Craftsmanship

2026.05.16

伝統の技で『スター・ウォーズ』の世界を!江戸末期から続く瀬戸焼窯元の挑戦と祈りの物語

やきものの総称として使われる「せともの」という呼び名は、愛知県瀬戸市の産地名から付けられています。中世から続くやきものの町・瀬戸は、六古窯※1のひとつでもあるのです。

そんな歴史ある瀬戸焼の技術を活かし、世界的に人気を誇る映画『スター・ウォーズ』のメインキャラクターを作るという壮大なプロジェクトが始まりました。 ファン待望の新作映画『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』の日米同時公開を5月22日(金)に控え、ジョージ・ルーカスが影響を受けた日本文化にも再注目したいところ。
これは、伝統工芸や産業が衰退するなか、江戸末期から続く美山陶房の5代目寺田鉄平さんと、陶磁器を主とした食器やインテリア雑貨などの企画・製造・販売を手がける株式会社サンアートの寺田燎平さんの新たな挑戦の物語です。

※1 中世(12世紀頃)から現在まで生産が続いている代表的な6つの陶磁器窯(越前、瀬戸、常滑、信楽、丹波、備前)の総称

瀬戸・ノベルティを受け継ぐメーカーと窯元の地元への想い

瀬戸は、食器などの日常雑器の他、陶磁器で作られる置物や装飾品、人形を生産しています。それが「瀬戸・ノベルティ」と呼ばれるもので、欧米で大変な人気を誇っていた時代がありました。ノーマン・ロックウェルのイラストをモデルにした人形や、ディズニーのキャラクターなどの陶製品は、瀬戸の窯業を牽引する輸出品だったのです。

最盛期には町のほとんどが陶磁器に関係する仕事をしていたという瀬戸の町ですが、高度経済成長の煽りを受け、窯元も工業化へと転換。また1980年代以降のプラザ合意※2などによる急激な円高で、市場が大きく変化し、陶磁器の生産量が激減するなど、メーカーも縮小の一途をたどってしまったのです。

※2 1985年に日本・米国など主要5か国が「ドル高を是正し、ドル安・円高を進める」と合意した為替政策の取り決め

さらには価格の安い陶磁器製品の輸入が増え、細かな分業で成り立っていた瀬戸の窯業は風前の灯となってしまっていました。そういった状況を憂いた、株式会社サンアート入社3年目の寺田燎平さんが、取引先のディズニー社へ大胆な企画を提案。それが瀬戸焼の伝統技法で、『スター・ウォーズ』の人気キャラクター「ダース・ベイダー」と「C-3PO(シースリーピーオー)」を作るというもの。これは映画というフィクションの世界を、土と炎という自然のプロセスから出来上がる陶磁器を使って、現実の存在としてリアルに表現することを目指したものです。

たくさんの伝統的な陶磁器の中にダース・ベイダーの素焼きが異彩を放っている

この企画が通るやいなや、寺田燎平さんは親戚であり、美山陶房の陶芸家である寺田鉄平さんに制作を依頼します。話を聞いた時の想いを鉄平さんは、「『スター・ウォーズ』世代にとって、憧れのコンテンツにやきもので関わらせていただくという幸運、こんな機会があることに驚きと喜びを感じました」と語ってくれました。

瀬戸のやきものの技術で今こそ新しい挑戦を

美山陶房では、3代目の寺田美山(てらだびざん)が瀬戸の窯元の仕事をしながら陶芸家として作品を発表、その作品が米国メトロポリタンミュージアムにも収蔵されるなど、業界を牽引してきました。鉄平さんのお父様である4代目・康雄さんは多摩美術大学の彫刻科を卒業後、現代陶芸家としても活躍しています。

そんなクリエイティブな環境の中で育ってきた鉄平さんも、最初は前衛的な作品作りを目指していました。しかし、作家としてキャリアを重ねる中で、徐々に産業として衰退してゆく伝統工芸の実情に触れ、自分たち中堅が瀬戸の業界全体のポテンシャルをあげていかなくてはと、そんな気持ちが強くなっていったといいます。

