時代劇が好きだからこそ語る、時代劇の魅力と難しさとは。
木挽町にご縁を感じて
木挽町とは、現在の東銀座、歌舞伎座の裏手にあたるエリアの旧町名。今も通りの名称などに、その名残があります。
「うちの父(柄本 明)が木挽町の生まれなんです。小説が出た時に、木挽町の話ならと読んでいたので、映画のお話をいただいた時はご縁を感じました」
物語の舞台は、木挽町にある芝居小屋「森田座」。柄本さん演じる総一郎は、森田座近くで起きた仇討ちの真相を探ります。
「小説は、面白かったのと同時に、これは文章だからこそ成立する作品だと思いました。映像化は難しいだろうなって」
その理由は、柄本さんが演じる加瀬総一郎の描かれ方にあります。原作の総一郎は、あだ討ちの真相を追う聞き手として存在するのみで姿は登場しない。物語は、あだ討ちを目撃した人々の語りで進んでいくのでした。
「でも源孝志監督は、原作には出てこない総一郎を具体化して主人公にしたんです。面白い発想ですよね。エンターテインメントとして完成度の高い、ある種の痛快さをもって劇場を後にしていただける作品になったと思います」

よけない総一郎の独特の距離感
10代の頃より源監督の作品に出演してきた柄本さん。これまで監督に対し、「演じ方は役者に任せる」タイプだと感じていたそうです。しかし今回は、より踏み込んだ演出もありました。

「江戸にやってきた総一郎は、人ごみの中を森田座へ向かいます。ふつうなら人を避けながら歩きますよね。でも源監督から、“よけずに、ぶつかりながら一直線に向かって”と。僕の撮影はこのシーンから始まったのですが、この監督の演出が、総一郎さんを演じていくうえで一番のヒントになりました。猪突猛進。どこまでが計算か分からない。そして、ちょっと距離感が変な人(笑)」
監督からは「『刑事コロンボ』のような雰囲気」とのリクエストも。
「衣装合わせの時点で、“もうちょっとコロンボっぽい色ない?”とか、撮影中もOKを出された後に、“今のコロンボっぽかった”とか。気づけば“コロンボ寄り”に誘導されていたんだと思います」

「あだ討ちのシーンは、完成した作品で初めて観ました。アクションの迫力と映像の美意識が、さすがだなと。源監督と撮影の朝倉義人さんのタッグは、いつも映像がとても美しいんです。長くお付き合いさせていただいているお二方が、ぶんぶん腕を振り気合いを入れて撮影されている。そうやって仕事をされる姿にも刺激を受けました」
「作品のクレジットで、僕は主演として一番はじめに名前を載せていただいています。でもミステリーって、事件に関わる人たちの物語だと思うんです。中村吉右衛門さんの『鬼平犯科帳』でも、“今回、鬼平の出番は5分ぐらいだったね”なんてことは珍しくありませんでした。一歩下がると言うと大げさですが、この物語も芝居小屋の皆さんのもの、という意識は持っていたと思います」
阪妻と呼ばれたハムスター
以前、源監督のドラマで、時代劇オタクの役を演じた柄本さん。実際に、時代劇が大好きなのだそう。
「時代劇映画は阪東妻三郎から入り、錦ちゃん(萬屋錦之介)、(市川)雷蔵、(市川)右太衛門にいって……でもやっぱり一番は阪妻(バンツマ)。中学生の頃だったかな。祖母と湯布院映画祭で阪妻と丸根賛太郎監督の『狐の呉れた赤ん坊』とか『月の出の決闘』を、2人でキャーキャー言いながら観た思い出があります。好きすぎて、飼っていたハムスターにも『阪妻』と名づけていました(笑)」

