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吉田璋也デザインの民藝が息づく鳥取の街
牛ノ戸焼の窯元の工房で、素朴な緑と黒の染分(そめわけ)のコーヒーカップを手にした途端、えもいわれぬ愛着が湧いてくることでしょう。
ふと工房の壁を見上げると、色褪せたセピア色の写真が一枚貼られています。牛ノ戸焼の連房式の登窯(のぼりがま)で窯出しする若き4代目窯主小林秀晴(当時30歳)の傍(かたわら)には、柳宗悦と吉田璋也が寄り添っています。新作民藝への道を歩み始めたばかりの吉田は、小林に父祖の仕事の素晴しさと尊さを伝え、新作民藝の新たな試みとして緑と黒の新作の染分皿を考案し、昭和6(1931)年5月11日、第1回の窯出しが行われたのです。
「形極めて美しい。将来牛ノ戸のものとして名を長く残すであろう」と、柳は高く評価。この鳥取民藝の幕開けから約90年、今なお牛ノ戸焼は健在です。6代目小林孝男さんが、手間を惜しまず曳田川(ひけたがわ)から堆積(たいせき)した荒土を昔ながらに水簸(すいひ)〈精製〉する場所などを案内してくれ、飽きのこないシンプルなものをつくりたいと語ってくれました。
鳥取・民藝館通りは今も活気にあふれている
吉田璋也は、陶芸だけでなく木工・金工・竹工・染織・和紙など多岐にわたる地元の工人たちと新しい民藝品の生産に取り組み、鳥取の新作民藝運動を牽引しました。
また、それらを流通・販売できるよう、昭和7(1932)年には鳥取市内に「たくみ工芸店」をつくります。翌年には販路を求めて東京銀座にも出店。鳥取の新作民藝のみならず、日本全国の民藝品の流通機能も担いました。この先駆的な活動で吉田は自他共に認める「民藝のプロデューサー」となったのです。
さらに昭和37(1962)年には「たくみ割烹(かっぽう)店」を開店。民藝のうつわに郷土料理を盛って生活の中で美しく用いる〝用の美〟を市民に示しました。現在、民藝館通りには「鳥取民藝美術館」「たくみ工芸店」「たくみ割烹店」が並んでいます。観賞するだけではなく、民藝のうつわで美味しい郷土料理をいただき、工芸店では気さくな店員さんに地元の窯元の特徴を教えてもらいながらうつわも購入できる。まさに鳥取民藝のワンダーランドなのです。
厳選された地元の新作民藝を購入できる日本初の専門店「鳥取たくみ工芸店」
1932年に新作民藝品の販売拠点として開店して以来、陶器、木工、染色、竹工、漆工、紙など、地元の素材を用いて職人がつくる民藝品を扱っています。
【店舗情報】鳥取たくみ工芸店
とっとりたくみこうげいてん
住所:鳥取県鳥取市栄町651
電話:0857-26-2367
営業時間:10時~18時
休み:水曜
https://takumikogei.theshop.jp
民藝のうつわで牛すすぎ鍋をいただく「たくみ割烹店」
新作民藝のうつわで食事を楽しめる店。名物は、しゃぶしゃぶの原形といわれる「鳥取和牛すすぎ鍋特選和牛リブロース」5,300円。第二次世界大戦で軍医として中国に渡り、除隊後も北京に残り民藝運動を続けた吉田璋也が、帰国後、北京の名物料理「シュワン羊肉(ヤンロウ)」を、羊肉の代わりに牛肉を用いてアレンジしたといいます。
【店舗情報】たくみ割烹店
たくみかっぽうてん
住所:鳥取県鳥取市栄町652
電話:0857-26-6355
営業時間:11時30分~14時30分(L.O. 14時)、17時~22時(L.O. 21時)
休み:第3月曜
撮影/伊藤 信 構成/新居典子
※本記事は雑誌『和樂(2021~2022年12・1月号)』の転載です。
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