西ドイツの分裂のため、休眠をせざるをえないという悲劇を経験しながらも、1990年、創業者のひ孫であるウォルター・ランゲによって長い眠りから目覚め、鮮やかに再興を果たします。以来、ドイツの時計製造の伝統を重んじつつも、つねに技術的な革新に挑むクリエイションを展開。その数奇な歴史や、“ドイツの高級時計”というアイデンティティから、時計界において“孤高のウォッチメゾン”として輝いています。

また、メゾンが誇る職人たちの“手仕事”に徹底的にこだわったウォッチメイキングは、年間生産本数が限られるため入手困難なモデルも多く、稀少であることも世界の時計愛好家を惹きつける理由のひとつでしょう。どんなに需要が高まっても、ビジネス的な利点を追求するために“大量生産”という方向へ舵を切ることはせず、メゾンの哲学を貫き続けてきた「A.ランゲ&ゾーネ」。シュミットCEOは2011年に現職に就任して以来、14年もの間、この特別なメゾンのトップとして非凡な経営手腕を発揮してきました。

――「A.ランゲ&ゾーネ」を知り尽くしているシュミットCEOご自身は、このウォッチメゾンの魅力はどんなところにあるとお考えでしょうか?

「まず、我々はドイツのウォッチメゾンであるということ。皆さまご存じのとおり、高級時計の多くはスイス製です。しかしドイツの高級時計製造の歴史は古く、『A.ランゲ&ゾーネ』は1845年からドイツ・グラスヒュッテの伝統工芸に根差したウォッチメイキングを継承してきました。時計だけではなくその他の産業にも通じますが、ドイツの質実剛健なものづくりの精巧さ、信頼性の高さは、我々のメゾンの誇りのひとつです」

この日、シュミットCEOが着けていたのは、プラチナケースとブラックのエナメル文字盤が高貴な対比を見せる新作の『ミニッツリピーター・パーペチュアル』。

シュミットCEOが選ぶ2025年新作のハイライトは?

――今春スイスで開催された世界最大の時計フェア「WATCHES & WONDERS GENEVA 2025」で、「A.ランゲ&ゾーネ」は3つのコレクションの新作を発表しました。メゾンを率いるトップとして、2025年の新作でもっとも思い入れが強いハイライトは、どのコレクションでしょうか?

「それはすごく難しい質問ですね。皆さまもきっと、自分の子どものなかでいちばんかわいい子を選ぶことはできないでしょう(笑)。3コレクションの新作、その全てがハイライトです。ただ、私が今着けている『ミニッツリピーター・パーペチュアル』は、“ミニッツリピーター”と“永久カレンダー”というふたつの複雑機構が搭載されているもので、“機構の複雑さ”という点においては2025年のハイライトと言えるかもしれません」

音で時を知らせる“ミニッツリピーター”と、半永久的にうるう年も調整を必要としない“永久カレンダー”というふたつの複雑機構を備えた、いわゆる「ハイコンプリケーションウォッチ」。12時位置に配された「アウトサイズデイト」と呼ばれる小窓が、さまざまな表示のなかでアイコニックなアクセントに。『ミニッツリピーター・パーペチュアル』[ケース:プラチナ、ケース径:40.5㎜、ストラップ:アリゲーター、手巻き、世界限定50本]価格要問い合わせ

「また、私自身もとても興味深く、おもしろいと思っているのは、『オデュッセウス ハニーゴールド』です」

『オデュッセウス』は、2019年にメゾン初のステンレススチール製スポーツモデルとして誕生したコレクション。その後はホワイトゴールドやチタン製モデルのバリエーションが展開されていますが、今作では初めて、「A.ランゲ&ゾーネ」独自の「ハニーゴールド」が用いられました。

「ハニーゴールドはほかのゴールド合金より硬く、ピンクゴールドとホワイトゴールドの中間のような、名前のとおり“ハニー”のような色味が特徴です。特許も取得しており、ごく限られた特別なモデルのみに使用している素材ですが、スポーティな『オデュッセウス』の新たな魅力を引き出せたと思います」

