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Culture
2021.03.05

埼玉県北本市に、今こそ行きたい店がある。日々の小さな幸せが見つかるgallery&cafe yaichi

この記事を書いた人

新宿駅の雑踏をかきわけ、「湘南新宿ライン」を目指す。座席についてほっと一息つき、窓の外を眺めると、そこは高層ビルの森。池袋、赤羽、浦和、上尾……荒川を越え東京から埼玉へ。だんだん開けた光景に移り変わり、いつの間にかビルの群れは木々へと姿を変え、とりわけ自然豊かな駅に着いた。長いようで短い50分。埼玉県、北本駅だ。

正直、わざわざ訪れるには少し遠すぎる。しかしここ北本に“わざわざ”遠方から訪れる人が絶えない「gallery&cafe yaichi(やいち)」というお店があるのだとか。期待に胸を膨らませて向かった。

※本記事に掲載されている商品は2021年2月現在のものです。完売、展示替えの場合もありますのでご了承ください

作家と繋がれる gallery&cafe yaichi

JR北本駅西口から徒歩1分。駅前とは思えない閑静な通りにgallery&cafe yaichiは佇んでいます。

ここは、日本全国で一つひとつ丁寧につくられた「うつわ」などの生活道具や、世界中のアンティークを中心に販売しているギャラリー&カフェ。20~30名ほどの作家の作品を扱っており、訪れた人と作家を繋ぐ場となっています。

オーナーの矢部龍治氏は北本出身。スタイリストやVMD(ビジュアルマーチャンダイザー)などを経て、2009年、北本にgallery&cafe yaichiを開きました。

お話を伺ったオーナーの矢部龍治氏

北本という地を選んだ理由

率直な質問ですが、まずは「なぜ北本にお店を構えたのか」ということについて伺いました。

北本は、歳時記と旬を体験できる場所

北本はオーナーの生まれ育った場所。そうは言っても、なぜ北本を選んだのでしょう。

「ずっと東京でデザインやVMDの仕事をしてきたけれど、それは季節を先取りしすぎているとか、実際に体験したものではなかった。知識として『歳時記』があっても、東京では実際の生活と距離があったんだよね」。

確かに、都会で慌ただしく生活していると、本来の四季に触れる機会は少ないかもしれません。

「日本の歳時記は、日々の暮らしがベースになっている。北本は、歳時記や旬を実践できる場所。例えば、ここにいれば野菜の育て方や名前もわかるようになるし、日々の生活にぐっと日常が迫ってくる」。


店内には、今の季節に育つ植物が飾られています。そこにいるだけで、四季の移ろいを感じられる空間。

「今は外に植物はないね。でも、それが今の季節なんだから、それでいいんだよ」。

寒さ厳しい2月半ばのgallery&cafe yaichiエントランス。次第に芽吹き、花が咲き、また散っていく。

東京に店をもたない理由

「東京に店をもたない理由のひとつは、うちで提供するのは“トレンドじゃない”ということ。東京には人が一気にきて、あっという間に消費されてしまうことがある」。

たしかに、わっとブームがきて、いつの間にか波が引いているものも多いように感じます。

「あとは東京にお店を借りると“いつか出て行かないといけない”という圧を感じて、簡単に外せるような看板を建ててしまう。そういう“とりあえず”は、やりたくない。ここなら家賃もいらないし、カフェも物販もできる広いスペースが確保できる。“身の丈サイズ”ってことかな」。


訪れるお客にも「とりあえず」はやめてほしい、と語る矢部氏。

「一つひとつ吟味して、自分の生活に合うものを選んでほしい。うちに置いてあるものは少し高いかもしれないけれど、買って使わないのが一番もったいない。丁寧に選んで購入したものは、ぜひ毎日の生活で使ってみて」。

自分の育った場所で、生活の基盤を築く

「暮らしのものを提案する店なので、私自身が一番の実践者でありたい。今は何でもネットで買えちゃうけど、実践者じゃないと言えないこともある」。

その言葉どおり、畑で自ら野菜も育てているのだとか。お話の中で、雨が降らないことがどんなに苦しいことか、ひしひしと伝わってきました。

畑の様子を見せていただいた

「人の基盤は、毎日の生活。ベースがしっかりしていれば、いつでも立ち戻ることができる。だから私は、社員と3年間一緒に暮らしたりもしたよ。それに北本は、子どもの成長をゆっくり見守りながら、上野や新宿など都会も生活圏にできる場所だよね」。

衣食住のトライアングル

「北本は、衣食住のトライアングルが描ける場所」と語る矢部氏。gallery&cafe yaichiにも、その全てが揃っています。

店内には、帽子やエプロン、ジュエリーなど、身にまとうものが豊富に揃っていました。それはどれも、作家が丁寧につくったこだわりの逸品。

ストライプのエプロンは大人気で完売 coeur works

原石水晶のジュエリー 装身具LCF -Hiroaki Tachikawa-

オーナーにスタイリングしていただきました。贅沢!!

gallery&cafe yaichiでは、料理やドリンクを、実際に販売しているうつわで提供しています。使ってみたいものがあれば、リクエストにも応えてくれるのだとか。なぜそこまでするのですか? と尋ねると「衝動買いはしてほしくない。何度も足を運んで、話して、触れて、お気に入りを見つけてほしい」とのこと。この日も、実際にお店で購入できるうつわでお茶を頂きました。

