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10,11月号2024.08.30発売

大人だけが知っている!「静寂の京都」

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2024.04.26

俵屋宗達は、日本美術のマイケル・ジャクソン? 阿部顕嵐が語る「あらん限りの歴史愛」vol.12

俳優・阿部顕嵐さんが、興味がある日本文化について自由に語る連載。前回は「ニッポン画」山本太郎さんに日本画の顔料について話を聞いた。今回は山本さんが描く絵の内容や、山本さんがリスペクトする日本美術の流派「琳派(りんぱ)」について語る。 今回も絵画材料専門の複合クリエイティブ施設「PIGMENT TOKYO(ピグモン トーキョー)」で対談してもらった。 尚、聞き手はオフィスの給湯室で抹茶をたてる茶道ユニット「給湯流茶道(きゅうとうりゅうさどう)」。「給湯流」と表記させていただく。 ※取材日は2024年2月。

前回の記事:僕の好きな石が日本画の顔料だった!ゴッホも魅了した色のヒミツ

古いものと現代のものを「形のダジャレ」でミックス

給湯流茶道(以下、給湯流):私がアピールするのも変ですが、山本先生は実のところ、とてもクレイジーな方なのです。

阿部顕嵐(以下、阿部):そうなのですか(笑)。

山本太郎(以下、山本):着物で真面目に話していますが、実は(笑)。

給湯流:山本さんのこの作品を見てください。

▲清涼飲料水紋図/山本太郎

給湯流:現代的な缶から清涼飲料水がこぼれていて、それが江戸時代中期の絵師・尾形光琳(おがたこうりん)が描いた波模様に続いています。

山本:元ネタにしているのが、尾形光琳の「紅白梅図屏風(こうはくばいずびょうぶ)」。尾形光琳は江戸時代からとても有名で、様々な人が彼の絵に影響をうけてきました。

給湯流:この絵は国宝に指定されていますよね。

阿部:僕もこの絵は見たことがあります。流水の模様がすごく印象的ですね。

山本:光琳の名前をとって「光琳波(こうりんなみ)」と呼ばれている模様で、僕も大好きなんです。有名な清涼飲料水のロゴマークとこの波模様、ちょっと似ていませんか? これを「形のダジャレ」と、僕は呼んでいます。二つとも似ているのだったら、一緒の画面に描いてしまえばいいと思いまして。僕は、古いものと新しいものを必ず合わせてひとつの作品にしています。

阿部:僕も、古いものと新しいものの融合が大好きなので、この作品には刺激されます。

山本:ありがとうございます。実は2023年の夏に、箱根のポーラ美術館の展覧会に出してたのは、「紅白梅図屏風」と全く同じサイズの屏風です。清涼飲料水がこぼれています。ボケる時は真剣にボケる。

▲ポーラ美術館「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、杉山寧から現代の作家まで」展での山本太郎さん

阿部:本気でやるから面白い、ということですね。

山本:「紅白梅図屏風」に近づけるために、ちゃんと金箔も貼りましたから(笑)。

江戸時代の絵師は、今の俳優業に似ている?

阿部:次に描くもののアイディアは、 どのようなタイミングで思いつくのですか?

山本:いろいろなパターンがありますね。こういうコンセプトで作ってほしいという依頼もあります。また、今はインスパイアとかオマージュといった言葉がありますが、 最近人に言われて気に入ってるフレーズが、「人のふんどしで相撲取る」です(笑)。

給湯流:光琳や日本美術史のふんどしで、相撲をするというわけですね。そもそも日本美術は“先輩のふんどし”で相撲をとるスタイルだと聞きます。たとえば狩野派は、古い中国の絵を模写して修行をしましたし。

山本:そうですね。

阿部:エンタメの世界も似ていると思います。舞台やステージの演出方法は、もう出尽くしている。だから「今、面白いものを作ろう」という時、海外のいいものを引っ張ってきて、組み合わせることもあります。その組み合わせ方によって、新たなオリジナルを作っていく流れです。

山本:なるほど、なるほど。阿部さんの連載「あらん限りの歴史愛」の過去記事も拝見しましたが、取材されていた狂言などの伝統芸能は、まさしくそうですものね。

給湯流:たしかに。能・狂言の元ネタがあり、後から歌舞伎の作品になったりしています。

山本:尾形光琳をはじめ、琳派(りんぱ ※1)の絵師たちは、依頼主からのオーダーで絵を描いていることがほとんどだったと思います。役者さんのお仕事も、少し似ていますよね。

阿部:そうですね。プロデューサーや監督に出演を頼まれる形です。

山本:脚本家が書いた台本や演出家の演出を、役者さんは自分なりに咀嚼して演技をする。そういう点が、絵師に似ていると感じます。

給湯流:阿部さんは、演出家の方から言われたことに自分の考えも入れていくことへのバランスは、どのようにとっていますか?

