狂言を楽しむコツは「諦め」?
狂言の上演前に、野村万之丞さんたちによる解説コーナーがスタートです。
野村万之丞(以下、万之丞)「さて、皆さんにお伝えしたい本日のキーワードは『諦め』です。」
意外なキーワードが万之丞さんから発言され、会場はどよめきました。
万之丞「狂言のセリフは現代語ではない言い回しや難しい言葉もあり、聞き取れない箇所に気を取られてしまうと、全体の面白さを見失いかねません。セリフの細かな意味を追うよりも、聞き取れる部分や演者の表情、所作から場面を想像し、大まかな流れをつかんでいただきたいですね。」
筆者がはるか昔、大学受験の勉強をしていたころを突如思い出しました。英語の長文を読む試験では、「知らない単語がでてきても、そこでつまずくな!」と塾で激励されていた記憶です(笑)。多少、わからない単語があっても、長文を全体の流れで把握する。
もしかしたら狂言も、初心者ならそのように、楽しめばいいのかもしれません。なんだか勇気がわいてきました。
野村万蔵家・三兄弟勢ぞろいの演目も披露
解説の後には、「鐘の音(かねのね)」という演目が行われました。そのあとは野村万蔵家・三兄弟勢ぞろいの演目「佐渡狐(さどぎつね)」が披露され、会場は大笑い。
生真面目で細かいことが気になる「越後国の百姓」の役を、眞之介さん。うっかり大口をたたいてしまい、役人に賄賂を渡す羽目になる「佐渡国の百姓」を拳之介さんが演じました。賄賂をもらう役人「奏者」は長男の万之丞さんが熱演。
「佐渡国の百姓」が“かましてくるボケ”に、派手にコケて床に体を何度もぶつけていた万之丞さん。三兄弟のユーモアあふれる演技に、会場はほっこりした笑いで包まれました。
全員20代! 「三兄弟トーク」に参加した未来のスター5名を紹介
公演後の「三兄弟トーク」に登壇したのは、これからの伝統芸能を背負っていくキラキラ若手の5名です。
狂言・野村万蔵家、九世野村万蔵さんの
長男・野村万之丞さん
次男・拳之介さん、三男・眞之介さん
歌舞伎・八代目中村芝翫さんの、次男・福之助さん、三男・歌之助さん。
三兄弟は次男がつらい? 万蔵家×成駒屋の“家族あるある”
観客からの一つ目の質問「兄弟喧嘩はしますか?」に、野村三兄弟が苦笑い。
万之丞「子どもの頃は、遊戯王で喧嘩をよくしていましたね(笑)。」
中村福之助(以下、福之助)「長男の橋之助と僕は、子どもの頃は殴り合いの喧嘩もしました。」
万之丞「子どもの頃の喧嘩は、上の子が怒られることが多いですよね?」
福之助「それが、違うんですよ。兄と喧嘩すると僕が怒られました。父親が『兄さんは歌舞伎で先輩なんだ。だから喧嘩はやめなさい。』と言ってくる。弟と喧嘩をすると、今度は父親から『4歳も離れているのに、大人げない。』と諭してくる。三人兄弟の次男ってかわいそうなんです(笑)。」
それぞれの子ども時代のエピソードに、会場は笑いに包まれました。
弟たちから見た「兄の魅力」とは?
「兄弟のいいところは、ありますか?」という質問には、ちょっと照れながらのやりとり。
野村眞之介(以下、眞之介)「兄(万之丞)は冷静で視野が広い。僕たちの自由な動きをちゃんとまとめてくれる存在です。」
野村拳之介(以下、拳之介)「万之丞は行動力もある。公演が成立しているのは兄のおかげ。」
万之丞「拳之介は、“陽キャ”ではないのですが不思議と愛されキャラですね。眞之介は発想力があってクリエイティブ。」
一方、成駒屋の福之助さんは弟・歌之助さんについて「三男がいちばん“歌舞伎っこ”。ブレない世界観がすごい。周囲に動じない強さがある。」とリスペクト。兄弟って、やっぱりお互いをよく見ているのですね。
音楽に“ペースを握られない”のが、狂言の魅力?
狂言と歌舞伎の違いについての話題になると、歌之助さんが真剣な表情で語り始めました。
中村歌之助(以下、歌之助)「歌舞伎って音があるじゃないですか。三味線とかお囃子とか。歌舞伎の狂言物は、音に合わせて動きを作っていく部分が大きいのですよね。自分たちでペースを握ることはない。」
万之丞「狂言は囃子方(はやしかた/能・狂言で楽器を演奏する人)が出てくる演目が少ないので、自分たちで空気感やテンポを作ろうという意識は強いかなと思います。」
音楽に縛られない自由さと、少ない数の演者で繰り広げられる独特の間。それが、狂言の魅力の一つかもしれません。
初心者でも楽しめるような工夫はほかにも!衣装を着る体験や、影アナ、お見送りなど
「三兄弟トーク」のほかに、子どもたちや若者、初心者でも楽しめる工夫もたくさん用意されていました。
まず、装束(狂言の衣装)を着ることができるブースです。
和樂web編集部が万之丞さんとともに密かに推しているイケメン狂言師のおひとり河野佑紀(かわのゆうき)さんが、装束を着せてくれました。
手の所作なども親切に教えていただきましたが、筆者は緊張して肘がカクカクしております。
また開演前には本人たちによる影アナウンスもあり、サプライズ満載でした。いろいろな工夫のおかげで、外国人も小さいお子さんたちも開演前からリラックス。誰もが笑って会場があたたまりました。
ほかにも、かわいいグッズ売り場が!
新作グッズとして、普段も使えそうなカラフルな手ぬぐいを販売。手ぬぐいを購入した人には舞台からファンサービス(手を振ったりすること)をすると万之丞さんがお知らせし、みなさんドキドキしながら購入していました。
さらにフォトスポットがあったり、終演後は万之丞さんたち自らお見送りをしてくれたりと、エンタメ要素がもりだくさん。
次回は2025年10月18日(土)11時から国立能楽堂で公演があります。まだ狂言をちゃんと見たことないという方も、ぜひ足をお運びください。
撮影:荻島怜
野村万之丞 お知らせ
ファミリー狂言会・夏
2025年7月27日(日)11:00開演 国立能楽堂
毎回家族連れや初めて狂言をご覧になる方でにぎわうファミリー狂言会。わかりやすくお話しをはさみながらお楽しみいただきます。今回の「首引」では鬼とその娘のかわいい(?)姫鬼が登場します。
【番組】
狂言のおはなし 野村万之丞
狂言「口真似」 野村拳之介・石井康太・泉愼也
休憩
狂言「首 引」 小笠原弘晃・河野佑紀・野村拳之介・吉住講・石井康太・山下浩一郎・野村眞之介・泉愼也
狂言たいそう
■チケット
正面席 3,500円(5歳~高校生・60歳以上 半額 1,750円)
中正面/脇正面席 2,500円( 〃 1,250円)
※全席指定 ※入場は5歳以上
※託児サービスはございません
ほかにもたくさんの公演を行う野村万蔵家。
ぜひお近くのかたは、足をお運びください。