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200年の歴史がある黒門市場
大阪市の中心地、ミナミにある商店街・黒門市場。かつて市場の付近にあったお寺の山門が黒かったことから、「黒門市場」と呼ばれるようになったそうです。全長約580メートルのアーケード下には約150店舗が並び、多くの人で賑わっています。文政5(1822)年頃、毎朝魚商人が集まり魚の売買を始めたのが起源と言われ、200年もの歴史がある市場です。
国立文楽劇場から黒門市場までは徒歩約5、6分の近さなので、織太夫さんは公演やお稽古の合間によく立ち寄られているそうです。
見慣れない大きな籠を持って現れた織太夫さんに、「これは何という籠ですか?」とお尋ねすると、「市場籠(いちばかご)」だと教えていただきました。古くから食のプロたちの買い出し用の籠として、使用されてきたもののよう。「これだと、大きいので買ったものが重ならずに、きれいに入れられて便利なんですよ」。市場籠を下げた織太夫さんは、黒門の提灯の下でオーラを放っておられました! いざお買い物へ!!
織太夫さんが通われているお店が色々!
まず最初に訪れたのは、黒門市場の入り口にある果物屋『松本商店』です。織太夫さんは後輩の技芸員(ぎげいいん)の方たちに、お手製のジャムをプレゼントされる様子を、Xで公開されているのがファンの間で話題です。その材料となる果物は、全てこちらの『松本商店』の物なのだそう。「昨年はいちじくや、いちごをよく購入されていましたね」とお店のご主人に聞きました。この日は、朝食にいつも食べられているキウイやレモンを購入して市場籠の中へ。
続いては、創業明治30年の老舗店『つけもの処・伊勢屋商店』へ。こちらのお店で購入された、べったら漬けや浅漬けなどの写真も、Xでよく公開されています。お店の方とは阿吽の呼吸で、慣れた感じでささっと買われているのが印象的。気心の知れたお店なのだと伝わってきます。
好物の赤かぶらのふすま漬けを購入されて、市場籠の中へとしまわれました。
師匠や、歴代の綱太夫のお墓にお供えするお花は『花とみ』でお願いされるなど、馴染みのお店はまだまだある様子です。
今年もやります!恒例・編集長のファッション解説!
昨年の連載スタート時より、織太夫さんの唯一無二のファッションに、驚きのリアクションをくりかえしてきた『和樂web』鈴木 深編集長。新年を飾るのは大阪・黒門市場でのお買い物コーデです。さて編集長の反応や、いかに!?
ファッション解説・鈴木 深
「勝手にファッション解説」、今回もやらせていただきます。いや~、今回はヤバイですね~。スゴイですね~。これまでのヤバさとは次元が全く違います。今までの織太夫さんのファッションを“ド変態スタイル”とするならば、今回はまるで地球に墜ちてきた“エイリアン(おりアン)スタイル”です。もはやアナザーワールドの住人の着こなし!
ヤバ~イ匂いがプンプンするこのセットアップは、「ナイロンキルトダウンジャケット」と「ナイロンキルトダウントラウザー」。どうやら軍もののナイロン素材でダウンを内蔵する、非常に暖かな(月にも行けそうな)逸品。織太夫さん特注の、もちろん世界で1着だけのこのセットアップは、名付けるならば「エイリアン(おりアン)スーツ」とでも言っておきましょうか。
セットアップの内側にダウンを固定するために施されたダイヤモンドステッチは大きめ3インチ角のド迫力で、なんだかケンカが強そうな風情です(笑)。トラウザーの左右の角形ポケットは非常に大きく、武器でも隠してませんか?とツッコミをいれたくなります。見た目のインパクト以上に、機能性がバツグンのこのスーツ。ボリュームたっぷりのダウンが全身を暖かく守ってくれます。キルティングジャケットの首元と手首のリブは、「C‐2ベスト」という米軍が超高度で戦闘機に乗る時に着用するニットベストのリブ素材を採用。手首や首元の暖かさも抜かりありません。
あわせたマウンテンブーツは、軽くて丈夫なダナーライト。もともとは森林伐採職人のためのタフなブーツですが、ブーツのレースはオリジナルの黒ではなく、織太夫さん好みのブルー系にエレガントにアレンジされています。中に着ているサーマル・ニットは、「U.S.ARMY MILITARY THERMALSHIRT」ですが、この特注ジャケットの着丈に合わせてかなり短めにカットされています。われらが太夫は「ジャケットの下からニットがはみ出る」なんてだらしない着こなしは絶対に許しません! この丈短ニットは、ひたすらこのジャケットを着るためだけに存在するアイテムなんです。
そして手持ちの大きめバッグは、まさかの「市場籠(いちばかご)」!!よくお鮨やさんが早朝に魚河岸へ食材を買いに行くときに使う、竹素材の編み込みカゴバッグです。太夫いわく「この籠は、買った物をおりまげず重ねすぎず持ち運べて、食材を痛めず、とっても便利❤」とのこと。織さま、まさかこのかっこうで野菜とか買いに行ってたのか~(爆笑)。
このエイリアン(おりアン)スーツを身にまとい、さらにスーツと同色のオリ(織)ーブカラーのニットグローブとマフラーで完全防備した織太夫さんは、六甲おろしをものともせず、チャリでビュンビュン飛ばす模様。もしもそんな太夫を見かけたら、絶対近づかずとにかく道を空けましょう。まんがいち接触して市場籠の中の大事な食材を傷つけたら大変です。
ちなみにこのようなスーツは、エイリアン(おりアン)しか着こなせません。少なくともフツーの地球の住人は、絶対マネしてはいけません。
取材・文/瓦谷登貴子 取材協力/松本商店、伊勢屋商店