阿部:若い時は、自己表現をしたいと考えていました。でも今は、どうしたら作品が一番よく見えるかを常に考えています。

給湯流:経験を積まれて、感覚が変わってきていると。阿部さんの出演する作品は、漫画やゲームが原作の企画も多いですよね。元のキャラクターと自分の演技とのギャップは、どのように調整されるのでしょうか?

阿部:原作があるものだったら、原作ファンが喜んでもらうことを大切にしますね。キャラクターのイメージを崩さず、自分のエゴは入れないように意識しています。

山本:阿部さんはまだお若いですが、幼い頃からキャリアを積んでこられているから出てくる言葉ですよね。自己表現したいというフェーズではなく、ちゃんともう自分がある。監督や演出家に言われたとおりに演技をしても、自然とご自身のカラーがでる。

阿部:いやいや。まだまだです。

山本:というか今唐突に言いますが、阿部さん、めちゃイケメン! 男でもドキドキします。

※1:琳派…江戸時代の絵画の一流派。俵屋宗達(たわらやそうたつ)・本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)を祖として尾形光琳が大成し、酒井抱一(さかいほういつ)などに受け継がれた。鮮麗な色彩や金泥きんでい・銀泥を巧みに用いた装飾的な画風を特色とする。(小学館/デジタル大辞泉より引用)

俵屋宗達の絵が好きすぎて、絵の上に紙を置きトレースした光琳

山本:国宝に指定されている作品もある尾形光琳は、とても立派な絵師として認知されていますよね。でもじつは、まあまあ変な人だったと思います。

阿部:(笑)。どう変だったのでしょう?

山本:光琳の実家は、御所にも出入りをしていた、京都の呉服商「雁金屋」。今風にいえば、国内有数のアパレルメーカーの御曹司だったのです。光琳は当時の舞台芸術である能が大好きで、能にのめりこんだり、モテ男でいろいろな女性と遊んでいたりしていた。そして親の遺産を食いつぶして、アパレルメーカーが潰れてしまう。そのときすでに30代です。

阿部:え!

山本:「実家が倒産して、どうしよう」。それで光琳は絵描きになったようです。実家が裕福で、習い事をいっぱいしていたでしょう。絵も小さいころから習っていたかもしれません。一流の絵画や着物の図柄もたくさん見ていたと思います。

給湯流:30代半ばから絵師を始めて、今も世界的に有名な作品を残せたのは、小さいころからいろいろな絵やデザインを見てきたからなのですね。

山本:尾形光琳が模写したという絵に、すごいエピソードが残っているものがあります。

風神雷神図屏風/尾形光琳 出典:colbase

山本:これは光琳が生きた時代の約100年前、俵屋宗達(たわらやそうたつ ※2)が描いた屏風を模写したものです。ふたりの屏風を重ねると、風神雷神の形がぴったり合っているのですよ。屏風の上に光琳が薄い和紙を置いてトレースしたと言われています。

給湯流:えええ。国宝級の絵に直接紙をしいてトレースするなんて、今だったら捕まりそうです!

山本:当時でも屏風ができて100年以上たっているから、著作権はOK(笑)。

阿部:絵の持ち主に頼んで、直接トレースさせてもらえた。光琳の権力もすごいですね。

※2 俵屋宗達:戦国時代〜江戸初期の絵師。当時は公家や裕福な商人のグループによる平安時代の美術の再評価が盛んだった。その影響も受けて明るくおおらかな作品を残す。後の研究で、光琳を含む絵の一派「琳派(りんぱ)」の第一世代といわれるようになった。

鶴下絵三十六歌仙和歌巻(一部)/俵屋宗達・本阿弥光悦 こちらは現代のグラフィックデザインにも通じる、おしゃれな作品!文字は本阿弥光悦。出典:colbase

大好きなアーティストの曲をコピーするバンドのように、模写をした琳派

山本:そして江戸後期に、酒井抱一というクレイジー絵師が登場します。彼は光琳を激しく敬愛しました。そして光琳の「風神雷神図屏風」を模写したのです。

阿部:またトレース?

