『SHOGUN 将軍』の快進撃が続いています。真田広之がプロデュースと主演を兼ねた本作は、アメリカの時代劇シリーズで放映・配信されると評判を呼び、いまだ大きな注目を集めています。また米国テレビ界のアカデミー賞とも言われる最高峰の賞『エミー賞』で史上最多18部門を受賞し、『ゴールデングローブ賞』のドラマ部門でも4冠と歴史的な記録を達成しました。
真田広之が演じる吉井虎永は、徳川家康がモデルとなっています。さて、家康がその座についた「将軍」ですが、改めて説明をと言われると…。あれ、なんだっけ?
という人も多いのではないでしょうか。 何を隠そう私もそのうちの1人。そこで、基本をざっと調べてみることにしました! これで海外の人に尋ねられてもバッチリですね。
将軍は何をする人?
「将軍」は、天皇によって国の軍司令官に認められた称号です。徳川家康が就任した『将軍』は、正式には「征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)」と呼ばれます。本来は、蝦夷(えみし・現在の東北地方の集団)征討のために、朝廷が臨時に派遣する軍の総指揮官を意味しました。最初の征夷大将軍は、平安時代初期の武官・坂上田村麻呂(さかのうえたむらまろ)※1です。
時代を変えた将軍
源頼朝によって武士の時代が到来
平安時代末頃より各地で武士が台頭。中央の貴族の権力争いでも武力が背景となり、やがて平清盛(たいらのきよもり)ら武士一門が朝廷を掌握するまでになりました。その後源平合戦(げんぺいがっせん)で平家が滅び、東国の鎌倉に拠点を置いて鎌倉殿と呼ばれた源頼朝(みなもとのよりとも)※2が政権を固めると朝廷はこれを承認。鎌倉幕府が成立します。
その頭領である源頼朝は健久3(1192)年、天皇から将軍に任じられました。京都にある天皇の都からはるか東に離れた鎌倉に、自分の都を設立したのです。頼朝は朝廷との関係を保ちながら、うまく譲歩させて武士の政権を強化させていきました。このように、武士政権の頂点にふさわしい肩書きとして付与されたのが、征夷大将軍でした。本来は臨時の職であったものが、幕府のトップを象徴するものになった訳です。しかし、その鎌倉幕府は元弘3(1333)年に突如として終わりを迎えます。
翌年には後醍醐天皇(ごだいごてんのう)※3が、天皇自らが政治を行う、新政権を樹立。ところが武士の間で不満が高まり足利尊氏(あしかがたかうじ)※4が挙兵すると、わずか2年で崩壊してしまいました。
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(※3)鎌倉末期~南北朝初期の天皇。新政の失敗後は、吉野に移り悲運のうちに没した。
(※4)後醍醐天皇の尊治の一字を賜って「尊氏」と改名するも、後に天皇に背く。室町幕府を創始。
室町幕府と足利家
武力によって権力を握った足利尊氏が将軍となり、京都を拠点とした室町幕府が開かれると、初代から15代まで足利家から将軍を立てて、約240年続きます。
鎌倉幕府の制度を継承した政治体制は、3代将軍足利義満(よしみつ)の時代には全盛期を迎えて、世界遺産として知られる金閣寺の建立や明との貿易、後の日本に大きな影響を及ぼした政治・文化を打ち立てました。しかし次第に弱体化し、天正元(1573)年、織田信長により足利義昭(あしかがよしあき)※5が京都から追放されると、事実上の終焉となりました。
江戸幕府と徳川家
織田信長によって室町幕府が終わり、織田政権、豊臣政権(豊臣秀吉による政権)を経て、天下人となったのが徳川家康です。家康が慶長8(1603)年に将軍に任じられると、江戸を拠点とした武家政権が始まります。信長は将軍の官職には就かないまま、本能寺の変※6で討たれました。その後天下人となった秀吉は、将軍ではなく関白(かんぱく)を選んでいます。源頼朝の影響を強く受けていたと伝えられる家康は、自ら将軍職を望んだのかもしれません。
家康が開いた江戸幕府は、慶応3(1867)年15代将軍徳川慶喜(よしのぶ)の大政奉還(たいせいほうかん)※7までの約260年続きます。対内的には全国を統治し、対外的には日本を代表する政府として機能しました。
(※7)江戸幕府の第15代将軍・徳川慶喜が政権を朝廷へ返上したこと。
将軍制度の終焉
大政奉還後、王政復古の大号令によって、将軍は廃止となりました。武士が行ってきた政治の場所である幕府は、朝廷から権力をあずかって政治を行う仕組みが約700年もの間続きましたが、それが崩壊した訳です。大政奉還後、政治的権力を握る夢を絶たれた最後の将軍・徳川慶喜の処遇に不満を持った旧幕府軍と、新政府軍との戊辰戦争(ぼしんせんそう)※8が起こります。その結果旧幕府の敗北となり、慶喜は命だけは守られて、政治の世界からは離れて余生を過ごしました。
このように日本の歴史を作ってきた「将軍」を理解してから、『SHOGUN 将軍』や日本の時代劇を観ると、より楽しめるかもしれませんね。
参考書籍:『「将軍」の日本史』本郷和人著 中央公論新社、『日本大百科全集』小学館、『世界大百科全集』平凡社、『朝日日本歴史人物辞典』朝日新聞出版
アイキャッチ:『千代田之御表 御謡初 (千代田之御表)』楊洲周延 国立国会図書館デジタルコレクションより