日本のみならず、海外でも人気の浮世絵。独特のタッチや大胆な構図、美しい情景など、見るものを惹き付けてやみません。浮世絵の3大テーマとなっている「美人画」「役者絵」「風景画」ですが、今回は、女性を描いただけでなく、その時代に流行したファッションやトレンドアイテム、暮らしや習慣なども映し出し、風俗資料としても貴重な「美人画」を紹介していきます。
遊女を描かせたら右に出るものはない!艶っぽい美人画を描いた歌麿
みなさんが「美人画」と聞いて、最初にパッと思い浮かぶのは、喜多川歌麿ではないでしょうか。それまでの浮世絵は、女性の全身を描いていましたが、歌麿は役者絵に使われていた「大首絵」の構図を採り入れ、女性のバストアップだけを大胆に描きました。これをプロデュースしたのが吉原で育ち、版元として名を上げた蔦屋重三郎だといわれています。吉原の妓楼に通じていた蔦重は、人気の遊女を歌麿に描かせ、一大ヒットコンテンツへと育て上げます。今でいえばブロマイドのような役割もあり、吉原で遊ぶ男性たちはもちろん、女性や地方から出てきた吉原観光に来る見物人たちの吉原土産としても人気を呼びました。歌麿の描く繊細ではかない表情や結った髪の1本1本や着物の細かい柄など、細部にもこだわった、女性が見ても見惚れる美しい女性像となっています。
歌麿の生年ははっきりしていませんが、 狩野派の門人に習い、腕を磨いたといわれています。最初は老舗版元の西村屋で挿絵を描いていましたが、なかなか日の目を見ずにいたところ、蔦重に見いだされ、彼の版元から出版された豪華な色摺りの狂歌絵本の挿絵を描き、名を上げていきます。蔦重が、吉原に通う文化人や妓楼の主人を紹介し、遊女とも交流する中で、歌麿の感性が開花。その美しく繊細で、華やかな美人画は、多くの人の心を捉えました。
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武士出身の絵師として、高級で上質な浮世絵を数多く残した鳥文斎栄之
歌麿のライバルと言われたのが、武士から絵師へと転身した鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし)でした。武家の出自とあって、教養があり、題材に『源氏物語』や『伊勢物語』、和歌などの古典を採り入れたり、高級遊女の美人画を描いたりするなど、品格を感じさせる浮世絵が特徴でした。また、狩野派に師事したことから、画力もあり、版画だけでなく、晩年は特に肉筆画に力を入れ、数多くの大作を残しました。発注者には大名などの富裕層が多かったことから、高価な画材をふんだんに使った傑作を生み出しています。吉原遊女を描き、大衆の心をつかんで一世を風靡した歌麿とは、対極にいながらも、互いに影響を与えあう存在だったのではないでしょうか。
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誰もが見たことのある美人画を描いた始祖・菱川師宣
元祖・美人画を描いた絵師といえば、菱川師宣(ひしかわもろのぶ)です。彼の描いた『見返り美人図』は、切手になったり、教科書に載ったりと、誰もが一度は見たことのある美人画の代表作で、髪の結い方、帯の結び方、着物の柄など、当時の流行を端的に描き出しています。父が縫箔師で、師宣自身も実家を継いでいた時期もあり、着物の柄を細やかに描いたことでも定評がありました。
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カラフルな錦絵の美人画で一世を風靡した鈴木春信
江戸時代初期には、墨一色だった浮世絵版画ですが、赤や青など一色を加えた浮世絵が登場します。その後、多色摺りが開発され、師宣没後、約30年の時を経て、現在私たちがよく見るカラフルな浮世絵、いわゆる「錦絵」が登場しました。この中心にいたのが鈴木春信です。京都の浮世絵師、西川祐輔に師事したといわれ、華奢で可憐、細面のすっとした親しみやすい表情の女性を描き、人気を呼びました。中でも、白い着物と黒い着物の男女が雪の中を歩く『雪中相合傘』の浮世絵は、心中を思わせる男女の物憂げな表情が印象的な浮世絵です。春信の美人画は、背景にも臨場感があり、女性たちの生活をうまく描き出しています。
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まだまだいるぞ! 江戸の華といわれた美人画を描いた絵師たち
春信のタッチを引き継ぎながら、さらに洗練された女性を描いたのが鳥居派きっての美人画浮世絵師、鳥居清長です。安永期に活躍した北尾重政、磯田湖龍斎、北斎の師匠ともいわれる勝川春章らに影響を受けながら、その才能を開花させます。天明期は清長の時代といわれるほど、「豊かな頬と福耳を持つ長身の群像の美人」を描き、それらは清長美人と呼ばれました。清長は歌麿にも大きな影響を与えています。
また、歌麿以後、登場した美人画の浮世絵師が、渓斎英泉(けいさいえいせん)や歌川国貞、国芳と江戸後期を代表した浮世絵師です。彼等は役者絵や武者絵といった猛々しい浮世絵を描く一方で、繊細な美人画も描いていました。いかに当時の絵師たちの才能や技術が高かったかがわかります。
チラリと覗く胸に、ゴクリ。異なるタイプのセクシー美女を描く喜多川歌麿と渓斎英泉、美人画の魅力
美人画は女性たちにとって美のお手本だった
最初に書いたように、美人画は単に美しい女性像だけでなく、江戸のおしゃれを象徴する浮世絵でした。今でいうアイドルやインスタグラマーのような流行発信の中心にもあったのです。「江戸のおしゃれを知るなら美人画を見よ」というように、美人画は女性たちのファッションのお手本でもありました。
見せる下着は江戸時代にも!浮世絵美女の「チラ魅せ」テクニックがおしゃれなんです!
芸術の世界において美しい女性像はテーマの一つですが、浮世絵は個々の絵師の独創性やカラーが色濃く出ており、時代によって、随分と雰囲気も変わります。こういった美人画の変遷を見比べてみるのも浮世絵の楽しみと言えるのではないでしょうか。
和樂webには、まだまだたくさんの浮世絵美人画の記事が公開されていますので、ぜひ、たくさんの江戸の美人たちと出会ってみてください。
アイキャッチ画像<難波屋おきた> 喜多川歌麿 メトロポリタン美術館より
参考文献:別冊太陽「浮世絵図鑑 江戸文化の万華鏡」平凡社 蔦屋重三郎と江戸のアートがわかる本 河出書房新社 「日本大百科全書」小学館デジタル