山本:酒井抱一は権力をもっていた大名家の酒井家の次男だったのですが。それぐらい力があっても、この時代では光琳の絵の上から直接トレースすることはできなかったようです。

給湯流:光琳は、江戸後期にすでに有名だったのですね。

山本:酒井抱一は、光琳の屏風からちょっと離れて模写をしたので、形が崩れていますね。おそらく抱一は、最初の元ネタである俵屋宗達の風神雷神図屛風を知らなかったと思います。

阿部:え、知らなかったのですか。

山本:若い子のコピーバンドで起こりがちなこととちょっと似ていますね。 オリジナル曲を作った昔のバンドのこと知らず、最近のカバー曲を聴いてかっこいいと思った。そしてオリジナル曲を聞いたときに「これパクってる」と誤認する(笑)。

阿部:あはは。

山本:現代美術のように、著作権やオリジナルにこだわることが江戸時代はなかった。昔の絵でいいものがあったらどんどん使っていくスタイルだったのです。また、今のように美術館や博物館、ギャラリーがあるわけではないので「あの作品、誰々さんが持っている」と聞きつけたら見せてもらえるように頼まなければいけなかった。人脈が大切だったのです。

“ラブが過ぎる” 琳派・第3世代の酒井抱一

山本:酒井抱一の光琳への愛はものすごいもので。光琳が亡くなって100年たった年に光琳百回忌イベントをやったりもしました。

阿部:それは、すごい。

山本:さらに抱一は、光琳の「風神雷神図屏風」を模写することには飽き足らず…。

阿部:何をしたのですか?

山本:抱一のこの作品を見てください。

夏秋草花図屏風/酒井抱一 出典:colbase

山本:抱一は、琳派のなかでも植物の写実がかなり上手い。自分が得意な植物の絵を描いて、光琳の「風神雷神図屛風」の裏に貼ってしまったのです!

阿部:名作の裏に、自分の作品を貼り付けるとは!

山本:そうです。「光琳先生の屏風の裏に、僕の絵を貼らせてください!」といった感じですね。そしてよく絵を見ると、植物が雨に打たれて風に吹かれています。裏側にある光琳の描いた左右の雷神と風神から、雨や風をうけている構図なのです。

阿部:本当だ! オモテの絵と連動しているのですか。

山本:自分がいちばん得意な草花の絵で、“アンサーソング”を描いたというわけです。もうこれはラブを超えてるやろ(笑)。光琳先生と一体化しようとしています。

阿部:この植物の絵、かっこいいですね。

山本:江戸時代前期の宗達の「風神雷神図屏風」を、江戸中期の光琳が模写。そして後期の抱一が、光琳の屏風に雨や風に打たれた草花の絵を描く。琳派の人たちは、本当にすごいリスペクトでずっと繋がってきています。

リスペクトし続けている、マイケル・ジャクソン

給湯流:阿部さんは、人生のなかでリスペクトしている人はいますか?

阿部:マイケル・ジャクソンはずっと好きです。

山本:マイケル・ジャクソンは、本当に多くのエンターテイナーから尊敬されていますよね。

阿部:ダンスをする人たちは、今もみんな真似をしています。

給湯流:マイケルは、日本美術における俵屋宗達みたいな存在だと。

山本:マイケルはもう亡くなっているから、実際に本人が躍るところを見てダンスのコピーはできない。映像でみなさん学ぶのですよね。俵屋宗達が亡くなって100年たったとき、本人には会えないけれども、作品だけが残っている。それを光琳がリスペクトして模写して、さらに抱一が模写して、つながってきた。俵屋宗達とマイケル・ジャクソンどちらも、長く受け継がれている部分が似ているかもしれません。

給湯流:阿部さんは、マイケル・ジャクソンの振り付けをしていた方からダンスを教わった経験はあるのですよね。当時はどんなお気持ちだったのですか?

阿部:そうです、トラヴィス・ペインという方に教わっていた時期がありました。習い始めたころはまだ中学生くらいで。トラヴィスのダンスが当時から最先端すぎて、あまり理解ができていないかったかもしれません。

山本:そうだったのですか。

阿部:自分の技術も追いついていなかったというのもありますね。上手い人が踊ったらすごくかっこよく見えるのだろうな、と思っていた時期もあります。

給湯流:当時、トラヴィスさんからマイケルのエピソードを聞くことはありましたか?