デザイン・機能性ともに日常に使いやすいものを取りそろえている
後藤義国氏の作品

また、料理の食材にもこだわりが。それは「日常のおいしいもの」。業務用のものは極力使用せず、食材や調味料も、普通の家にあるようなものを使っているのだとか。

「特別なものを使うと“非日常”になっちゃう。暮らしのものを扱っているお店なので、料理もできるだけ日常のものを味わってほしい。人がおいしいと感じるものって、やっぱり毎日食べなれている味なんだよね」。

北本の名産トマトを使った「北本トマトのタコライス」※季節限定メニュー

どこよりもおいしいと評判。北本のそば粉を使った「ガレットコンプレット」

「飲食ができるギャラリーって、なかなかないでしょ」と、矢部氏。

うつわの「飲みやすさ」「食べやすさ」も感じながら食事を楽しめるのが、gallery&cafe yaichiの魅力のひとつです。

新型コロナウイルスの流行により、今、改めて見直されている私たちの住空間。

「日々の小さな幸せは絶対に必要。毎日の生活は生きるもと」と、矢部氏。毎日を心地よく、そしてちょっと幸せも感じられるヒントが、店内にあふれています。

明るい日差しの入るカフェスペース。インテリアの参考になるおしゃれな空間

茶室も美しくディスプレイされている

家具の販売も。こちらは長沼泰樹氏の作品。ベンガラ塗りの赤が、和洋どちらにもしっくりくる
instagramより

「嬉しいことの繋ぎ役」になりたい

新型コロナウイルスの影響で、家で仕事をしたり、子どもの面倒をみたり、家庭で時間を過ごすことが増えました。長引くStay Homeで、気分転換の難しさを感じ、息がつまっている方もいるかもしれません。子育てに追われながら自宅で仕事をしている私も、そのうちの一人でした。

そんな中「嬉しいことの繋ぎ役になりたいんだよね」と、笑顔で語る姿が印象的だった、オーナーの矢部氏。

あたたかい笑顔とトーク、優しい味わいのお茶に心がほぐれ、いつの間にか取材のことを忘れていた私。すっかり商品を選ぶこと、見ることに夢中になっていました。作家のこだわりや想い、またオーナーの作家や作品への情熱も感じながら、一つひとつの作品を手にとることができます。

オーナーに選んでいただいた帽子を購入! 選ぶ時間も楽しめる
帽子はcoeur -Michiko Ueda-

都会の喧騒から離れ、時間のゆっくり流れる地、北本。そこで日々の暮らしを想いながら、じっくり味わい、触り、試してみる。想像以上に気分が一新される時間です。そして、公式サイトにはこのような言葉が掲載されていました。

身の回りに当たり前にあるものごとを、
ひとつひとつ大切に考えてみること。
少しでも、そんな意識のきっかけが生まれると嬉しいです。

多くの人が“わざわざ”訪れる理由。それは単に買い物や食事をしにきているのではなく、日々の暮らしを見つめなおすためではないでしょうか。毎日の暮らしが人生の基盤になるということは、頭ではわかっても、どうすればいいかわからない――。そんな時gallery&cafe yaichiを訪れれば、きっと答えに導いてくれるはずです。

gallery&cafe yaichi 店舗情報

公式サイト:http://yabedesign.com/yaichi/
instagram:gallery_yaichi
住所:埼玉県北本市中央2丁目64(JR北本駅西口 徒歩1分)
営業時間:11:00~19:00 
定休日:月曜・第1火曜
電話:048-593-8188

展示会のお知らせ

村上躍 陶展 Yaku Murakami Solo Exhibition


2021年3月27日(土)~4月11日(日)
写真 : 白金彩茶注
埼玉では初めてとなる、村上躍氏の作品展。詳細はホームページをご覧下さい。

【連載 全11回】縄文と雑木林のまち、北本

自然とともに暮らすまち、埼玉県北本市。独自の縄文文化と豊かな自然を入り口に北本の暮らしの魅力を考えてみました。

第1回 都心から50分!人に一番近い自然ってなんだ?を埼玉県北本で考えた
第2回 感度の高い縄文人が集う、埼玉県北本。1万年前からずっと住みやすいまち「縄文銀座」で銀ぶらしてみた
第3回 100年に1度の大発見?関東最大級の環状集落「デーノタメ遺跡」は縄文のタイムカプセルだ!【埼玉】
第4回 縄文界に新アイドル誕生?北本土偶「きたもっちゃん(仮)」愛用の呪術アイテムも紹介!
第5回 デーノタメ遺跡で貴重な発見!なぜ北本縄文人たちは「オニグルミの土製品」を作ったのだろう?
第6回 縄文VS現代!災害リスクの低いまち、埼玉県北本市「どっちが住みやすいの?」対決
第7回 艶やかな七宝ジュエリーにドキドキ!作家・近藤健一さんが北本にアトリエを構えた理由
第8回 埼玉県北本市に、今こそ行きたい店がある。日々の小さな幸せが見つかるgallery&cafe yaichi
第9回 人も、自然を構成する一部。縄文文化の根付く埼玉県北本市に聞いた「雑木林」の今
第10回 貴重な動植物の楽園!埼玉のまほろば、北本雑木林散歩が楽しい
第11回 ここは地上の楽園か?鷹やキツネ、希少な植物も育つ「トンボ公園」が教えてくれること【埼玉】

書いた人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。