吉原に生まれ、自力で江戸の〝メディア王〟となった男・蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)の仕事からプライベートまでを、AからZで始まる26の項目で解説するシリーズ【大河ドラマ「べらぼう」を100倍楽しむAtoZ】。今回は「W=ワザを極めた浮世絵」をご紹介します! Zまで毎日更新中! 明日もお楽しみに。
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蔦重AtoZ
w=ワザを極めた超絶テクの錦絵を開発

蔦屋版の浮世絵は贅(ぜい)を凝らしたものが多く、超絶的な職人技が絵の魅力を引き立てていました。
美人大首絵(おおくびえ)で知られる喜多川歌麿(うたまろ)はさまざまな技巧を試み、彫師(ほりし)や摺師(すりし)とともに多彩な技法を駆使。狂歌絵本『画本虫撰(えほんむしえらみ)』では、エンボス加工の技法で和紙を浮き上がらせる「空摺(からずり)」を採用しています。

『画本虫撰(えほんむしえらみ)』 選/宿屋飯盛 画/喜多川歌麿 狂歌絵本 天明8(1788)年 メトロポリタン美術館 The Metropolitan Museum of Art, Rogers Fund, 1918, JP1044, JP1045
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【空摺】版木に紙を押しつけて立体的に表現
歌麿が世に出るきっかけとなった狂歌絵本では、菊の花に「空摺」を用いて、花弁の凹凸を見事に表現。天才的なセンスに脱帽。

『百千鳥狂歌合 四十雀、こまどり(ももちどりきょうかあわせ しじゅうから、こまどり)』 喜多川歌麿 狂歌絵本 寛政2(1790)年ごろ 各25.5×18.8㎝ 千葉市美術館 ※千葉市美術館開館30周年記念「江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ」展(2025年5/30~7/1 https://www.ccma-net.jp/)で展示。
【毛割】女の命の髪を繊細に表現する歌麿の真骨頂!
また、女性の生え際などの髪の毛を一本一本緻密(ちみつ)に描いた「毛割(けわり)」の技術や、女性を目立たせるために背景を無地にした「地潰(じつぶ)し」というワザも多用。

アップを多用した美人画シリーズ『歌撰恋之部』は歌麿独自のワザを多用。『歌撰恋之部 深忍恋(かせんこいのぶ ふかくしのぶこい)』 喜多川歌麿 大判錦絵 江戸時代・18世紀 東京国立博物館 出典:ColBase( https://colbase.nich.go.jp)
【地潰し】顔やきものを引き立てる色無地
背景がすっきりしていると、モデルが目立つようになります。今見ると簡単なことのように思えますが、当時は画期的な手法でした。

『団扇を持つ高島おひさ(うちわをもつたかしまおひさ)』 喜多川歌麿 大判錦絵 江戸時代・18世紀 東京国立博物館 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp)
【黒雲母摺り】舞台の暗さをリアルに表現する工夫
歌麿は背景にキラキラ輝く白の「雲母摺(きらず)り」を活用しましたが、写楽の役者大首絵では歌舞伎の舞台をイメージさせる「黒雲母摺り」を使用。これらのアイディアの源泉も蔦重だと考えられています。

写楽の役者大首絵第1期の作で、歌舞伎『花菖蒲文禄曽我(はなあやめぶんろくそが)』の一場面。『初代大谷徳次奴袖助(しょだいおおたにとくじのやっこそですけ)』 東洲斎写楽 重要文化財 大判錦絵 寛政6(1794)年 東京国立博物館 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp)
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構成/山本 毅
※本記事は雑誌『和樂(2025年2・3月号)』の転載です。
参考文献/『歴史人 別冊』2023年12月号増刊(ABCアーク)、『蔦屋重三郎と江戸文化を創った13人 歌麿にも写楽にも仕掛人がいた!』車浮代著(PHP研究所)、『これ1冊でわかる! 蔦屋重三郎と江戸文化』伊藤賀一著(Gakken)