大好きな時代劇。でも、いざ演じる立場となると様々な考えが巡ります。
「《時代劇》なんてものが、本当にあるのかなって思うんです。時代劇らしさを考えるほど、時代劇から遠ざかっていく気がして。藤田まことさんの『剣客商売』や『必殺』シリーズを観ると、衣裳やセットは時代劇なのに、藤田さんの飄々としたお芝居はとても“今”風。とても格好良くて、いい意味で《時代劇》を感じない。自分も、ああいうモダンさで時代劇を演じられたら」
モダンさを目指しつつも、演じる上で、時代劇ならではの所作や身体の使い方は求められます。
「技術的に難しいところももちろんあります。今回、僕の衣裳は股が割れている袴ですが、北村一輝さんの作兵衛みたいな着流しの衣装だと、歩くのにも鍛錬が必要。時代劇に限らず役者にとって、その役で歩くって何より難しいことだと僕は思っています」

身長182cm。長身ゆえのご苦労も。
「でかいと、目立つでしょう? 世界観に馴染むように、姿勢を工夫してごまかしたりしています。本物のお寺など古い建造物での撮影だと、鴨居が低くて屈むことも多いです。鴨居は暖簾のように屈んでくぐるのではなく、上半身を起こしたまま膝を折り垂直に高さを落とすんです。階段や段差は左足から。たたみ一畳は6歩で。時代劇には色々と決まり事があるんですよね。心の中で、“一畳なら2歩でいけるよ? 本当に武士がそんなことしていたの? 誰か見てきたの?”とか思ったりもして(笑)」
こうした約束事の中には、映画の現場の中で生まれ、時代劇のお作法として定着したものもある。
「そう思うと、時代劇のやり方に自分をあわせて演じることで、自分自身が“映画に触れている”実感を得られる気がするんです。だから僕、時代劇における不自由さを、けっこう喜びながらやっています。大好きな時代劇を演じられるってことが、時代劇を演じる一番の魅力なので」

時代劇は大好きで、超難しい
平安時代、戦国時代、江戸時代ーー。さまざまな時代の人物を演じてきました。
「いっぱい失敗もしてきました。あとで映像を観返してみたら、“俺一人だけ、めっちゃ《時代劇》やってるな”って落ち込んだり(苦笑)」
「なまじ《時代劇》と名前がつくから別物の感覚になるけれど、阪妻も右太衛門も、その時々の“今”を生きて、その時代の“今”で撮っていたんですよね。マキノ(雅弘)監督の『鴛鴦歌合戦』(おしどりうたがっせん)からは、現代劇を感じます。山中貞雄監督の『人情紙風船』も地に足がついている。先ほどのモダンさのような、演じる側の意識や技術だけでなく、当時の撮影形態も影響しているんです。歩く音やセリフの響きが、やっぱりセットで撮った映画の音なんです。そういった“今”の音を、当時はそのまま映画として出していた。そこに、当時の“今”や肌感を感じるんです」

「過去の名作に倣っても、江戸時代の人にはなれません。僕らも“今”とより密接じゃなきゃいけないし、時代劇で、自分が《時代劇》をやり始めたらちょっとマズいと思った方がいいのかもしれない。それは今回の撮影でも意識していたことです。時代劇というだけで、衣裳やセットには時代劇の方へ引っぱっていく力があります。その力にある程度身を預けて、今の自分で挑んでいく。面白いし、難しいです。大好きな分、時代劇って超難しいなと思います」

“今”の柄本佑さんが演じる映画『木挽町のあだ討ち』は、2月27日公開です。
作品情報
映画『木挽町のあだ討ち』
■原作:永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮文庫刊)
■監督・脚本:源孝志
■出演:柄本佑
⻑尾謙杜 瀬戸康史 滝藤賢一
山口馬木也 愛希れいか イモトアヤコ 冨家ノリマサ 野村周平
高橋和也 正名僕蔵 本田博太郎 石橋蓮司
沢口靖子 北村一輝
渡辺謙
■主題歌:「人生は夢だらけ」椎名林檎 (EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
■企画協力:新潮社
■配給:東映
2026年2月27日(金)全国公開
公式サイト https://kobikicho-movie.jp
Ⓒ2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会 Ⓒ2023 永井紗耶子/新潮社


