Craftsmanship

2023.08.28

公開は9/30まで! 中宮寺 聖徳太子像がまとう国宝『天寿国繡帳』京繡作家・長艸敏明さんが技法復元

これまで幾度となく『和樂』に登場されてきた刺繡作家の長艸敏明(ながくさとしあき)さんは、長年密かに、国宝『天寿国繡帳(てんじゅこくしゅうちょう)』の復元制作に身を砕いてきました。このたび20年越しの研究がついに結実。飛鳥時代から蘇った、力強くて美しい刺繡を紹介します。

日本の刺繡の源を探る長年のライフワークが結実

奈良の中宮寺が所蔵する国宝『天寿国繡帳』は、日本最古の刺繡の帳(とばり)。622年に聖徳太子が亡くなったあと、妃の橘大郎女(たちばなのおおいらつめ)は嘆き悲しみ、「太子が往生した天寿国の世界を見たい」と望み、その願いを聞いた推古(すいこ)天皇の命によって制作されました。

国宝『天寿国繡帳』7世紀 中宮寺。亀、月の兎、鳳凰、天人 などの文様は、色や柄が鮮明な部分が飛鳥時代に刺繡された原本で、褪色した部分は鎌倉時代に修復された模本

京都西陣の伝統工芸〝京繡(きょうぬい)〞の作家である長艸敏明さんが自らのライフワークとして、その『天寿国繡帳』の復元制作をはじめたのは、今から20年ほど前のこと。「『天寿国繡帳』は我々〝繡屋(ぬいや)〞の原点といえます。どのような刺繡なのか、どのように繡(ぬ)われたのか、ルーツを知っておかなければならないと思いました」(長艸さん)

刺繡作家、京繡伝統工芸士の長艸敏明さん。能装束など着物の作品のほか、祇園祭の水引幕(みずひきまく)など祭事の飾り幕の修復・復元を手がける。海外ブランドとの仕事も多い

転機が訪れたのは2005年。『天寿国繡帳』の研究をしていた当時大学院生だった現・奈良国立博物館の三田覚之(みたかくゆき)さんと出会い、研究復元のプロジェクトがスタートすることになったのでした。飛鳥時代の繡帳を再現すべく、刺繡を施す生地の糸をつくるところからはじめ、生地の織りが完成するまでに5年の歳月が流れました。地道に活動を進めるなかで、中宮寺に伝わる聖徳太子二歳像の被衣を新調する話が舞い込み、このほど、『天寿国繡帳』を着物に仕立てて奉納することになったのです。

奈良国立博物館主任研究員の三田覚之さん。『天寿国繡帳』研究の第一人者

国宝『天寿国繡帳』の技法復元の被衣(かつぎ)をまとう中宮寺の聖徳太子二歳像。鎌倉時代制作の木像。被衣とは頭から被る着物のこと

現代の日本刺繡の技法とは異なる、力強く精緻な刺繡を厳密に再現。刺繡を施すための複雑な織りの羅(ら)の生地から復元制作した

糸をつくり、生地を織り、染めて、飛鳥時代に思いを馳せながらひと針ひと針、刺して繡って――

長年の研究と努力が素晴しいかたちで結実。奉納された被衣には『天寿国繡帳』の飛鳥時代の刺繡が厳密に再現されています。単純に刺繡の文様を写したのではなく、文様の中に刺す糸目の数、糸の太さ、糸の縒(よ)りの強さまで同じという緻密さです。「日本の刺繡は、奈良時代以降、糸の光沢や艶を出すために縒りが弱い糸で繡いますが、飛鳥時代の刺繡は、縒りが強い糸でひと針を短く細かく繡って、力強い。だから1400年も残ったと考えられます」と解説する三田さん。

菱形が織り出された複雑な羅の生地は完成までに5年かかった

繭(まゆ)から、昔ながらの座繰(ざぐ)りで生地用の糸をとった

強い縒りをかけた刺繡糸を使用

長艸さんの感想にも実感が込められていました。「ひとつの文様を繡いあげるのに、今の技法よりずっと時間がかかります。『天寿国繡帳』を手がけた宮中の采女(うねめ)たちは、ひと針ひと針、祈りを込めて繡ったのだと思います」。

長艸さんと5人の工房スタッフが采女さながらに刺繡を手がけた

印象的な月の兎の文様。原本と糸の目数まで同様に再現した



羅の生地に施された色鮮やかな刺繡。左側の袖の八咫烏(やたがらす)の文様は、創作したもの

技法とともに、古人(いにしえびと)の大切な思いを受けとめて、次の世代へとつないだ貴重な復元。「刺繡は祈りである」という長艸さんの言葉が心に響きます。

中宮寺での法要の様子


中宮寺門跡(もんぜき)の日野西光尊(ひのにしこうそん)師も「本当におかわいらしい。これからも平和の時代に導いてくださいますね」と喜ばれた

長艸敏明さんと奥様の長艸純恵(すみえ)さん

【中宮寺】  
奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺北1-1-2
※今回奉納された被衣を纏った聖徳太子二歳像は9月30日(土)まで本堂で公開

撮影/伊藤信
※本記事は雑誌『和樂(2023年10,11月号)』の転載です。

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高橋亜弥子

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和樂web編集部

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