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禊をするべく、うりゃ~! とばかりに持ち物を投げ捨て、着衣を脱ぎ捨て、その勢いで神々をいっぱい生んでしまったイザナギノミコトさん。
イザナギのおこだわりは中流での禊!
そのままザンブと海に飛び込むのかと思いきや、いきなり分別を取り戻した。
「上流は流れが速すぎるし、下流はゆっくりすぎる」
しっかりと水流を見定めて、禊場所を中つ瀬、つまりちょうどよい速さで流れている中流あたりに決めた。変なとこだけ冷静である。
さあ、ようやく待望のさっぱりタイムだ。
水に浸かるやいなや、猛然と体のあちらこちらを漱ぎまくった。
するとまた、神々誕生のフィーバータイムに入ってしまった。
黄泉の国でついた汚垢(と書いてケガレと読む)そのものから生まれたのは、
八十禍津日神(やそまがつひのかみ)
大禍津日神(おおまがつひのかみ)
汚垢をきれいにする行為から生まれたのは、
神直毘神(かむなおびのかみ)
大直毘神(おおなおびのかみ)
一通りきれいにしてから水の底まで泳いでいって体を洗った時に生まれたのは、
底津綿津見神(そこつわたつみのかみ)
底筒男命(そこつつのおのかみ)
水底から少し浮いて水面まで出る中ほどで体を洗った時に生まれたのは、
中津綿津見神(なかつわたつみのかみ)
中筒男命(そこつつのおのかみ)
水面近くで体を洗った時に生まれたのは、
上津綿津見神(うわつわたつみのかみ)
上筒男命(うわつつのおのかみ)
ついに誕生!あの三貴神はどう生まれた?
そしてそして、である。とうとう彼らの番となった。そう、三貴神だ。
日本神話にとって、最重要場面の一つ、であるはずなので、ここは一発原文で紹介しよう。
ここに左の御目を洗ひたまう時に成りませる神の名は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)、次に右の御目を洗ひたまう時に成りませる神の名は、月讀命(つくよみのみこと)次に御鼻を洗ひたまう時に成りませる神の名は、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)。
つまり、体を洗った後、顔を左目→右目→鼻の順番にきれいしていったところ、天照大御神、月讀命、建速須佐之男命が生まれた、というわけである。
この三神、どうやら今まで生まれた神々の中でもとりわけ素晴らしい姿をしていたらしい。見た瞬間、生みの親が大歓びするほどに。
吾は子を生み生みて、生みの終(はて)に三はしらの貴き子を得つ
(訳 何人もの子を生みまくってきたけど、最後の最後になって三人の貴い子を得てしまったぜ!)
人間と違って、神様は生まれた瞬間からすでに大人の姿をしているのだろう。きっと揃いも揃って美男美女、しかも賢そうな顔をしていたに違いない。
ただ、おもしろいことに、彼らはこれまでの神々と違い、生まれつき何を担当するのか決まっていたわけではなかったらしい。最初から「霧の中で迷った時の神」とか「旅の途中で食べる食事の神」とか、何らかの役割を賦されていた神々とは大違いである。
「他より抜群に優れている」こそが、彼らの特性だったのだ。
そこで、イザナギは考えた。この子たちには特別な地位を与えよう、と。
まず、最初に生まれた女神・天照大御神には自分が首にかけていた玉のネックレスを外して直接与え、「お前は高天原を支配しなさい」と命じた。宝物を継承させるというこの行為、当然ながら跡継ぎ指名を意味する。
次に月讀尊に「夜の世界を治めなさい」といい、最後に建速須佐之男命へ「海原を治めなさい」といった。
名前は治める場所に合わせて付けたのだろうか。文章の流れを見る限り、生後に役割が決まったのは間違いない。もしかしたら神の力で子らの素質を瞬時に悟り、適材適所で配したのかもしれないが。
とにかく、こうして、天界の主人たる女神・天照大御神、夜の国の王たる男神・月讀尊、海の支配者たる男神・建速須佐之男命が誕生したわけである、のだが……。
さて、お立ち会い。
高天原は神々の神々の住む天上の世界、である。つまり、イザナギミザナミより先に生まれ、独り神として坐(ましま)した天之御中主大神や高御産巣日神などの先輩神もいらっしゃるはずである。
なのに、イザナギが勝手に我が子を神々の国の支配者として認定してしまった。
いいの? そんなことして。他の神様にもちゃんと相談しないと揉めちゃったりしない? なんだか心配だが……。
どうなったかは、次回。
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