美山陶房5代目の寺田鉄平さん

このプロジェクトがスタートする少し前に51歳となった鉄平さん。彼が新たに掲げた目標は、伝統工芸の文脈を自身の作家活動の中で再定義するというものでした。
「瀬戸焼の代表的な陶器といえば、緑色の釉薬による織部焼や、淡い黄褐色に仕上がる黄瀬戸、真っ黒な瀬戸黒など。うちは代々織部焼の窯元だったので、織部での新たな表現は常に追求してきたのですが、 織部の作家として黄瀬戸を表現出来ないかという事を考えるようになりました。そこで自分が織部で使っている粘土や釉薬の原料を混ぜ合わせ、織部の形を変えたものとして黄瀬戸の作品を作り始めたんです」。

そんな時に、『スター・ウォーズ』のキャラクターの「ダース・ベイダー」を瀬戸黒で、「C-3PO」を黄瀬戸でという話が来たのは、偶然とは思えない出来事だったそう。

黄瀬戸で作られた「C-3PO」は深みのある色がリアルな質感を醸し出している

「実は『ダース・ベイダー』で使っている瀬戸黒(引き出し黒)の技法も、少し前までは、あまり一般的ではなかった技法なんです。窯から高い温度で引っ張り出すことで、茶色い釉薬が艶やかな漆を思わせる黒になるのですが、この技術も情報化社会となって、ある程度の知識が共有されるようになりました。特に90年代以降、陶芸の雑誌などで取り上げられるようになり、技術の一般化が進んだんです」と鉄平さん。

1200℃を超える炎の中からやきものを取り出し、急速に冷やすことで、漆黒の色合いが浮かび上がってくる。自然が生み出した美の結晶

寺田さんの目指す新たな桃山陶の魅力

最盛期にはおよそ1400軒の窯元があったといわれる瀬戸の町。この地域には、やきものに欠かせない良質な粘土やガラスの原料となる珪砂(けいしゃ)が豊富に含まれた瀬戸陶土層があります。

安土桃山時代にこの豊富な土を活かし、瀬戸や美濃で生み出されたのが、黒(瀬戸黒)や黄(黄瀬戸)、緑(織部)、白(志野)など、豊かな色彩で茶の湯文化とともに発展した「桃山陶」と総称されるものでした。江戸時代以降、一時的に衰退してしまいますが、その意匠の素晴らしさは400年以上の時を経てもなお美術品として人々を魅了しています。

昭和になって荒川豊蔵らが志野を再生させて以降、桃山陶を復活させる動きも活発になっています。いろいろな若手の陶芸家たちも桃山陶を進化させ、再び注目を集めているのです。

歪みと釉薬の美しさが人気の黒織部。寺田鉄平さんの作品

鉄平さん自身がこういった地元の伝統工芸に目を向けるもうひとつの大きな転機がありました。
「実家の家を建て替えた時に、土のなかから、かつてこの地域で作られていた陶工のやきものが、たくさん出てきたんです。土の上に家が建っているというより、やきものの瓦礫の上に、家が建っていたという感じでした。子どもの頃から寝起きをし、生活していたけれど、そういった歴史に気づいていなかったんです。それが2011年なんですけれど、『自分の足元を見なさい』『こんなに伝統のものがあるんだから、それをちゃんとやりなさい』と、いわれているような気がしたんです」。

このことがきっかけとなり、恵まれた瀬戸の土地で、伝統工芸をもう1回掘り下げようという気持ちになったのだとか。
「父も美大を出てから前衛的なことをやっていたのですが、僕が弟子として仕事を始めた頃には、作陶の中心が伝統的な桃山陶の技術を用いたやきものの表現と薪窯(まきがま)に移っていて。土と炎の関係、釉薬と土のバランス、焼き方でどう変わっていくかというのを父がやっている姿を見て、面白そうだなとは思っていました。ただ若い時は、父がそっちに行くんだったら、僕はもう少し前衛的な方に行きたいなとか、変わったことをやりたいなと思っていたんです」。

意匠も素晴らしい鳥や龍をかたどった酒注。寺田鉄平さんの作品

日本人にしかできない技術、それが今求められている

織部はこの地域では昔からあるやきものなので、「織部は古くさい」という印象になりやすいといいます。だからこそ、自分なりに現代性を取り入れることに挑戦していきたい、という鉄平さんの思いが伝わってきました。

