▼ひねくれ日本神話考、過去のシリーズはこちら
わがまま人事異動の影響は?
イザナギが禊をしていたら生まれた神々、そのオーラスに輝かしくも誕生した三貴神。喜び勇んだイザナギが、彼らをそれぞれ天上・夜・海の支配者に認定したというのが前回までのところ。
だが、疑問に思わないだろうか。高天原にはイザナギに国生みを命じられるほどエラい上位の神々がいるわけだし、海だって三貴神に先立って生まれたばかり海の神々がいる。それなのに、「この子たちは優れている」っていう極めて主観的な理由だけで勝手に支配者にしちゃったのだ。こういう独断専行は揉め事の種である。万機公論に決すべし、イザナギ。
だが、結論から言うと、この時点では先輩神たちから特段の異議は出なかった、ようだ。何事もなく、三貴神たちはイザナギの言葉に従ってそれぞれが治める場所に散っていったのだから。でも、実際にはここでひと悶着あったかもしれない。けれど、記録しなければすべてはなかったことになる。とにかく、日本神話にはそれらしき形跡はないので「何もなかった」ことにせねばなるまい。
けれども、神々のご乱行は不問に付すわけにもいかなかったらしい。この後、三貴神それぞれが大騒動を起こしてばっちり語り継がれていくわけだが、そこはまた後ほど。
一方日本書紀では、SSR級のカリスマが生まれていた!
さて、ここまで古事記における三貴神誕生神話を追ってきたが、日本書紀ではどうなっているだろう。
実は、まったく異なる物語が繰り広げられているのである。
国生みで島々を生んだイザナギとイザナミは、次に海、川、山、樹木(句句廼馳/くくのち)、草野(草野姫/かやのひめ・野槌/のつち)を生む。
こうして国の形は整った。次に必要なものは?
そう、これらを支配する存在である。
吾已(すで)に大八洲国及び山川草木を生めり。何ぞ天下(あめつち)の主者(きみたるもの)を生まざらむ
(訳 島と自然を生んだわけだし、支配者を生まないってわけにいかないよね)
二人はまたまた頑張り、新たな子をもうけた。
そうしたところ、ウルトラレア、いやレジェンドレア級の女の子が誕生したのだ。
此の子、光華明彩(ひかりうるわ)しくして、六合(くに)の内に照り徹(とお)る。
(訳 この御子は麗しく光り輝き、その光は天地東西南北、つまり全宇宙を照らし通した)
どう考えても生まれながらにして日の神でしかないこの子、名を大日孁貴(おおひるめのむち)という。初めて得た光り輝く子に、親神たちは感動した。
「二人でたくさん子を生んできたけれども、未だここまで霊力の強い子はいなかった。これほど優れた子は地上に置いていてはいけない。すぐさま高天原に送って、天での全権を与えよう」と(またまた)勝手に決めた。
しかも、当時はまだ距離が近かったという高天原と地上を、天柱(あめのみはしら)を建てることによって無理くり分断したのである。これ以来、天と地は遥か隔てられることになった、というわけだが、ほんと無茶するな、この夫婦。
とにかく、日本書紀ではここにきて初めて天と地がはっきりと分かれる。
そして、二人協働での神生みはまだまだ続くのだが、古事記との違いはまだまだ散見するので、次回はそのあたりを、じっくり見ていきたい。
▼毎月第1・3金曜日に配信!「ひねくれ日本神話考〜ボッチ神の国篇〜」シリーズはこちらからチェック!