連載

Culture

2024.11.29

片岡千之助の連載 Que sais-je「自分が何も知らない」ということを知る旅へ!#003 初めての現代劇

“Que sais-je(クセジュ)?”とは、フランス語で「私は何を知っているのか」。自分に問いかけるニュアンスのフレーズです。人生とは、自分が何も知らないということを知る旅ではないでしょうか。僕はこのエッセイで、日々のインプットを文字に残し、皆さんと共有します。第3回の「旅」は…初めての現代劇。

舞台は舞台でもいつもと違う舞台

今年の7月末、「ヒストリーボーイズ」という舞台に主人公のデイキン役で出演させていただきました。2004年にロンドンで初演され、数多くの賞を受賞したイギリスの劇作家アラン・ベネットによる戯曲です。僕にとって初となる現代劇の舞台でした。この舞台のお話をいただいたのは、ちょうど映画『九十歳。何がめでたい』の撮影が終わった頃。近年は歌舞伎以外の映像作品に出演の機会をいただいていましたが、現代劇の舞台は経験がありませんでした。「次は現代劇の舞台の経験を積みたい」と内心思っていたところでしたので一つの願いが叶った形でした。

『ヒストリーボーイズ』ビジュアル撮影の日。デイキンの衣裳にて

歌舞伎と現代劇ではお稽古から違う

歌舞伎と現代劇では、お稽古が始まったときからまるで違いました。

歌舞伎の場合、古典の作品なら出演者全員が揃ってお稽古するのは初日前の約4日間ほどです。古典は台詞も流れも分かっている前提で、お稽古がはじまるからです。でも今回は、初日までの1ヶ月間ほとんど毎日、皆でお稽古をさせていただくことができました。序盤は慣れないことも多かったのですが、なるべく皆さんと会話をするように意識して過ごして。みんなで本読みをし、役を深掘りし、考えを共有する工程のはこれまでにない経験でした。古典歌舞伎の舞台では演出家がいないので、演出の松森望宏さんとのコミュニケーションも新鮮でした。「目と目を合わせてセリフを言い合う」という稽古が取り入れられていて、これは本番でも、ここぞという台詞で敢えて相手の目を直視して言うなどしました。

大人になったデイキンの衣裳にて

ちょうどその頃、偶然同じお稽古場の別のスタジオでは、野田秀樹さん演出の『正三角関係』のお稽古も。幼い頃からお世話になっている松本潤さんや永山瑛太さんに、稽古終わりの立ち話ではありましたが、舞台についてお話を聞くことができました。瑛太さんと会った瞬間にハグし、潤さんと「お互い主演として頑張っていこう」と握手を交わしたことは大きなモチベーションになりました。

そんなこんなで僕自身は毎日頭を抱えながらも、一座は長谷川初範さんをはじめとした先輩方、同級生役を演じた同世代の皆さんの支えのおかげで稽古期間を終え、なんとか初日を迎えられました。いつも以上にワクワクし、緊張もしながら迎えた初日は、稽古期間に培った一座の一体感でなんとか乗り切ることができたように思います。

自分で自分をはかりながら

今回の舞台は1か月間の稽古をして公演期間は約1週間。歌舞伎の公演は基本的に約1ヶ月間続くので、あっという間に感じられました。それでも公演が始まると新たな課題が浮き上がり、焦りながらも修正に追われる毎日でした。

苦労したのは、ダメ出しをしてくれる先輩方がいないことです。自分にとって、舞台が終われば楽屋で祖父や父、先輩方からダメ出しをもらうのが当たり前になっていたことに気がつきました。演出家の方から必ずしも毎日フィードバックがあるわけではありませんから、自分で自分を測らなければいけません。日によって微妙に変わる芝居への力の入り方。終演後の達成感に近いもの。これらを比較して、良し悪しではなく日による違いとして自分を比較するようになりました。細かい心情の表現は自分との戦いで、歌舞伎も現代劇も変わりません。その中でも現代劇で許される範囲で日々アプローチの違いを楽しみ、悩みながら舞台に立たせていただいた次第です。

初めての現代劇は、経験や年齢の違いはあれど、先輩も同年代も皆さん一人ひとりが、ご自身の個性でそれぞれに役に向き合い、熱をもってお芝居されている姿を目の当たりにできたことが、僕にとって何よりも良い経験になりました。どんなお役でも思うことですが、またいつか挑戦させていただけたら。その時は関西でも上演できたら。そんなことを思ったりも。来年は『ハムレット』にも挑戦します。『ヒストリーボーイズ』の経験を歌舞伎はもちろん、今後の舞台に少しでも活かせればと思います。

Share

片岡千之助

2000年生まれ。2004年歌舞伎座にて4歳で初代片岡千之助として初舞台を踏む。2011年、片岡仁左衛門と戦後初の祖父、孫での「連獅子」を実現させる。2012年(当時12歳)から自主公演「千之会」を主催するなど芸事への研鑽を積みながら、2017年にはペニンシュラ・パリにて歌舞伎舞踊を披露、2020年『カルティエ』腕時計パシャのアチバー(達成者)に選ばれる。また昨今では大学に復学しながら、主演映画を続けて勤め、現代劇舞台、ドラマと様々な分野で表現者として邁進している。
おすすめの記事

片岡千之助の連載 Que sais-je「自分が何も知らない」ということを知る旅へ!#001 躍り

連載 片岡千之助

片岡千之助の連載 Que sais-je「自分が何も知らない」ということを知る旅へ!#002 身体と空間

連載 片岡千之助

NHK大河ドラマ、あの戦国武将を演じた歴代俳優全リスト!あなたが思うはまり役は?

あきみず

光源氏のモデル? 悲運の美しきプリンス・敦康親王の生涯を辿る

瓦谷登貴子

人気記事ランキング

最新号紹介

12,1月号2024.11.01発売

愛しの「美仏」大解剖!

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア