シリーズ一覧はこちら。
古いもののエッセンスが積み重なってできる〝村田森〟
京都市内の修学院(しゅうがくいん)に仕事場を持っていた村田さんが、雲ケ畑に引っ越してきてから約20年になります。
「春になると、ここの山仕事の人たちは、タムシバという木の新芽をとって、ガム代わりに嚙んでいたそうです」と村田さん。雲ケ畑に来て、自然と人との密な関わりを知ることが増えたと語ります。
仕事場の一角には、大きな棚に美術館・博物館の図録、茶懐石や料理人の本がぎっしりと並んでいます。うつわの構想を練るときに、こうした本をよく参考にしているとか。
「特に古染付が好きで、展覧会に行ったり、コレクターの方に見せていただいたりしましたね」と説明してくれました。
古染付は中国・明(みん)時代(1368~1644)末期に、景徳鎮民窯(けいとくちんみんよう)で焼かれた染付磁器で、虫喰いと呼ばれるほつれがある、一見すると粗雑な趣のうつわです。
「不完全なものにあらがいがたい魅力を感じます。
さりげなくて味のあるものが好き」
「古染付の〝きれいすぎないところ〟が好みですね。磁器なのに、土もののような味わい。模様然としていない絵画のような絵付け。昔の日本の茶人が依頼して中国でつくらせたといわれているものだから、美の感覚がちょっとズレていて、とぼけた情趣もある。そこに雅味(がみ)を感じますね」
もちろん資料本ばかりでなく、骨董のコレクションも多く持ち、京都・岡崎の平安蚤(のみ)の市や、東寺(とうじ)の弘法市(こうぼういち)にも足繁く通っていたそうです。
「当時、平安蚤の市には韓国から骨董を売りに来ている人がいて、口縁が少し曲がった高麗青磁の小鉢を買ったことも。正確に描こう、形づくろう、としているのにつくれない。そんな自由なものに心惹かれるのは、ずっと昔からなんです」
村田さんがつくるうつわの「かわいげ」は、元々そういう妙味があるものを愛してやまない、村田さん自身に由来していたのだとわかります。次々と机の上に自慢の品を並べてもらったら、どれもすごくグッとくる! そして素敵! 「好き」という感覚がぶれないところに、村田さんという陶芸家の秘密があるのかもしれません。
「北大路魯山人にも惹かれ続けています。
シンプルかつ本物。こんなうつわが夢ですね」
村田森さんのうつわを買うなら、
「となりの村田」(京都市・岡崎)へ!
住所:京都府京都市左京区岡崎南御所町18-11
電話:075-746-6897
営業時間:12時~18時
https://tonarinomurata.com
※毎月不定期でオープンする予定のため、詳細はインスタグラムのアカウント(@tonari_no_murata)を確認してください。オープンしている間は、村田さんと奥様の扶佐子さんが、実際に接客を担当。うつわについて詳しく話を聞くことができます。
村田 森 むらた しん
1970年京都生まれ。1993年に京都精華大学陶芸科を、翌年に同研究科を卒業。荒木義隆氏に師事後に独立。2003年に京都・雲ケ畑に築窯し、年間10回以上個展を開いてきた人気作家でありながら、2016年に新作の発表を停止。2020年に、現代美術家の村上隆氏とともに陶芸専門店「となりの村田」(https://tonarinomurata.com/)を立ち上げ、二十四節気をテーマにした392点のうつわの受注生産を始める。
撮影/篠原宏明、小池紀行 構成/植田伊津子、後藤淳美(本誌)
※本記事は雑誌『和樂(2023年2・3月号)』の転載です。
※表示価格はすべて税込価格です(「となりの村田」https://tonarinomurata.com/)。
※掲載商品には1点ものや数量が限られているものがあり、取材時期から時間がたっていることから、在庫がない場合もあります。