無垢なゴールドのケース&ブレスレットでいながら、華美になりすぎない上品な色味のハニーゴールド。シックなブラウンの文字盤と洗練のコントラストを奏でる。『オデュッセウス ハニーゴールド』[ケース:ハニーゴールド、ケース径:40.5㎜、ブレスレット:ハニーゴールド、自動巻き]価格要問い合わせ

手首にまとった瞬間、そのエレガンスが開花する新作『1815』

――「WATCHES & WONDERS GENEVA 2025」を訪れたジャーナリスト、特に女性から大きな注目を集めたのが、34mm径というジェンダーレスなサイズの『1815』ですね。

ホワイトゴールドとピンクゴールドの2モデルで展開される新作の『1815』。

「この『1815』というコレクションは、我々のメゾンにとって、いわば隠れたヒーロー。創業者であり、グラスヒュッテにおける時計産業の礎を築いたフィルディナント・アドルフ・ランゲの誕生年をモデル名に冠した、メゾンの歴史の架け橋のようなコレクションです。昔ながらの懐中時計を小さくしたようなクラシカルなデザインで、3針のシンプルなモデルですが、今回、思い切ってケースを小型化しました。実を申しますと、私は当初、この新しい『1815』が皆さまに好意的に受け入れられるか少し心配だったのです(笑)。でも、完成した『1815』を実際に手首に着けてみたら、それは全くの杞憂でした。この記事を読んでくださっている方に、私は声を大にして申し上げたい。写真だけで判断しないでくださいと」

穏やかな語り口はそのまま、シュミットCEOの声がこれまでより熱を帯びました。

ムーブメントは今回新たに開発された『Cal.L152.1』を搭載。シースルーのケースバックからは、手作業による美しい仕上げを楽しむことができる。

「複雑機構を搭載していようが、シンプルな3針モデルであろうが、腕時計の真髄は“プロポーション”です。腕にのせたときのバランスと言い換えることができるかもしれません。腕時計のあるべきところは、申し上げるまでもなく、腕。腕にのせて頂いた時こそが真実の一瞬です。“これは私のものだ”と、運命さえ感じる瞬間があるのです。『1815』はそのことを、私に改めて教えてくれた時計。だからこそ日本の皆さんにはぜひ、大阪なり東京なり、ブティックに足を運んで実際に見ていただきたいのです」

端正なブルーの文字盤にホワイトのインデックスが際立つシンプルなデザインが、時計としての本来の美を印象づけ、手元から知的な雰囲気を醸し出す。『1815』[ケース:左/ホワイトゴールド・右/ピンクゴールド、ケース径:34㎜、ストラップ:アリゲーター、手巻き]各¥3,850,000

ムーブメントを構成する小さな部品のひとつから、組み立て、そしてケース、文字盤と、すべを自社工房で完全一貫生産し続けている「A.ランゲ&ゾーネ」。いわゆる“名門”と謳われるウォッチメゾンでも、ムーブメントメーカーから供給されたものを搭載したモデルを製造していることも多い現在の時計界において、その気高い理念はひと際輝いています。

「我々は時計師を育てる学校も工房内に擁しています。そこで3年間学んだあと、2年間現場で働きながらトレーニングを積んで、初めて時計師としてのキャリアがスタートするわけです。ですので、生産本数を増やすためにはまず、時計師を教育する人材を育てなければならず、キャパシティは簡単に増やすことができません。そう、何事においても“ものづくり”というものを完璧にするためには時間がかかるのです。でもそのことはおそらく、日本の皆さまはよく理解してくださるのではないでしょうか。お客さまをお待たせしてしまうことも少なくなく、心苦しく思っておりますが、すべてのモデルにおいて、職人の温もりが宿る完璧な時計をお届けすることが私たちの誇りなのです」

問い合わせ

A.ランゲ&ゾーネ
TEL:0120-23-1845
公式ウェブサイト

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岡村佳代

東京都出身のウォッチ&ジュエリージャーナリスト。学生時代から執筆活動を開始。女性向け本格時計やジュエリーのムックに携わったのをきっかけに、機械式時計やハイジュエリーの深淵なる世界に開眼。歳月を重ねるにつれ魅了され、現在では「宝石」や「ムーブメント」はもとより、そこに宿る「人の物語」にときめきを覚えるように。
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