戦国時代、とくに女性の「辞世の句」が気になる
連載第1回の取材場所は、東京・目白にある「永青文庫」。戦国時代の細川忠興や、元首相の細川護熙を輩出した名門・細川家の建物だ。現在は美術館として一般にも公開。取材当日は、細川家が収集してきた刀剣の展覧会が行われていた。美術館に入るなり細川家の家系図を見つけ、かじりつく阿部さん。
阿部顕嵐(以下、阿部):家系図に細川ガラシャがいますね。
給湯流茶道(以下、給湯流):細川ガラシャ、お好きなのですか?
阿部:はい。一時期、自分の中で「辞世の句」ブームがあって。移動の車の中で、辞世の句をずっと読み上げていたこともあります(笑)。その中で、ガラシャの辞世の句にぐっときたのです。
ガラシャは、明智光秀の娘で戦国武将・細川忠興(ただおき)の夫人。とても聡明な女性だったと言い伝えがある。しかし忠興と結婚後に本能寺の変が起き、反逆者の娘だからと幽閉され、苦労が多い人だった。夫からキリスト教の話を聞き興味をもったガラシャ。夫が九州征伐で不在の間に大坂のキリスト教会を訪れたという、強い意志をもった女性だ。「苦しみの闇でこそ人は輝く」といった神父の言葉に感銘した彼女は、洗礼を受ける決心をする。本名は「細川玉」で、クリスチャンネームがガラシャである。
その後、関ヶ原の戦いで夫は東軍・徳川方について出陣してしまう。夫がいない間に、石田三成率いる西軍が細川邸を襲撃。ガラシャを人質にしようとする西軍に彼女は服従せず、自らの命を絶ったのだ。キリスト教では自殺が禁じられているため、家臣に槍で胸を突かせたという言い伝えがある。そのときに詠んだといわれる辞世の句がこちら。
「ちりぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」/細川ガラシャ(意訳:花はいつ散るべきか知っている。人間も花のように、死に際をわかっていることが美しい。)
阿部:今は「男性らしい」「女性らしい」なんて言うのは時代遅れかもしれません。でも敢えて言わせてもらうと、戦国時代の辞世の句は、女性のほうが力強いものが多い気がします。なかでもガラシャの句は、覚悟が伝わってきて心を動かされますね。
給湯流:きめ細やかな考察、素敵です……。ところで、取材の打診をする前から『和樂web』をご覧になったことがあったとか?
阿部:はい、読んだことがありました。ロケやツアーなどで全国に行くことがあるのですが、地方にいった時に「この町、どんな城があるのかな?」とスマホで検索していたら、『和樂web』の記事が出てきました。だから、読んだことがある媒体で連載を持てるなんて嬉しいです。ちなみに最近も家族で会津若松に旅行して、鶴ヶ城を見てきましたよ。雪で真っ白な城がきれいでした。
給湯流:そうなのですね。いい連載になるようにこちらもがんばります!……ではさっそく、本題に入りますね。阿部さんが日本文化にハマったのには、何かきっかけがあったのですか?
阿部顕嵐さんと日本文化の出会い
阿部顕嵐(以下、阿部):小さい頃から高校生くらいまで、いろいろな体験があって。それで自然にハマっていったという感じです。
給湯流:おお! まず、小さい時はどんな体験を?
阿部:祖母や母が絵を見るのが好きで小さいころから、美術館に連れて行ってもらいました。今でも一緒にいきますね。西洋絵画を見ることが多いかな。
給湯流:おばあさま、お母さまと今も美術館に行くなんて、最高です。ちなみに、大学は芸術系の学部に進学されたのですよね。絵を描くのがお好きだったのですか?
阿部:絵を描くことはできないのですが、昔から絵を鑑賞するのが好きでした。中学生からは芸能活動もしていたので、芸能の勉強もしたくて。それで芸術史を学べる大学をめざして、塾に通いました。
給湯流:塾に通っていたのですか! アイドルと学業の両立、すごい……。
阿部:塾にいた先生が日本文化に詳しい人だったのです。東山魁夷(※)をめちゃくちゃ勧めてくれて、図録を買ったりしました。ほかにも、スーパー歌舞伎をいっしょに観劇したり。そのあたりから日本文化に興味がでました。芸術学科に進学してからは、歌舞伎や能、人形浄瑠璃を鑑賞する授業もとりましたね。
刀を見ると、命のやりとりをしてきたパワーに吸い込まれる
給湯流:日本文化が好きになった経緯、お話ありがとうございました。ではお待ちかね、永青文庫の刀剣を見ましょう。
阿部:嬉しいです。僕、自分の家紋が入った刀が欲しくて探しているのですよ。もし入手できたら刀を鑑賞する部屋を作りたいです。
給湯流:そんなに刀剣がお好きなのですね!
阿部:この刀、いいですね。刃文がしっかり入っていて、かっこいいです。鎌倉時代に作られたのですか。こんなに長い歴史があると、一度は人を斬ったこともありそうですよね。
給湯流:刀剣はなぜ好きなのですか?
阿部:刀を見ると、吸い込まれます。命のやりとりをしてきたパワーがすごい。歴史小説も好きなのですが、本の中だけで読んできた戦闘シーンが、目の前にある実物の刀剣で感じられるのが嬉しいです。すごい、この刀は36人も斬ったって書いてありますよ。
阿部:鐔(つば)の展示も豪華ですね。江戸時代の武士は、後輩にきれいな鐔をプレゼントしたと聞いたことがあります。
刀を握る柄(つか)と、刀身の間に挟む金具を鐔という。武家が実際に戦で使っていた長い刀は、簡素な装飾のものが多かった。しかし丈の短い腰刀は普段の室内でも常に身に着けるため、だんだんファッションとして発展したらしい。
室町時代の鐔は鉄製で飾りもなかったが、江戸時代になると金、銀、赤胴、真鍮などを使ってきれいな絵画のような表現が誕生。細川家は江戸時代に熊本で腕がいい職人を育成し、「肥後金工」と呼ばれるようになった。林又七は、細川家に仕えた熊本の名職人だ。2023年5月7日まで、永青文庫で又七が作った鐔を展示している。
給湯流:今度は妄想の質問です(笑)。もしも今、展示中の鐔を1つ入手できるとします。どれを所望されますか?
阿部:とても細かい透かし彫りがある、この鐔が欲しいですね。刀をもし購入できたら観賞用にしたいので、きれいな文様がある鐔を合わせたいです。
「型にハマる」という言葉、昔はもっと素敵な意味があったはず。無心で動ける身体をつくるのが大事。
給湯流:刀と言えば、殺陣(たて)も習っていたのですよね?
阿部:高校生のときに習っていました。木刀を使ったのですが、とても重い。重いものを持ってのろのろ動いていると相手に刺されてしまう。だから、木刀の先を中心にして動けと先生に言われました。刀と一体になって動く。そうすれば効率的に体も動かせる、ということだと思います。この話はとても勉強になりました。
給湯流:普段アーティストとしてやってらっしゃるダンスは、人間中心。ダンスと殺陣は全然違うのですね。
阿部:無駄な動きをせずに、刀と共に動く型を徹底的に覚える。いざ戦うときは無心で動けるように、型にハマる必要があると思います。
給湯流:今は、「型にハマる」という言葉は悪い意味で使われることが多いですよね。個性とか自分らしさ、という言葉が強調される時代ですから、現代は……。
阿部:昔は「型にハマる」という言葉に、もっと素敵なニュアンスがあったのでしょうね。頭で考えながら動いていたら、殺陣のリアルさも無くなる。無心で動いて戦に勝つために、武士は一生懸命、型を体に入れたのだと思います。
給湯流:なるほど!! 型は、単に伝統を守るためではなく、戦で勝つ手段なのですね。目からウロコです。今日は楽しいお話、ありがとうございました。
阿部さんはほかにも、いろいろなジャンルの日本文化についてお話してくださいました。これからの連載で、どんどんご紹介していきます。乞うご期待!
インタビュー・本文/給湯流茶道 写真/篠原宏明 スタイリング/阿部顕嵐(私物) 撮影協力/永青文庫
永青文庫 展覧会情報
揃い踏み 細川の名刀たち―永青文庫の国宝登場―
永青文庫の設立者・細川護立(1883~1970)は、禅僧の書画や近代絵画、東洋美術のみならず、稀代の刀剣コレクターとしても知られます。国宝全4口をはじめ、「刀 銘 濃州関住兼定作(歌仙兼定)」など護立の眼によって集められた名刀を蒐集エピソードとともに展覧します。あわせて、肥後金工の鐔など精緻な刀装具の世界も紹介します。
会期:2023年1月14日(土)~5月7日(日)※日時指定予約制
▼詳細は公式サイトにてご確認ください
「揃い踏み 細川の名刀たち ―永青文庫の国宝登場―」
細川家の茶道具 ―千利休と細川三斎―
永青文庫には大名家伝来の様々な茶道具が所蔵されています。本展では、千利休(1522~1591)が所持していた「唐物尻膨茶入 利休尻ふくら」や「瓢花入 銘 顔回」をはじめ、利休と細川三斎(1563~1645)ゆかりの名品を中心に、細川家に伝わる茶道具の数々を展覧。さらに、2021年に発見された、武将茶人・古田織部(ふるたおりべ)(1544~1615)から細川三斎に宛てた貴重な手紙を初公開するほか、今年は細川家にゆかりの深い沢庵宗彭(たくあんそうほう)(1573~1645)の生誕450年にあたることから、沢庵の墨蹟を特別に展示します。
会期:2023年5月20日(土)~7月17日(月・祝)
▼詳細は公式サイトにてご確認ください
「細川家の茶道具 ―千利休と細川三斎―」
クラウドファンディングも実施中
細川家伝来の甲冑を未来に繋ぐためのクラウドファンディングも実施中です。
期間:~2023年5月8日(月)23:00まで
▼プロジェクトの詳細、寄付はこちら
史上最大のキリシタン一揆・島原の乱出陣の鎧|文化財修理プロジェクト
阿部顕嵐 お知らせ
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『ラビット・ホール』
秋田、福岡、大阪にて公演中。
MORE >>> https://stage.parco.jp/program/rabbithole/