Culture

2025.04.11

両手首に手錠をしたまま…蔦重の“盟友”波乱の人生。大河ドラマ「べらぼう」を100倍楽しむAtoZ【T】

吉原に生まれ、自力で江戸の〝メディア王〟となった男・蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)の仕事からプライベートまでを、AからZで始まる26の項目で解説するシリーズ【大河ドラマ「べらぼう」を100倍楽しむAtoZ】。今回は「T=手鎖の刑!山東京伝」をご紹介します! Zまで毎日更新中! 明日もお楽しみに。

シリーズ一覧はこちら

蔦重AtoZ
T=手鎖(てぐさり)の刑で盟友・山東京伝の心は折れたが・・・


松平定信による厳しい緊縮政治「寛政の改革」で蔦重が受けたダメージは計り知れません。
幕府を批判した黄表紙が大ヒットしたものの、戯作者であった武士の朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)は断筆、同じく戯作者で武士の恋川春町(こいかわはるまち)は死去、大田南畝(おおたなんぽ)は戯作を自粛するなど、人気作家が相次いで離れていきます。

関連記事:47歳・蔦屋重三郎の死因は“寛政の改革”!?車浮代さんと紐解く江戸の食文化

公私にわたって支えあった盟友・山東京伝

さらに、出版統制令によって、政治批判や、風俗や秩序を乱す文物も禁止になってしまいます。

蔦重はそれに反抗し、遊郭を舞台にした洒落本(しゃれぼん)を山東京伝(さんとうきょうでん)へ依頼。それが、深川の遊里風俗を『曾我物語』の世界に仮託した『仕懸文庫』、遊女の暮らしを歌舞伎・浄瑠璃『廓文章(くるわぶんしょう)』の登場人物に仮託した『青楼昼之世界錦之裏』、吉原での客と遊女のやりとりを近松門左衛門の『冥途の飛脚』の人物で描いた『娼妓絹籭(しょうぎきぬぶるい)』の3冊でした。

しかし、法の網をかいくぐることができると考えていた蔦重の目論見は甘く、蔦重と京伝のほか出版に携わった者は罪を問われ、蔦重は3作絶版のうえ身上(財産)半減に。京伝は手鎖50日の刑に処されてしまいます。

『肖像』より山東京伝 版本 明治時代 国立国会図書館デジタルコレクション

筆禍事件のもととなった『仕懸文庫』『青楼昼之世界錦之裏』


洒落本2冊はともに作・画/山東京伝 寛政3(1791)年 上/『仕懸文庫(しかけぶんこ)』 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2533925 (参照 2025-03-23) 下/『青楼昼之世界錦之裏(せいろうひるのせかいにしきのうら)』 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/8929704 (参照 2025-03-23)

両手首に手錠(てじょう)をはめられた状態で50日間謹慎しなければならないという厳しい刑に懲りた京伝は、引退を真剣に考えます。それを説得し、撤回させたのが蔦重でした。

元来商人気質であった京伝はその後、銀座に煙草(たばこ)関連グッズの店を開店。後輩作家の曲亭馬琴(きょくていばきん)の相談役をつとめながら、蔦重が亡くなった後も作家活動を継続。思いのままに才を発揮しながら、56歳で人生を終えました。

京伝が銀座にオープンした煙草入れ屋

京橋銀座一丁目に開いた煙草入れ屋の店先。店の奥にいる京伝は、吉原の遊女・花扇(はなおうぎ)と会話中。客の中には三代目瀬川菊之丞(せがわきくのじょう)、三代目沢村宗十郎(さわむらそうじゅうろう)、三代目市川八百蔵(いちかわやおぞう)らも描かれている。

『山東京伝の見世(さんとうきょうでんのみせ)』 歌川豊国 横大判錦絵 江戸時代・18世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
Share

和樂web編集部


構成/山本 毅 ※本記事は雑誌『和樂(2025年2・3月号)』の転載です。 参考文献/『歴史人 別冊』2023年12月号増刊(ABCアーク)、『蔦屋重三郎と江戸文化を創った13人 歌麿にも写楽にも仕掛人がいた!』車浮代著(PHP研究所)、『これ1冊でわかる! 蔦屋重三郎と江戸文化』伊藤賀一著(Gakken)
おすすめの記事

改革者・松平定信の意外な素顔に迫る。政治だけではない、文化人としての一面とは

瓦谷登貴子

人間と結婚したり、祟ったり。ヘビ年の今こそ知りたい「日本人とヘビ」の愛憎物語

あきみず

吉原の特別行事“紋日”の光と影。華やかさの裏で遊女を苦しめた搾取の実態

小林明

浦島太郎の子どもが人面魚遊女に!『箱入娘面屋人魚』のストーリーが斜め上すぎる

平安暴走戦士~chiaki~

人気記事ランキング

最新号紹介

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア