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2020.07.01

浮世絵風景画の最高峰『東海道五拾三次』をはじめ広重の代表作が集結!7/4開催、佐川美術館「歌川広重展」

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2020年7月4日(土)から滋賀県の佐川美術館で開催の展覧会「歌川広重展 -東海道五拾三次と雪月花 叙情の世界-」。風景画でその名を馳せた浮世絵師、歌川広重(1797-1858年)の『東海道五拾三次』をはじめとした代表作が一堂に会する展覧会です。この記事では広重作品の特徴と展覧会の見どころをお届けします!

歌川広重とはどんな人物?

江戸時代を代表する浮世絵風景画の名手。定火消・安藤家の子として八代洲河岸に生まれました。13歳の時に家督を継ぐものの、当時版本の挿絵を数多く手がけていた浮世絵師・歌川豊広(1774-1830年)に入門。1832年に京都を旅し、その時のスケッチをもとに、2年後出世作となる『東海道五拾三次』を発表したことで、人気絵師の地位を確立しました。以来、江戸の名所のみならず、富士山や各地の風光明媚な景勝地を描き続けました。広重の描いたものは単なる風景画とは異なり、自然の美をたたえ、雪月花の風雅を愛で、叙情性を感じることができます。1858年、当時流行していたコレラを患い、急死。享年62歳でした。

歌川広重の最高傑作『東海道五拾三次』

東京から京都間は、東海道新幹線を使うと約2時間半で行き来できます。この日本の大動脈を、江戸時代の人々は長い時間をかけて旅しました。道中に存在する五十三の宿駅を「東海道五十三次」と呼び、浮世絵の題材として好まれてきたのです。

歌川広重の『東海道五拾三次』は、起点の江戸・日本橋に始まり、終点の京都・三条大橋まで計55点からなる風景画のシリーズ作品。この発表より前には、葛飾北斎が手がけた風景画のシリーズ『冨嶽三十六景』が大ヒットし、旅行ブームが沸き起こっていました。1797年に絵入りの地誌『東海道名所図会』が刊行され、東海道の旅に関心が高まる時代背景があったのです。

『東海道五拾三次 日本橋 朝之景』 1833年頃

1802年には十返舎一九の滑稽本『東海道中膝栗毛』の刊行が始まり、弥次さん喜多さんの珍道中が大人気となります。この機運を見逃さなかった江戸の版元である保永堂が、広重を起用して見事大成功をおさめたのです。白黒の絵で想像していた人達にとって、カラーの浮世絵はたまらない魅力だったことでしょう。現代の私達が見ても、江戸時代の旅気分が味わえて楽しいです。

目を引くリアルな気象表現

多くが江戸側から京都側を望む構図がとられていて、これは江戸人の疑似体験効果をあげる目的と思われます。四季や時間、天候の描写がリアルに表現されているのも大きな魅力です。雨や雪を描いた作品に、叙情性に溢れたものが多いと言われています。

『東海道五拾三次庄野 白雨(はくう)』は、道中の夕立を描いた名作です。坂道を上って行くのは、客を籠に乗せた籠かきと、筵(むしろ)を背負った男。対する傘をさした男と、鍬を担いだ男が下って行く描写は、まるで映画のワンシーンのよう。顔が見えないのが、かえって雨の激しさが伝わり、雨音が聞こえてくるようです。

坂道の手前に生える竹を効果的にレイアウトし、背後の竹藪をシルエットにすることで、奥行きのある表現になっています。
通常の浮世絵版画は、ものの輪郭を墨線で擦り、そこに色を重ね擦りして仕上げる手法。しかし、この作品の背景ではこの手法を使わずに、色の面の組み合わせで風景を描いているのです。斜線を多様した雨の構図など、広重のセンスが光る意欲的な試みです。

『東海道五拾三次 庄野 白雨』 1833年頃

想像で描いたからこその斬新さだった?

先に解説した『庄野 白雨』と共に傑作と言われるのが『蒲原 夜之雪』。実は、この絵に描かれている場所は滅多に雪が降らない地域です。それなのに、なぜ一面を雪景色にしたのでしょう?

かつては、幕府が京都の朝廷に馬を献上する行列に広重が随行して東海道を歩き、その経験に基づいて制作したと考えられていました。しかし刊行された時期から遡ること10年前に、火消同心の家職を子どもに譲っています。広重は武家に生まれ、早くに家督を継ぎましたが、浮世絵に専念したかったようです。このことから、近年では公務で上洛していなかったのではないかという説が一般的になっています。

イマジネーションを膨らませて作品を仕上げようとした時、広重は温暖な土地に、あえて雪を降らせる効果を思いついたのかもしれません。雪明かりに浮かび上がった夜道をすれ違う人物達。しんと静まりかえった世界は、見る者を感傷的な気分にさせてくれます。

『東海道五拾三次 蒲原 夜之雪』 1833年頃

行き交う人達の息づかい

『東海道五拾三次』には弥次さん喜多さんを彷彿とさせるような、ユーモラスで賑やかな宿場町を描いた作品もあります。客引きの留め女(とめおんな)につかまって、首を絞められた男は苦しそうな表情。女達の騒々しい声が聞こえてくるようで、笑いを誘われる場面です。一方、右手の旅籠にはこの騒ぎにも無関心で物思いにふけっている女。そして、泊まり客の足を洗おうと、老婆が湯を汲んで持ってきた様子も見えます。動と静の対比が見事で、中央のコメディエンヌ達だけではなく、エキストラにまで目配りする芝居を見ているかのようです。

『東海道五拾三次 御油 旅人留女』 1833年頃 

歌川広重の名作浮世絵を鑑賞するチャンス!

2020年7月4日(土)から滋賀県の佐川美術館で開催の美術展「歌川広重展 -東海道五拾三次と雪月花 叙情の世界-」では、今回紹介した歌川広重の『東海道五拾三次 庄野 白雨』のほか『名所江戸百景』や滋賀県ゆかりの『近江八景』、貴重な肉筆浮世絵も公開されます。

『名所江戸百景 水道橋駿河台』 1857年 画面一杯に泳ぐ鯉のぼり。神田川、水道橋から南西方向に富士がくっきりと見える。

『近江八景之内 瀬田夕照』 1834-1835年 琵琶湖岸の景勝地を題材とした作品。朱色に染まる夕暮れの情景をゆったりと描いている。地元で見ると、より感慨深そう。

風景画、花鳥画、戯画、卓越した描写力がうかがえる肉筆画に至るまで、様々なジャンルを通して、広重ワールドが堪能できます。間近に見ると、より作品の繊細さや魅力が感じられそうです。

歌川広重展-東海道五拾三次と雪月花 叙情の世界-

期間:2020年7月4日(土曜日)~8月30日(日曜日)
住所:滋賀県守山市水保町北川2891
開館時間:9時30分~17時(最終入館16時30分)
休館日:月曜日
入場料:一般1000円 高校・大学生600円
公式ウェブサイト

※放浪の画家・山下清の旅への思いがこもった『山下清の東海道五十三次』も同時開催しています。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間および休館日を変更している場合がございます。ご来館前に公式ウェブサイトでご確認ください。

書いた人

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。