Culture
2019.10.24

力士じゃないけど相撲部屋に入門!?大相撲を支える呼び出しの世界 後編

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『知れば知るほど 行司・呼出し・床山』(ベースボール・マガジン社刊)にも登場する、呼出し・利樹之丞さんによるトークイベントが開催されました。知れば知るほど楽しめる大相撲の世界を呼出しの視点から紐解く前後編。後編では、呼出しになるには、伝統文化を支える呼出しの魅力について、をご案内します。大相撲を支える呼出しの世界 前編はこちら。

力士じゃないけど相撲部屋に入門!?

すべての呼出し(行司や床山なども)は、相撲部屋に所属しています。呼出しを志望する場合は、まずは相撲部屋へと入門します。関係者の縁を頼ったり、部屋に直接交渉するなどをして入門を認めてもらえたら、呼出し会、相撲協会との面談などを経て、相撲協会の一員へ。ちなみに利樹之丞さんは、15歳のときに部屋(高砂部屋)の親方に直接手紙を書いて入門したそうです。

相撲デスクとしてお馴染みの佐々木一郎さんと利樹之丞さんとの掛け合いに会場も沸く。

入門資格は、中卒以上の15歳から19歳未満の男子です。また定員が45名(定年は65歳)と決まっているため、定員に達している場合は退職者が出なければ、入門は認めてもらえないことも。入門から3年間は、見習い期間。「序の口」からはじまり最終階級の「立呼出し」まで9段階の階級があります。昇進は年功序列、と言っても「立呼出し」は1名のみ。経験を経たからといって誰もがなれるわけではありません。

十枚目以降は、資格者と呼ばれて経験年数や実績により昇進する。

司会者の“相撲デスク”こと、佐々木一郎さんが「見習い時代などに辛いことはありました?」と尋ねると、「大変だったけど辛いと感じたことはないですね。入門した部屋がよかったのかな」と利樹之丞さん。

利樹之丞さんが惚れた初代立呼出し・寛吉さん

今秋、十枚目(十両)呼出しから幕内呼出しへ昇進が発表された利樹之丞さん。「やはり花形の幕内力士を呼び上げられるのは嬉しいこと。十両から幕内にあがっても、特に仕事に対する姿勢は変わりません」と、語ります。小学校のときに巡業でみた、初代・立呼出し(*1)の寛吉さんに憧れて入門。見習い時代、寛吉さんの付け人をしていたことは今でも大きな財産だそう。

憧れの師匠・寛吉さんとのエピソードを語る利樹之丞さん。「正座が仕事の一環だからと、話をきくときは必ず正座。でも状況や時間をみて、『くずしていいよ』って声をかけてもくれる。優しいひとでした」

「声や節回しのよさはもちろん、土俵上での所作や装束の着こなし方、太鼓や柝入れなど、すべてが憧れの人。ここぞ!な気持ちの込め方、粋で洒落たところ……」と寛吉さんへの想いは尽きません。師である寛吉さんを目指しながら、「勝負前の引き立て役として、力士や場内を盛り上げる呼出しでありたい。立呼出しを目指すというよりも日々いい仕事、いい呼び上げをしていきたいですね。ただ、いつかは幕内の結びの一番(*立呼出しが行う)を呼び上げてみたい」と、話します。

(*1)平成6(1994)年に呼出しの階級変更にともない、寛吉さんが初代立呼出しに。

注目される伝統文化、生の相撲を体験して欲しい

ここ数年、浮世絵に日本画、能や歌舞伎、落語に講談など、さまざまな日本の伝統文化が注目されています。大相撲もしかり、ここ10年ほどの間にずいぶんと相撲ファンが増えてきました。今の盛り上がりを利樹之丞さんはどう受け止めているのでしょうか?「日本の伝統文化に価値を感じたり、興味を持つことを素直に楽しめる時代になったと感じています。贔屓力士の応援だけでなく、日本の伝統文化として相撲を楽しむファンが増えてきました。国内だけではなく海外からも大勢の方が国技館を訪ねてくれるように。大相撲の盛り上がりは、関わるひとりとしては嬉しいことです」。

土俵入りの拍子木を打つ呼出し(右下)、櫓の上に太鼓を叩く呼出しの姿も描かれている。「勧進大相撲土俵入之図」(三枚組・左)/国会図書館デジタルコレクション*冒頭画像は一部分

相撲に興味があるならば、「国技館や本場所で生の相撲を見て欲しい。華やかな土俵入りや緊張感あふれた取り組み、生の相撲の臨場感に勝るものはないですから」と、話す利樹之丞さん。そして本場所中に国技館を訪れたならば、櫓上に注目して欲しいと言います。「櫓上から突き出ている2本の竿に結びつけられた『出し弊(だしっぺい)』。これは土俵へと神様を呼び込む目印のようなものです。本場所中はずっと掲げられています」。神様が櫓でちょっと休憩を入れてから、いざ土俵へ!と舞い降りる光景が浮かんできますね。

呼出しからはじまる、相撲ファンも増えている!?

相撲人気の高まりとともに、呼出しファンは増えています。土俵まわりにいることが多いために、大相撲中継に映ることもしばしば。その粋な裁着袴(たっつけばかま)姿や美しい所作に、きっと多くの女性が魅了されてしまうのでしょう。国技館では四股名を呼び上げている際に、呼出しファンから黄色い声援が飛ぶことも増えてきました。私自身もご贔屓呼出しさんがいますが、呼び上げが聞こえないのは困るので、心のなかで「がんばれ~♡♡♡」と大声援を届けています。

両国駅そばを歩く力士の姿や土俵へと神様を呼び込む出し弊がはためく櫓など、江戸情緒が感じられる本場所中の国技館。館内には無料で楽しめる相撲博物館(本場所期間を除く)があるので訪れてみたい。。

知れば知るほどおもしろい大相撲の世界。伝統文化を支える呼出しの世界を知ることで、相撲がまたひとつ楽しいものになるはずです。

■取材協力&関連書籍■
おすもうさん
相撲の魅力を伝えるウエブマガジン。おすもうさん編集部では、トークショーや相撲字講座など、さまざまなイベントなどを開催しています。
http://osumo3.com/

『知れば知るほど 行司・呼出し・床山』/ベースボール・マガジン社刊
大相撲を支える縁の下の力持ちであり、大相撲になくてはならない三職。伝統文化をささえる三職の成り立ちや仕事などを紹介。知れば知るほど相撲が好きになる、相撲入門者から好角家まで楽しめる一冊。1,500円(税抜)

■参考文献■
財団法人日本相撲協会・特別編集 大相撲/小学館
相撲の歴史/講談社学術文庫
国技相撲の歴史/ベースボール・マガジン社
知れば知るほど 行司・呼出し・床山/ベースボール・マガジン社

書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。