思うように成果が上がらず、気分が落ち込んでしまう。必死に頑張っているのに、なかなか出世できない。
こんな苦労の時代を一緒に過ごしてきたパートナー、大成功してからも離したくないですよね。
同じようにこう思った(でもスケールの大きさが違う!)、昔の中国の人のエピソードが残されています。
「糟糠の妻」。この故事、なんと読む、どんな話なのでしょう?
答えは「そうこうのつま」
「糟糠の妻」は、「そうこうのつま」と読みます。「糟糠」は酒糟(さけかす)や米糠(こめぬか)のことで、こうしたものしか食べられなかった貧しい時代から苦労をともにしてきた妻、という意味です。両方とも美容などによいとされ、現代ではちょっとおしゃれなイメージがありますが、主食として毎日食べると考えると、やっぱり少し寂しいかもしれません。
中国故事「糟糠の妻」とは?
『後漢書(ごかんじょ)』の「宋弘伝(そうこうでん)」に、この故事は記されています。
後漢(ごかん)の光武帝(こうぶてい)の姉が夫を亡くし、再婚を願います。人柄・容姿ともに素晴らしく、地位もある大尉の宋弘(そうこう)をその相手に、と思っているようなのですが、宋弘は既婚者。そこで、光武帝は一計を案じます。
光武帝は姉を屛風の陰に座らせておいて宋弘を呼び、こう告げます。
「地位が変わったり財産が増えたりすると、付き合う相手や妻を変えるというのは普通のことだ」。
んま、失礼しちゃう、などと思うのですが、当時の中国ではそうしたことがさほど珍しくなかったのでしょうか? 現代日本でそういうことをすると、確実に白い目で見られちゃいますね。
でも、ここからがカッコイイ。
宋弘さん、こんな風に返します。
「貧しい時期の友を忘れてはいけませんし、苦楽を共にした妻を追い出すなどということもいたしません(貧賤の交わりは忘るべからず、糟糠の妻は堂より下[くだ]さず)」。
そうそう、地位や財産があってこそ、というお付き合いは、どんな時にでも支えてくれる心強い味方ではありませんよね。それにしても、富も権力もほしいままになる縁談を、ここまで力強く断る宋弘さん、このエピソードだけでも痺れちゃいます。
「糟糠」と「宋弘」、読みが同じ「そうこう」なのは、何か意味があるのかないのか。ちなみに、同じ意味で「糟粕(そうはく)の妻」というものもあります。
宋弘は、皇帝が道を誤りそうになると苦情を述べるような、正義感の強い人だったといいます。この故事も、そうした心意気の表れだったのでは、という解釈もなされているのです。
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参考文献:
・『日本大百科全書』小学館
・『日本国語大辞典』小学館
・『故事成語を知る辞典』小学館
アイキャッチ画像:写真ACより加工使用