インタビュー:鈴木 深、高橋 木綿子
日本文化と「ダミアーニ」の共通点は、「自然を愛すること」
まずは『和樂』編集長の高橋より、シルヴィア氏に『ドラえもん』と『鳥獣戯画』がコラボレーションしたバッグをプレゼント。
高橋:千年くらい前に描かれた『鳥獣戯画』の動物に囲まれているドラえもんです。ドラえもんは猫型のロボットなのですよ。
シルヴィア:ドラえもんのファンなので、よく知っています! 『鳥獣戯画』は大人が鑑賞する絵画だったのでしょうけれども、千年前の人々にも子どものような心があったのですね。私は日本文化が大好きで「ダミアーニ」の作品には、生け花や日本美術など、日本文化からインスパイアされて生まれたものもあります。私が日本を初めて訪れたのは1987年のことで、それ以来、短期間でもきっかけを見つけては日本に来ています。
日本というのは非常にエレガントな国だと思いますが、同時にとてもモダンで、先進的な精神を持っています。何千年にもわたる伝統があって、それを大切にしていると同時に、非常に進んだテクノロジーを持ち、なんでも進化させていく。また、 過去を振り返って大切にする精神、ゆっくりと過ごすことを大切にします。代表的なのが茶の湯だと思うのですが、私は茶の湯というのはまさに芸術だと感じています。非常にエレガントなお作法や儀式、あれがもう日本の文化を代表しているように感じています。
髙橋:茶の湯の創始者の千利休の「花は野に咲くように」という美学が、今回のダミアーニのジュエリーにも配されているような印象を受けました。
シルヴィア:そう言っていただけて、とても光栄で嬉しいです。日本文化と「ダミアーニ」には、「自然を愛する」という共通点があると思っています。美しいものを作る時に大切なのは「新しい視点で物を見ること」。自然も新しい視点で見ることが、独創的な創造性に繋がっていくのだと思います。デザインに関して言うと、日本のデザインは完全なるシンメトリーではなくて、均整のとれたアシンメトリーが多いように感じています。
ダミアーニ・ファミリーの愛と情熱を注いだ、100周年記念コレクション
鈴木:今回発表された「100周年記念コレクション」について教えてください。
シルヴィア:100周年記念のコレクションには、私たちのジュエリーへの愛と情熱が溢れています。100ピースもの一点ものを作るために、弟のジョルジョが2年間かけて見事な大きさと希少性のある宝石を集めました。中には私たちファミリーのプライベートコレクションの宝石を使った作品もあります。それだけ、私たちの愛情がこもったコレクションなのです。
100ピース、どれをとっても見事な素晴らしい宝石を使っているのですが、弟が特に感動したのは、宝石商が持ってきてくれたコバルト色のスピネルでした。ダミアーニ家というのは100年間ずっとジュエリーを作り続けていて、素晴らしい宝石をたくさん見てきているはずなのですが、弟は「今までこんなに美しい色は見たことがない」と言っていました。もちろん、 世界中を探せばもしかしたらもうひとつくらいはあるかもしれませんが、私たちの経験では、本当に無二で希少性の高いものです。
また、このコレクションを作るにあたっては、普通に見つけられるような宝石は避けようと決めました。伝統的な宝石であっても、例えば100カラットのブルーサファイアですとか、コロンビアのムゾー鉱山で産出した、とても大きく色の美しいエメラルドですとか。産地にもこだわっていますし、珍しい、一般の方が見たことのないような宝石を選びました。たとえば、コレクションに使われた見事なエメラルドの宝石学上の証明書は、1冊の本ぐらいの厚さがあります。あまりにも素晴らしい宝石なので、歴史の本ぐらいの解説量があるのです。そういうものがあるというのを知っていただくのも大事だと思っています。
鈴木:今回の100周年記念のハイジュエリーコレクションは、とてもドラマチックだと思ったのですが、ネーミングひとつにしてもとても個性的ですよね。例えば「ミモザ オーロラ」はとても素敵な名前ですが、宝石の名前ですよね? 恋多き女神の名前かと思ったのですが。
シルヴィア:夜が完全には明け切らない時刻に、さあっと差してくる光のことも、イタリア語では「オーロラ」と呼びます。もちろん神話の女神の名前でもあります。神話がイメージソースになることもありますが、今回の場合は自然の美しさに注目して、そこからクリエイトしたジュエリーがほとんどです。まず一条の光が差して、夜があけていって、日が出てきて、太陽によって生きとし生けるものの命がいきいきと輝く、そういう情景です。
鈴木:すべてのコレクションから強いパッションを感じます。
シルヴィア:もともと宝石やジュエリー作りにかける情熱というのは「ダミアーニ」の特徴なのですが、今回の100周年記念コレクションでは、それがさらによく伝わるようなジュエリーが揃ったと思います。私にとっても弟たちにとっても、100周年という節目を迎えること自体、非常に感動的なことですから、やはりとても気持ちがこもっているクリエーションだと思います。
「ダミアーニ」100年の歴史とこれから
鈴木:他のジュエラーと「ダミアーニ」の違いはどういったところにありますか?
シルヴィア:「ダミアーニ」は、グローバル展開をしている高級宝飾ブランドの中で、唯一イタリアで生まれ、創業者の直系の子孫が現在でも直接経営・制作をしているブランドです。ヴァレンツァという街で創業し、現在もこの地で作り続けています。ヴァレンツァは世界的に有名な高級宝飾の生産地で、卓越した技を持つ金細工職人たちが集まっていて、今ではグローバル展開している他のイタリアのブランドや、他の国のブランドがヴァレンツァに注目して、制作拠点をこちらに移してくる、あるいはヴァレンツァの職人に作ってもらうような傾向があります。
他のブランドとの違いは、大きなグループの傘下に入っていないこと。ですから、独立してファミリーの考えでものごとを進めることができますし、納得のいく本物の品質を提供することができます。そして、伝統を大切にしながらも、常に進化や革新を大切にしてきた家系ですから、デザインも常に新しいものに取り組みますし、ものづくりの手法や技術も常に進歩させる。そういう姿勢がダミアーニ・ファミリーの特徴だと思います。
鈴木:シルヴィアさんは、制作と経営の両方に携わられていますよね。
シルヴィア:組織を構築するというのも、とても魅力的な仕事だと思っています。例えばお店をオープンするとか、支社をオープンするとか、そういったこともやはりダミアーニの世界観を広く伝えていくためにとても大切なことです。私たちと一緒に仕事をしてくださる方を選んで、その方たちに正しく伝える。そして、お店を通してダミアーニのイメージを世の中に伝える、そうした仕事にも魅力を感じています。
約40年「ダミアーニ」で仕事をしてきましたが、100年というのはとても大切な節目です。私たちが今まで実現できた夢を振り返り、まだ実現できていない夢に到達するための方法や、次の100年のために必要なステップを考えるきっかけにもなると思います。そうした意味で、100周年というのは、ひとつの節目であると同時に、スタート地点でもあると思います。
私と弟たちは創業者から見て3代目になりますが、両親から授かったものを一生懸命継承してきました。もちろん、これからも働いていくつもりですが、4代目も育っているのですよ。リレーと同じで、私たちのコースを一生懸命走って次の世代にはもっといい走りができるように準備をしてバトンを渡していきたいと考えています。
撮影/篠原宏明