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2024.01.05

変わらないことが進化、生きた建物を日々慈みながら。「向瀧」その2【〝おもてなし〟を体感できる至高の湯宿】

至高の温泉地と湯宿をご紹介する全13回シリーズ、第2回は「向瀧」その2をお送りします。

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福島県・会津東山温泉「向瀧」の
木造建築の心地よさは日々の手入れのたまもの

「木造建築というのは、大部分が木と土と紙でできている生きた建物です。だから、磨いたり、塵(ちり)を掃(は)いたり空気を入れ替えたりと、人間と同じように毎日の手入れが必要。お客様がいてもいなくても、日々の仕事は変わりません」
そう話してくれたのは、6代目当主の平田裕一さん。コロナ禍に見舞われたこの3年、予約がすべてキャンセルになった日も従業員は変わらず出勤し、客室や廊下の窓を開け放ち、掃き掃除や拭き掃除など、いつもと同じようにしていたと言います。
明治初期に創業し、ちょうど150年。「この建物はいつまでもつか?」の問いに、「半永久的に!」と即答。木造建築は的確な〝手当て〟をしていれば、ずっと生き続けることができるのだそう。たとえば柱の一部が傷んだら、その部分を切り取って別の木材をはめ込みます。障子や襖は張り替えがきき、土壁も塗り直せばいい。木造建築は日本の気候風土に合っているだけでなく、自然も物も慈しみながら生活してきた、日本人の気質そのもののようです。
「襖や障子がきつくなったら、屋根が〝重いよ、助けて〟と雪下ろしを要求している証拠です。機械類だって毎日意識して音を聞いていれば、モーター音がおかしいと気づいて修理や交換ができる。壊れてしまってからでは遅いので、耳と目と肌で感じ取ることが大切なのです」
100年後も200年後も現役でいてもらうために、毎日ていねいに手入れする。「変わらないことが私たちの進化」と、胸を張ります。

人の手でなければ成しえない〝快適〟がここに

左/複数の建物が庭を三方から囲むような構造のため、他者の目に触れる客室も。そんな部屋では、目隠しの簾すだれ越しに見る景色が日常とは違う時間をつくりだす。右/現在一般的なアルミサッシとは違い、木製の建具は室内からの景観も美しく整える。ほとんどの客室に小さなテーブルと座面が低い椅子が置かれた広縁が。この景色が、日本の旅館風情をつくりだしている。

新品の気持ちよさより手入れされた心地よさ

左/間取りや広さや調度品だけでなく、職人の手技も少しずつ違う24室。部屋ごとに外の眺めも異なる。右/つややかに磨かれた木製の廊下。表面が傷んできた板は剝(は)がして張り替えたほうが簡単だが、表面を削り、磨いたり塗り直したりして生かし続ける。奥側が曇っているのは、その手入れの途中である証。「予知と予測と予防が大切。お客様に不便をおかけすることもありますが、こんなふうに少しずつ対処しています。文化財としての価値を認めていただいた建物ですから、使いながら残していかなくては」と平田さん。

廊下が軋む音、戸を開け閉めする音、話し声や笑い声。
人の気配が宿のサウンドを奏でます

浴場へ行く人あり、料理を客室に運ぶ人あり。夜の帳(とばり)が下りるとぐっと見え方が変わる「向瀧」。プライベートな空間とオフィシャルな場が曖昧に交差する、それが日本旅館の魅力でもある。

【湯宿DATA】

向瀧(むかいたき)
住所:福島県会津若松市東山町湯本字川向200
電話:0242-27-7501
宿泊料金:2名1室利用時1名23,250円(税込)~。※1泊2食付、1室1名利用時はプラス5,500円。
アクセス:JR磐越西線「会津若松駅」よりタクシーで約10分(送迎なし)
公式サイト:https://mukaitaki.com/

撮影/篠原宏明 構成/小竹智子
※本記事は雑誌『和樂(2023年2・3月号)』の転載です。
※表示の宿泊料金は税金・サービス料込みの金額です。別途入湯税や、入浴料などがかかる場合があります。また、連休や年末年始など、特別料金が設定されている場合もあります。
※お出かけの際には宿のホームページなどで最新情報をご確認ください。

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和樂web編集部

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