現代では節分といえば立春の前日、2月3日頃をいいます。節分というのは読んで字のごとく、季節の分かれ目のこと。日本には四季があるので、もともとは節分も年に4回ありました。なぜ、立春の前日の節分だけが毎年欠かせない行事として残っているのか、豆まきをしたり恵方巻を食べたりするのはなぜなのかを解説します。
節分は立春の前日、立春の前日は年越しの日!?
二十四節気では春夏秋冬にそれぞれ6つの節気(季節の目印となるポイント)がありますが、節分は季節の始まりとされる立春、立夏、立秋、立冬の前日(前夜)。季節の変わり目には邪気が生じやすいと考え、夕方から外出を控えるなどして身を慎む「物忌み」の習慣が古くからありました。
立春の前日の節分が季節の行事になった理由は、明治5年まで使われていた旧暦と関係があります。現在の暦では立春は2月4日頃ですが、旧暦ではちょうど正月の頃にあたります。そのため、立春には春の始まりという意味とともに、新年の始まりという意味もあったのです。ということはつまり、節分は年越しの日ということ。豆まきや恵方巻といった節分の行事にも、実は正月の文化が色濃く影響しています。
「鬼は外!」節分に豆まきをする理由
節分といえば豆まき。炒った大豆を升に入れて「鬼は外、福は内」のかけ声とともにまき、鬼を追い払う行事は全国で行われています。
鬼を追い払うことで災いや病気が遠ざかるように祈るこの行事は、中世まで大晦日に行われていた追儺(ついな)、鬼やらいと呼ばれる宮中行事がルーツ。現在のような節分の行事になったのは、室町時代以降のことです。
豆まきに使う豆を福豆ともいいますが、昔から豆には魔を払う力があると考えられていました。福豆をひろって年の数だけ食べると、1年を健康に過ごせるともいわれています。年の数にプラスもう1つといわれることもあるのは、昔は数え年といって生まれた年を1歳とし、その後は誕生日ではなくて正月に年齢を重ねていったから。
生臭い鰯とトゲトゲの柊で、鬼を撃退?
また、節分には焼いた鰯(いわし)の頭や切り餅を柊(ひいらぎ)の枝に刺して、家の門や玄関の扉に飾る習慣もありました。鰯の生臭いにおいが鬼を遠ざける、または鰯や餅につられてやってきた鬼の目を、とがった柊の葉で突くのがねらいとも。
節分の日に今でもスーパーに鰯が並ぶのはこの名残です。生臭くない新鮮な鰯を、夕食においしくいただいても鬼を遠ざけられるのかが気になるところ。
恵方ブームは江戸時代にも
恵方巻は最近になって始まった気がするし、なんだか節分商戦に乗せられているみたい……と感じている人もいるのでは。その年の縁起が良い方角とされる恵方(えほう)を向いて、太巻きを黙々と食べる習慣は、確かに昭和50年代ごろから関西で広まり、平成になってから全国に拡大しました。由来は諸説あるものの、大阪の海苔問屋組合が仕掛けたともいわれています。
でも、恵方を気にする風習はもっと古くからありました。江戸時代には正月にお迎えする年神様は、恵方からやって来ると考えていたそう。正月の門松に使う木は、恵方にある山に自由に入って、切って持ち帰ってもよいとされていたそうです。
節分は2月3日……からずれることもある
ところで、「節分は2月3日頃です」というあいまいな表現になってしまうのは、立春が2月4日からずれることがあるからです。2021年の節分が2月3日ではなく2月2日だったことを覚えている方もいるのでは。国立天文台によると、節分が2月3日でなくなったのは1984年(2月4日)以来37年ぶりとのことでした。
二十四節気は、地球から見た太陽の通り道(黄道)を15度ごとに24分割し、季節の目印としています。現在使われている暦では1年は365日ですが、実際には地球は365日プラス約6時間で太陽の周りを1周します。そのため、二十四節気のポイントを太陽が通過する日時も、年々ずれていくのです(4年ごとに1日増える閏年で調整されます)。
ちょっとややこしいですね。 でも、二十四節気にはとても実用的な役割があったので、もう少しだけ解説を。
農作業の目安とされた二十四節気
明治6年に太陽暦(新暦)が導入されるまで用いられていた太陽太陰暦(旧暦)では、年によって閏月(うるうづき)が入り、1年が13カ月になることがありました。そこで、1年の長さが変わっても季節が分かるように、二十四節気という目印を設けたのです。1年でもっとも日が短くなる冬至や、日が長くなる夏至、春分、秋分なども二十四節気のひとつ。
ですから、もともと旧暦でも二十四節気の日付は一定ではありません。古今和歌集には「ふる年に春たちける日よめる(年が変わる前に立春が来た日に詠んだ)」として、こんな歌が収録されています。
年のうちに春は来にけり一年(ひととせ)を 去年(こぞ)とや言はむ今年とや言はむ
(新しい年になる前に立春が来てしまった、この一年を去年と言うべきか今年と言うべきか)
古今和歌集 在原元方(ありわらのもとかた)
二十四節気って平安時代の昔から今までずっと、暮らしの中に生き続けてきたのですね。
古代の中国で定められたものなので、日本の実際の季節とは少し差があるところもありますが、農作業の目安として長く利用されてきたそうです。
節分は二十四節気以外に季節の目安となる雑節(ざっせつ)という位置づけですが、江戸時代の実用書『新撰農家重宝記』にもしっかり項目があり、「節分は冬が終わって春を迎える日だから、陰から陽へシフトする」と書いてありました。
節分の意味を知るだけで、なんだかさっぱりとした気持ちで立春の日を迎えられるような気がしてくるから、不思議ですね。
参考資料:
日本大百科全書(ニッポニカ)
世界大百科事典
平成ニッポン生活便利帳