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2021.01.20

逆転歴史裁判!源実朝暗殺事件の黒幕は誰だ?三浦義村の公判を独占取材

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ここは、この世ではない場所にある裁判所。閻魔庁の管轄ですが、死の直後に行われる裁判ではなく、死後しばらくたって浮上した罪を裁く場所です。生前に無罪と思われていたけれど、死後に証拠が出て来た時や、逆に死後に無罪である証明が出て来た時は、ここで容疑者の魂を呼んで改めて検証する……という設定です。

今回行われるのは、鎌倉幕府3代目将軍・源実朝の暗殺事件で、「黒幕だ」と多くの人に思われている三浦義村(みうら よしむら)の公判です。多くの人が注目しているこの公判。和樂webが生者として独占取材権を獲得しました!

すごい! さすが和樂web!

いつ見ても、物々しい雰囲気のある閻魔庁の門に手続きをして入場し、生者記者席に座りました。周りには、亡霊・妖怪・鬼の皆さんがぎゅうぎゅう詰めで押しかけています。傍聴席は満席で、立ち見までいます。

死後の世界にコロナはないので容赦なく「密」です。こんなに「密」なのは久しぶりで、思わずほっこりしてしまいました。……あれ、もしやあそこで法廷の様子を絵に描いているのは……水木しげる先生では!? おもわず声をかけそうになりましたが、ここで知り合いや有名人に声をかけることは厳禁なのでグッと堪えました。

閻魔庁の鬼の姿をした裁判長が木槌を鳴らし、いよいよ公判が始まります。

これは楽しみ! 三浦さんの疑いは晴れるのか!?

三浦義村の公判、起訴状読み上げから大波乱!

— 紫の直垂(ひたたれ)姿の老武士が立ち上がり、証言台に立ちました。裁判長は手元のカードを読み上げます。

裁判長:氏名、三浦義村。職業、鎌倉幕府評定衆。住所、神奈川県鎌倉市雪ノ下。本籍地、神奈川県横須賀市衣笠。間違いありませんね

義村:はい

— 検察官が立ち上がり、起訴状を読み上げました。検察官はスーツ姿のキリっとした女性……しかし脚がうっすらと消えかかってます。亡霊です。

検察官:被告・三浦義村は健保7(1219)年1月27日の夜、神奈川県鎌倉市の鶴岡八幡宮境内で行われた殺人事件の犯人である、公暁(くぎょう/こうきょう)を唆し、犯行を促したとして、殺人教唆の罪で地獄の刑罰を死後に改めて求刑する。

公暁は、子どもの頃に出家させられているのですね。父(将軍・源頼家)は暗殺されているし、ちょっとかわいそうな生い立ち……。

— これは「実朝暗殺事件の黒幕でしょ?」という意味ですね。

裁判長:あなたには黙秘権という権利がありますので、言いたくないことは言わなくても問題ありません。あなたは先ほど検察官が読み上げた起訴状の内容に間違っているところはありますか?

義村:……ふぅ。

— おっと義村容疑者、心底どうでもいいと言いたげな表情で大きなため息をつきました。まるで「来年の大河に向けて忙しい時に裁判ごっこに付き合わされる身にもなれ」という義村容疑者の心の声が私の脳内に直接響いているかのようです! この態度に検察官の眉毛がピクリと動きます。犬の顔をした弁護人が慌てて立ち上がりました。

弁護人:き、起訴状の内容には誤りがあります! 被告人は殺人教唆など一切していません! 無罪を主張します!

— 弁護人の主張は真っ向から対立することになりました。睨み合う検察官と弁護人、そしてチベットスナギツネのような目で正面を見ている三浦義村容疑者!

チベットスナギツネ、検索したら何とも言えない表情をした、めちゃくちゃかわいいキツネでした♡

裁判長:(カンカン!)静粛に! 一旦席に戻ってください。検察官、冒頭陳述を読み上げてください。

実朝暗殺事件の黒幕は誰だ!?

— 亡霊の検察官は堂々とした様子で事件の経緯を説明します。

検察官:健保7(1219)年1月27日の夜、鶴岡八幡宮にて、鶴岡八幡宮の別当(べっとう=最高責任者)である公暁が、将軍であり自身の叔父である源実朝氏と、その御剣役(ぎょけんのやく=ボディーガード)の源仲章(なかあきら)を殺害しました。彼はすでに「僧侶でありながら殺人を犯した罪」で地獄の刑罰を受けています。

しかし公暁は実朝を殺害する時に「親の仇だ」と叫んだ事が、その場にいた多くの人が証言しています。公暁の親とは、彼の父親である源頼家(よりいえ)のことですが、頼家氏は北条の者に殺されたのであり、実朝氏に殺されたわけではありません。

一体誰が、公暁に「お前の父親を殺したのは実朝だ」と告げたのか……。そう考えた時に、かつて捜査線上に浮かんだのは北条義時氏でした。

『吾妻鏡』によれば、北条義時氏は事件直前に体調を崩し、御剣役を源仲章氏に譲り、帰宅していた事を注目されました。そして公暁は義時氏と間違えて仲章氏を殺したことを認めています。それにより「北条義時が公暁を唆して、源実朝を殺害した」として、長い間殺人教唆の罪を背負って来ました。

しかし現在は北条義時黒幕説は成り立たないとされています。将軍の補佐役である「執権(しっけん)」という立場は将軍がいて初めて成り立つ役職です。跡継ぎが決まっているのならともかく、決まる前に殺してしまえば鎌倉幕府自体がなくなってしまう恐れがあります。

な、なるほど~!!

同様に、黒幕として名が挙がった事がある後鳥羽上皇にしてもそうです。実朝は武士たちの棟梁として朝廷に仕える立場の重要な人物であり、その実朝を右大臣に任命した直後に殺すなんて事は不自然極まりない。今、一番「黒幕」としての疑わしいのは、被告人・三浦義村です!

— ざわざわと、法廷がどよめきました。裁判長の木槌が響き、再び静寂が訪れます。

検察官:被告人・三浦義村は、公暁の乳母夫(めのと)であり、育ての親としての立場があります。実朝氏と義時氏を殺害すれば、公暁が将軍となり、自身が執権となる……そういう未来を描いていたのでしょう! しかし義時暗殺に失敗したとみるや保身をはかり、公暁を殺して口封じをしました。三浦義村こそが、事件の黒幕! キッチリと地獄の刑罰を受けていただきましょう!

— 傍聴席の半数が声をあげ、拍手をしました。当の義村さんは相変わらずチベットスナギツネ顔です。

みんな~~!! 三浦さんの言い分も聞いて~~!!

裁判官:静粛に! 弁護人、これに対して意見はありますか

— 犬の顔の弁護人は勢いよく立ち上がりました。

弁護人:はい! 弁護側は無罪を主張します!

三浦義村は暗殺事件に本当に関与しているのか?

弁護人:検察側へ質問します。まず実朝暗殺事件の犯人である公暁は、「誰にそそのかされたのか」を自白しているのでしょうか。

— 亡霊の検察官は、少し眉毛を動かしました。

検察官:……いいえ。生前はもちろんの事、死後の閻魔裁判でも口を割らず、800年経った現在も教唆した人物については黙秘を続けています。

弁護人:おかしいですね。地獄の刑罰を受けて、800年も経っているのに自白をしないなんて。そもそも……「黒幕はいない」のなら。答えようがないのでは?

「黒幕はいない」!? その発想はなかった!

検察官:しかし! 状況証拠は被告人が黒幕である事を、如実に物語っています! 実朝氏と義時氏が死んだ場合、一番得するのは被告人です! 公暁を将軍にして自分が執権となれるのです!

弁護人:異議あり! ……公暁が将軍になる? 御家人たちは、衆人環視の中で前将軍の首を刎ねた男を将軍と認めますかね?

検察官:そ、それは……荒々しい坂東武者たちを統べる者として相応しいというアピールに繋がるのでは?

弁護人:頼朝氏も頼家氏も実朝氏も、そんな事をせずとも将軍になりましたよ? 三浦義村さん、御家人の立場としてお答えください。鎌倉幕府の将軍として相応しい条件とはなんでしょうか?

— 義村容疑者はまた深くため息をつきました。しかし先ほどのように冷たく吐き出すようなため息ではなく、どこか温かみを感じます。

義村:……あくまで、かつて鎌倉御家人筆頭としてあった私の意見を申し上げるならば……。河内源氏の血筋と、朝廷とやりとりできる地位と教養、そして頭脳。いざとなれば、「荒々しい坂東武者たち」さえ、従わせる胆力でしょうかね。

弁護人:それは公暁にあったと考えますか?

義村:……彼は幼くして鎌倉を離れ、仏門へ入った。故に、鎌倉が、武士が、将軍がなんたるかを知りません。しかし彼は若い。だからもっと多くの事を学ぶ機会が必要でした。

— 公暁は犯行当時、満年齢18歳。現在では高校3年生ぐらいでしょうか。たしかに、自分が大人になったつもりで色々やらかしがちな年齢と言えばそうかもしれません。

……はい。そのくらいの時期は、私も完全に黒歴史です。目を覆いたくなるド派手な格好で田舎を闊歩してました!!

弁護人:ありがとうございます。さて次に……検察側は、被告人が義時氏を殺すメリットがあるとおっしゃいましたね?

検察官:ええ、執権の座を自分のものとできるのです!

弁護人:……当時の職って世襲制でしたよね。義時氏が亡くなれば、泰時氏が執権になるのが数年早まるだけではないのでしょうか?

検察官:はぅ!?

検察官が思わず「はぅ!?」となっちゃった! 三浦さんの弁護人頑張れ!

弁護人:そもそも、被告人三浦義村氏は、生前の行動は「北条と協力する」という立場で一貫しています。北条と三浦が対立しているというのは、あくまで昭和に流行した創作の傾向です。……当時の創作論はとにかく「対立させよ」でしたからねぇ……。

検察官:で、でも……公暁は事件後、被告人の家を目指して、使者も送ってるんですよ!「これで俺が将軍だ! 迎えに来い!」と! 明らかに以前からの繋がりがあるじゃないですか!

弁護人:以前からの繋がりも何も、被告人は公暁の乳母夫ですし。そして先ほど被告人本人も言いましたが、被告人は「御家人筆頭」なのですよ。だとしたら「将軍たる者」がいの一番に命じる相手として指名するのは当然ではないでしょうか。

検察官:ぐぬぬ……。

弁護人:弁護側は、被告人・三浦義村は本事件には無関係で、無罪であると主張します!

— これは……弁護側の主張が一理あるように思えます。聴衆の皆さんもあーでもないこうでもないと言いあっていますが……。

裁判長:(カンカン)皆さん、静粛にお願いします! 被告人、最後に言っておきたい事はありますか?

義村:……すべては過去。何が起こったかは、記録として残っているものしかない。そこから空想を広げるのは好きにしたらいい。後世でどう言われようと、私があの時代を確かに生きたという事実が変わるわけではないし、私の名はこれからも残る。だから、好きにしたらいい。

— 義村容疑者は裁判長を真っすぐ見てそう言いました。その背中は誇り高い武士そのものでした。

カッコイイ……これぞ武士の鑑!! 公判中にフォーリンラブしちゃいました(/ω\)

裁判の判決は!?

裁判長:それでは、判決を言い渡します。主文、検察側の主張は、「北条と三浦が対立関係である」という前提によるものである。しかし、被告人の生前の立場は「一貫して北条と協力関係にある」と史料上で示されている。よって証拠に成り得ず、無罪とする! 以上、これにて閉廷します。

— 法廷は歓声に包まれました。三浦義村氏は、犬の顔の弁護人に抱きつかれていますが、無表情です。あ、でも少し口元が綻んでますね!

おぉ~~!! 三浦さん、おめでとうございます!!

あとがき

歴史上の暗殺事件には、陰謀論がつきものです。源実朝暗殺事件の黒幕は、坂本龍馬暗殺の黒幕・本能寺の変の黒幕に並ぶ、日本史三大陰謀論の1つだと思います。

その後の歴史を知っている立場からすれば、その暗殺事件によって最終的に得した人物が怪しく見えるのは当然です。でも、その当時を生きていた人の立場から見れば、予想外の出来事に対して冷静さを失わなかった人が残っているだけではないでしょうか。

確かに、後からいくらでも深読みできちゃいそうです。

そもそも、実朝暗殺の黒幕とされてきた人たち……後鳥羽院にしろ、北条義時にしろ、三浦義村にしろわざわざ「公暁を使って」「衆人環視の中」暗殺する必要ってあるんでしょうか。本気でやるつもりなら、腕の立つ忠実な部下を使ってサクッとやれる人たちだと思うんですよね。

ということで、「単独犯説支持」の立場から、趣向を凝らしてやってみました。実際の裁判の流れとは違っても、そこはあの世の裁判ということでご容赦ください。

三浦義村黒幕説が広まったのは、永井路子氏の小説が、歴史研究者の石井進氏に好意的に取り上げられ、大河ドラマとなって全国のお茶の間に印象付けたからです。

それ以来、三浦義村は「卑怯者」「陰険な策略家」というイメージが付きまとっています。でも令和4(2022)年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、時代考証の先生のうち2名が著書で「公暁単独犯説」を支持する立場を取っています。

そろそろ義村が黒幕の呪縛から解き放たれるといいですね。……本人は「好きにしたらいい」って言いそうだなと思いますが。

参考文献

坂井孝一『承久の乱』
呉座勇一『陰謀の日本中世史』
高橋秀樹『三浦一族の研究』『三浦一族の中世』

書いた人

神奈川県横浜市出身。地元の歴史をなんとなく調べていたら、知らぬ間にドップリと沼に漬かっていた。一見ニッチに見えても魅力的な鎌倉の歴史と文化を広めたい。

この記事に合いの手する人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。