天然の糸寒天と里山の水の美味なる出合い
なめらかな舌触りと小豆の濃さ。このふたつを同時に満たす水羊羹をつくるのは、そう簡単にはいきません。小豆の風味を残し、濃厚に仕立てたこしあんと寒天のギリギリのバランスを狙いたい。そう考える「叶 匠壽庵」がたどり着いたのが、長野県・伊那(いな)に拠点を置く「小笠原商店」の糸寒天でした。
南アルプスの麓に広がる伊那地方は、江戸時代から寒天づくりが盛んな地。冬は晴天の日が多く、冷たい空っ風が吹きます。昼夜の寒暖差を利用して、煮溶かした天草からゆっくりと水分を抜いていくのが昔ながらの製法。ミネラル豊富な山からの伏流水も加わって、しっかりと弾力がありながら、歯切れが良くなめらかな糸寒天ができるそう。この糸寒天の中でも、「上寒天」を贅沢にも使うのが「叶 匠壽庵」の水羊羹であり、その味の根本を支える水は、菓子づくりを行う「寿長生の郷」を流れています。
農園を持つ工場から発信する循環する菓子づくり
「寿長生の郷」とは、「叶 匠寿庵」が所有する6万3千坪にも広がる里山のこと。滋賀県大津市の最南端、山と丘陵に囲まれ、清流の流れる大石龍門(おおいしりゅうもん)にあります。創業地の大津市長等(ながら)から、工場を含むすべての拠点を里山に移したのが、昭和60(1985)年のこと。「和菓子づくりは素材づくり。農工ひとつ」の考えのもと、大石の山林を開墾して今に至ります。
菓子づくりに不可欠な水は、地元・又ケ谷(またがだに)から引き、菓子の素材となる果樹などの栽培に活用するだけでなく、工場でも使用。そこから排出された水は敷地内にある浄化施設へと送られます。さらに、こしあんの製造時に生じる小豆の外皮は、間伐材のくずとあわせて堆肥となり、畑へ。このように、「寿長生の郷」と里山が循環し、環境が保たれているのでした。自然の厳しさ、恵みを肌で感じる環境に身を置く「叶 匠壽庵」のスタッフだからこそ、「水は菓子の命。菓子の味を決めるもの」という言葉に重みがあります。
2023年、「寿長生の郷」は「生物多様性の保全が図られている区域」として、国の定める「自然共生サイト」に認定。各地域の生産農家と連携しつつ、より良い原材料の生産とさらなる循環する菓子づくりに期待が高まります。
天然糸寒天、北海道小豆、里山の清流が出合って、みずみずしい水羊羹が生まれる
錦玉羹「夏の玉露地」がリニューアル! 水羊羹とともに、夏の贈り物に
水を打った露地をモチーフに、新しい「夏の玉露地(たまろじ)」の提供がこの夏より開始。透き通る錦玉羹(きんぎょくかん)の中にやわらかな餅、粒よりの大納言小豆と白小豆を閉じ込めました。冷やして味わえば、打ち水のご
とく、清らかな心もちになることでしょう。
問い合わせ先
叶 匠壽庵 お客様センター
0120-257-310
公式サイト
撮影/石井宏明 スタイリスト/城 素穂 構成/藤田 優