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2020.01.05

南天とは?名前の由来や歴史・効能・花言葉・見分け方を徹底解説

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小さな赤い実が、竹や松のお正月飾りにひときわ映える、「南天(なんてん)」。
赤い実には咳を鎮める効果があることから、南天の成分を含むのど飴もあり、もしかしたら、南天といえばのど飴を連想する人も多いのではないでしょうか?

南天は、古くから、「難を転ずる」の語呂から縁起のいいものとされています。
現代でも、縁起物や厄除けとして、お正月飾りとして使われたり、松や竹とともにお正月の花として玄関や床の間に飾られることも。

この記事では、主に縁起物としての南天の秘密を探っていきます。南天の小さな赤い実には、たくさんの秘密がつまっていました。

南天の名前の由来

南天は、メギ科の常緑低木です。

日本では、東海道から近畿以西の本州、四国、九州などの暖かい地域に自生しており、樹木の高さは1~3m。あまり太くならない幹は、束になって株立ちとなります。葉は3~7cmくらいで、枝先に集中して対生します。6月頃、枝の先に、6枚の花弁と6本の雄しべをもった小さな白い花が多数咲きます。
11、12月頃になると、果実は丸く赤色に実り、その直径は0.7~1cmになります。なお、果実が白い種類の「シロミナンテン」もあります。

中国では古来、「南天燭」「南天竹」「南天竺」などの名前で呼ばれており、日本名の「南天」は、中国での名称を簡略化したもの。これが訛(なま)って「ナルテン」「ナッテン」「ナピテン」とも呼ばれるようになりました。
ちなみに、南天燭の「燭」は、南天の実が「燭(ともし火)」のように赤く、南天竹の「竹」は株立ちが竹に似ているからこう呼ばれるようになったそう。

南天の英語名は、「Sacred bamboo」「Heavenly bamboo」。南天に神秘的なイメージがあるのでしょうか?

南天の日本伝来は、平安時代

南天は、平安時代に薬用、観賞用として中国から伝来しました。
南天は、鎌倉時代の記録にも見られ、藤原定家(ふじわら の さだいえ)は、

「寛喜2(1230)年、中宮権大夫(ちゅうぐうごんんのだいふ)が前栽(ぜんさい)に植える

と『明月記(めいげつき)』に記しています。

足利義満(あしかが よしみつ)が建てた金閣寺の「有佳(せっか)亭」には、南天の床柱が使われたとの伝承があります。初期の生け花の伝書である『仙伝抄(せんでんしょう)』にも南天が取り上げられています。

元禄(1688~1704)の頃には園芸品種が作出され始め、旗本・水野忠暁(みずの ただとし)が著した斑入り植物の図説集『草木錦葉集(そうもくきんようしゅう)』(文政12(1829)年)には「斑入(ふい)り」を中心に、41の品種が載っています。

岩崎灌園著『本草図譜』 「南燭」の部分  国立国会図書館デジタルコレクション
岩崎灌園(いわさき かんえん)の『本草図譜(ほんぞうずふ)』は、各地を踏査して写生した2,000種もの植物図に解説を添えた書で、日本で最初の本格的な植物図鑑と言われています。

南天は園芸植物として全国で栽培されており、その品種は減っているものの、古典園芸植物として受け継がれています。
南天の産地として有名なのは大阪府・奈良県・和歌山県・岐阜県・山梨県・兵庫県など。日本一の出荷量をほこる岐阜県郡上市八幡町(ぐじょうし はちまんちょう)では、毎年、「郡上八幡南天まつり」を盛大に行っています。

「難を転じて福となす」縁起木・南天

日本では南天は、鎮咳の生薬として、また、「難転(難を転じて福となす)」に通じることから、縁起木として親しまれてきました。

戦国時代には、武士の鎧櫃(よろいびつ、鎧を入れておくふた付きの箱)に南天の葉を収め、出陣の折りには枝を床にさし、勝利を祈りました。
また、正月の掛け軸には、水仙と南天を描いた天仙図が縁起物として好まれたようです。

江戸時代に入ると、南天はますます縁起木として尊ばれるようになります。
江戸の百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』では、「南天燭」の項に、

これを庭に植えて火災を防ぐ。大へん効献がある。

というような記述があります。

 

『和漢三才図会』 「南天燭」の部分  国立国会図書館デジタルコレクション

江戸時代には、「火災除け」「魔除け」として、多くの家の庭に植えられていたとか。こうした習俗は今も日本の各地に残っており、南天は家の鬼門の方角に植えられることが多いようです。

赤い実をつける常緑木、南天と万両、千両を見分けることができますか?

ところで、この時期に小さな赤い実をつける常緑木には、南天のほかに、万両(マンリョウ)、千両(センリョウ)」があるのをご存じですか? 三つとも似たような色と形で、いずれもお正月などの慶事の飾り物として使われることが多いのですが、微妙に違いがあるのです!

南天を見分けるポイント

南天は、メギ科ナンテン属に属する常緑性の木本植物で、樹高2~3mの低木。
果実は直径4~7mm程度の赤色で、葡萄の房状につきます。葉は互生で、3枚ずつ葉をつける複葉になっています。

南天:木の先端にまとまって赤い実がなっている

万両を見分けるポイント

万両は、サクラソウ科ヤブコウジ属に属する常緑性の木本植物で、樹高0.5~1mの低木。
果実は直径6~8mmの赤色で、葉の下にサクランボ状に垂れ下がってつきます。葉は互生で、葉の縁が波打った小さめの単葉です。

万両:赤い実は葉の下にある

千両を見分けるポイント

千両とは、センリョウ科センリョウ属に属する常緑性の木本植物で、樹高0.5~0.8mの低木。
果実は直径5~7mmの赤色で、葉の上に固まってつきます。葉は対生で、葉の縁がのこぎり状になった大きめの単葉です。

千両:赤い実が葉の上にある

生薬としての効能

 
南天の実は、咳止め効果の高い生薬として、古くから利用されてきました。
南天の果実、葉、茎、根が生薬となり、果実を乾燥させたものを「南天実」と呼びます。「南天実」には「o-メチルドメスチシン」が含まれており、この「o-メチルドメスチシン」に咳やのどあれに効く作用があるそう。

また、お赤飯に南天の葉を添える習わしは、単に彩りや縁起物としてだけではなく、葉に解毒作用や殺菌・防腐作用があることから取り入れられた先人の知恵なのです!

南天の花言葉

 
南天の花言葉は、「私の愛は増すばかり」。この他にも「機知に富む」「福をなす」「良い家庭」といった花言葉があり、南天は贈答用としても使われています。
特に、アメリカでは人気が高く、当初は一般家庭の庭木として植えられました。現在では東北部の諸州の森林に野生化し、赤い実をたわわに実らせています。

お正月には、南天を飾って福を呼び込もう! 

  
このように、縁起物として親しまれてきた南天。
「難を転ずる」の語呂だけではなく、その薬効にちなんで、文様の世界でも吉祥文として取り入れられるようになった南天。着物や帯のモチーフに使われることもあります。
古くは、枕の下に南天の葉を敷いて眠ると、悪い夢を見ない、という言い伝えも残っているそう。

お正月には忘れずに南天を飾り、難を転じて、福を呼び込んでみませんか?

主な参考文献

書いた人

秋田県大仙市出身。大学の実習をきっかけに、公共図書館に興味を持ち、図書館司書になる。元号が変わるのを機に、30年勤めた図書館を退職してフリーに。「日本のことを聞かれたら、『ニッポニカ』(=小学館の百科事典『日本大百科全書』)を調べるように。」という先輩職員の教えは、退職後も励行中。