阿部:マイケルはすごく練習していた、ということを聞きましたね。

山本:素人がマイケルの踊りを見ると、センスで踊っているかなと思っていました。本当は努力していたのですね。

給湯流:琳派の絵師たちも、先輩の絵を模写することを重ねて実力をつけていった。ここもつながるところがありますね。では最後に山本さん、まだ琳派や日本美術を見たことがないという方々にメッセージをお願いします。

山本:日本美術には意外と堅苦しくない作品もいっぱいあるので、楽しく見ていただきたいですね。今はインターネットで検索すれば、絵が描かれた背景もわかります。少しだけでいいので知識を入れてから鑑賞すると、全然見え方が違ってくると思います。ただかっこいい植物の絵だなではなく、“アンサーソング”だと知ると面白い。

阿部:たしかに。人間味が感じられると興味がさらにわきますね。これからはもっと、日本美術もみていきたいと思います。

給湯流:今日はありがとうございました。

インタビュー・文/給湯流茶道 写真/篠原宏明 スタイリング/阿部顕嵐(私物)

「今」を創る伝統画材ラボ  PIGMENT TOKYO

PIGMENT TOKYO(ピグモン トーキョー)は、「色とマチエール*の表現」を追求するショップ・ラボ・ワークショップを備えた絵画材料専門の複合クリエイティブ施設です。多種多様な画材とその用法、そこから生み出される「表情」について探求し、得られた知識や技術の普及活動を行っています。また、専門知識に精通した現役アーティストであるスタッフが、国内外の企業や教育機関に対して企画提案やコラボレーションなど、アートを軸にしたビジネス展開のサポートを行っています。
* 素材材質によってつくり出される美術表現効果。

営業時間:11:00 – 19:00 (定休日:月曜日・年末年始休業)
TEL:03-5781-9550
住所:〒140-0002 東京都品川区東品川2-5-5 TERRADA Harbor Oneビル 1F
アクセス:りんかい線「天王洲アイル」駅から徒歩3分/東京モノレール「天王洲アイル」駅から徒歩5分
https://pigment.tokyo/

山本太郎

1974年熊本生まれ。2000年京都造形芸術大学卒業。京都美術工芸大学特任教授。
1999年に日本画ならぬ「ニッポン画」を提唱。日本の古典絵画と現代の風俗が融合した絵画を描き始める。近年は企業等と積極的にコミッションワークを行いキャラクターを使用した作品も多数制作している。その作風は現代の琳派とも評される。2015年 京都府文化賞奨励賞受賞。

・神戸阪急 本館9階催事場 「山本太郎の世界展 日本画 ×ニッポン画」(6/26~7/1)
・イムラアートギャラリー 山本太郎個展(仮)(7/20~8/9)
・ZENBI―鍵善良房―KAGIZEN ART MUSEUM 琳派リフレイン 山本太郎と芸艸堂 (8/6~11/10)

阿部顕嵐 お知らせ

●EVENT
『ACTORS☆LEAGUE in Games 2024』
日時 : 2024年6月11日(火) 16:00開場 17:00開始
会場 : 幕張メッセ 幕張イベントホール
MORE INFO >> https://actors-league.com/games/

●OA
フジテレビ『トラベラーズ・ハイ』※ラスベガス編
毎週水曜日 24:25より放送
※放送・配信時間は予告なく変更になる場合があります

【FOD / 完全版】ラスベガス編 全3話 絶賛配信中
https://fod.fujitv.co.jp/title/70o6

●MORE INFORMATION
阿部顕嵐 OFFICIAL SITE >> https://alanabe.com

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阿部顕嵐

阿部顕嵐 (あべ あらん) 1997年8月30日生まれ、東京都出身。 俳優としての活動を中心に、映画、ドラマ、舞台と幅広い作品に参加。 主演ドラマ『oddboys』(テレビ東京)、『BLドラマの主演になりました』(テレビ朝日&TELASA)、主演映画『ツーアウトフルベース』、主演舞台『桃源暗鬼』、PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『ラビット・ホール』(第31回読売演劇大賞・優秀作品賞受賞)『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage 等の作品に多数出演。 JR東海「そうだ京都、行こう。」では今年含め2年連続夏のPRキャンペーンを担当。 2024年は9月19日(木)より放送スタートのMBS 毎日放送 ドラマフィル枠『スメルズライクグリーンスピリット』にて柳田役、11月には自身初のプロデュース舞台作品 東洋空想世界『blue egoist』を東京THEATER MILANO-Za、大阪オリックス劇場にて上演する。 また、「7ORDER」のボーカルとしての音楽活動や、自身のオリジナル作品の企画プロデュースなど、活動は多岐にわたる。
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