その一方で、自分の作品を作れば作るほど、昔の人たちが作ってきたもののデザインの配置やバランス感が素晴らしいという実感にも至ったのだとか。
「自分自身も伝統的な方向に進んだ時に、父のやっていたアプローチがすごく勉強になりました。古典から学ぼうと、織部らしさの詰まった『向付け(むこうづけ)』を自分のテーマと決めて取り組みだしたところ、織部の緑釉と、透明釉のところに茶色や黒っぽい絵が入ってくる部分が、景色として美しいなと感じるようになりました。それまで筆が嫌いでやってこなかったんですが、そこから絵付も頑張るようになりました」と鉄平さん。

料理の器として人気の高い織部の向付け。寺田鉄平さんの作品(写真提供:美山陶房)

やきものの町というイメージがどんどん薄れていく不安

鉄平さんが伝統工芸に傾倒していくなかで、ひしひしと感じるようになったのが、受け継がれた技術の継承が途絶えそうだということでした。
「やきものの産地がいろいろ模索しているなかで、瀬戸は長い歴史があるにもかかわらず、出遅れている部分が否めませんでした。基幹産業が衰退していくなかで、僕自身も瀬戸のやきもの自体が弱体化していると感じたんです。人と技術が交流してきた歴史をもつ岐阜県の美濃焼が、ここ何十年頑張っているなか、その影に隠れる形で瀬戸の存在がどんどん希薄になってしまった。『瀬戸として新しい動きを作らなければ』ということをずっと感じていたんです」と鉄平さん。

工房内に設置されたガス窯の前で

一方、燎平さんも、仕事を始めた時から瀬戸の窯業を盛り上げるためのアイディアを練っていました。しかし、なかなか社内企画を通すことができず、難航していたと語ります。
「会社に提案した時、『工芸や日本の伝統文化が好きな一部の人には売れるかもしれないが、一般的なニーズがあるとは思えない』という判断が下されたんです。僕自身は、瀬戸焼と『スター・ウォーズ』というのは、それぞれの魅力が相乗効果となって、やきものファンだけでなく、『スター・ウォーズ』ファンにとっても、特別なものになるという自信があったんです。それで粘り強く提案を続け、遂に企画を通すことができました。作品が窯のなかから引き出される瞬間をずっと夢見ていたため、試作品が出来た時は初めて見た時の化学反応の美しさにすごく感動したんです。ジョージ・ルーカスが憧れた黒澤明の世界を日本の繊細な技術力で、日本の伝統文化と『スター・ウォーズ』を融合させることができたと思いました」と燎平さんもその時の様子を熱く語ってくれました。

そんな燎平さんの孤軍奮闘を傍で見ていた鉄平さんにとっても、企画が通ったと聞いた時の喜びはひとしおだったと言います。

学生時代には自身もここで陶芸を習っていたという寺田燎平さん。やきものに対する熱い思いを感じさせてくれる

失われつつある技術のなかでの試行錯誤

同じ土を扱うやきものといっても、織部などの器を中心に作陶していた鉄平さんにとって、瀬戸ノベルティと呼ばれる人形を作ることは、違う難しさがありました。普段作っているやきものとは、まったく行程が異なるのだそうです。

難易度の高い技術を必要とする型作り。日本人の繊細で丁寧な仕事ぶりが光る

「今回はディズニーとルーカスフィルムから、すでに許可の下りている原型を使わせていただく形でスタートしています。その型を鋳込み※3という技術を使って、陶器を作るための型に再現していくんです。昔はこういった型を作る工場が、瀬戸にはたくさんありました。ただ、受注量が減るにつれ、工場も内製化し、型作りのできる職人がどんどん減り、今では数えるほどとなってしまったんです」と燎平さん。

※3 人形の形を作る際に、商品の原型を石膏の型で作り、その石膏型にどろどろの泥漿(でいしょう)を流し込んで作る技法のこと

石膏の型の場合、いくつかの断片を組み合わせるなど複雑な造形技術が必要となるのだとか。さらには、鋳込みに適した泥漿を作ることも必要で、それができる人もいないため、鉄平さんは、素材から試行錯誤することになったそうです。

「磁器用の粘土・磁土※4を使う事が主流の鋳込み成形において、僕の陶芸作品として普段使っている瀬戸の陶器用粘土・陶土※5を泥漿にして成形する事が難しかったんです。そのため、瀬戸市内にある窯業試験場で産業試験官の方にを手伝ってもらい、一から泥漿を作ることになりました。陶土にどのくらい加水すれば良いのかや、どれだけの珪酸ソーダを入れたらいいかなど、何度も試作を繰り返しました。でも、そのおかげで失われていく技術を得ることができました」。

※4 有機物をほとんど含まない白色の土 ※5 微量な鉄分や炭化した植物の根や木片など、さまざまな有機物を含んだ土
固まった粘土の原型を丁寧に削りながら微調整していく。これも手わざの極み

「試作が完成し、ディズニーとルーカスフィルムに確認したところ、いつもは何回か修正が入るのですが、一発OKだったんです。やはり日本の陶芸技術はすごいんだと改めて思いました」と燎平さんも語ってくれました。

新たな工芸の未来を自分たちで作っていく

「今回、新しい取り組みをやってみて、普段自分が使っている伝統的な釉薬にも、新しい可能性がまだまだあるなという気がしました。特に『C-3PO』を作った黄瀬戸の釉薬は、現代の造形に向いているなと感じています」と鉄平さん。

釉薬も自ら調合し、納得の色合いになるまで何度も試作を重ねていく

確かに、色の濃淡や発色は、現代的であり、洋食器と合わせても違和感がないなと筆者も思いました。

黄瀬戸の茶碗・皿 寺田鉄平さんの作品 (写真提供:美山陶房)

今後の展望をおふたりに聞いてみると、「職人が減っている原因として、量産品を前提に昭和や平成の時代は、安い賃金でやってもらうことが少なくなかったんです。でもそれが工賃の安い仕事となってしまい、次世代に職業として選ばれてこなかったという状況があります。ですから、今回のような世界的な『スター・ウォーズ』で制作したやきものを知ってもらうことで、日本の伝統工芸を見直すきっかけを作り、やりたいという人を増やしていきたいんです。本当に良いものを作っていけば、認められる世界でありたいなと思います」とメーカ―としての立場から語ってくれる燎平さんの言葉は、業界にとっても重要なキーワードとなりえます。

そして作り手である鉄平さんからは、「自分の納得する色を出したいという時も、数値化や決まりがあるわけじゃない。日本の伝統的な陶芸は、天然原料や自家製材料を用いたり、釉薬を作る時も柄杓(ひしゃく)とか升(ます)で何杯というように長年の勘でやっている。だからこそ、出来た作品に揺らぎがある。そこが、世界に出ていく時に伝統工芸としての差別化になり、魅力となるんじゃないかなと思います。だから新しい挑戦をしながら、瀬戸のバリューというか、陶芸のバリューをあげていけるような、そういう取り組みにしていきたいです」。

おふたりからは、伝統技術を守りながら、現代にも融合するやきものを提案していきたいという強い意志が感じられます。燎平さんが感じた異質なものをかけ合わせて起こる化学反応や、伝統の中にも常に革新的な挑戦をしてきた桃山陶など、瀬戸が脈々と受け継いできた技術力が、再び世界に羽ばたいていくことを期待しています。

寺田鉄平

愛知県瀬戸市出身。東京造形大学彫刻科を卒業後、1998~’99年にアメリカオレゴン大学AEIに留学。帰国後、寺田美山陶房に入所。‘98~’00年夏期 カナダでの寺田康雄窖窯築窯プロジェクト参加。ギャラリーでの個展、グループ展などの活動と同時に、大学での講師も勤める。米国、中国、オーストラリアなど海外での活動も積極的に行う。
美山陶房公式サイト

Photo/松井なおみ

Share

黒田直美

旅行業から編集プロダクションへ転職。その後フリーランスとなり、旅、カルチャー、食などをフィールドに。最近では家庭菜園と城巡りにはまっている。寅さんのように旅をしながら生きられたら最高だと思う、根っからの自由人。
おすすめの記事

アミダラ姫が浮世絵に!ダース・ベイダーが益子焼に!スター・ウォーズコラボ商品がかっこいい!

和樂web編集部

江戸時代のスター・ウォーズ!?『国性爺合戦』を竹本織太夫が語る【文楽のすゝめ 四季オリオリ】第13回

連載 竹本織太夫

ポケモン紋様の装束も! 木村容堂さんに聞く、大相撲「行司」の世界・後編

森 有貴子

「まるで宇宙…!」SNSで話題の若手漆芸家・浅井康宏の作品が神秘的すぎる!

米田 茉衣子

人気記事ランキング

最新号紹介

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア